GM
*お茶会 ラウンド2 イチハ
イチハ
1d12 (1D12) > 12
GM
12:前と同じ客だ。すっかりあなたをお気に入りにしている。
ナオ
扉を開けたのは、うさぎのぬいぐるみだった。
ナオ
ぽてぽてと部屋の中央までやってきて、かわいらしくあなたに手を振る。
ナオ
開いた扉の隙間から、すこしだけ顔を出して。
ナオ
「……怒ってる?」
イチハ
ぬいぐるみに手を振り返す。
イチハ
「怒るようなことをした?」
ナオ
「したよ」
イチハ
「じゃあ、怒ってるんじゃないかしら」
イチハ
いつも通り、言葉遊びのようなやりとり。
ナオ
遊びなんかじゃないよ。
ナオ
なんにも楽しくないだろ。
イチハ
楽しくないのに、来るの?
ナオ
そっと部屋の中に入る。
イチハ
来てほしいって、言ったから?
ナオ
「一人で泣いてないか、心配だったんだ」
イチハ
「かなしいことなんて、」
イチハ
「何もないわ」
イチハ
それでも、いつものように。
イチハ
零れる雫。
ナオ
「悲しくなくても涙は出るものだよ」
ナオ
うん、うん、とぬいぐるみも頷く。
イチハ
「そうかもしれない」
イチハ
雫を指先で弾いた。
ナオ
「ねえ……」
ナオ
「なんでこんなに甘いにおいがするの?」
イチハ
「そういう風に出来ているのよ」
ナオ
ベッドの端に肘を付く。
イチハ
「……愛されるように。」
イチハ
ちがう。
イチハ
ちがう。
イチハ
愛されたから、
イチハ
そして、喪ったから。
ナオ
「そう……」
イチハ
「甘い香りは、すき?」
ナオ
手を伸ばして、あなたの頬まで垂れた雫を拭う。
ナオ
「好きだよ」
ナオ
「でも」
ナオ
「君を好きになった理由は、そうじゃない」
イチハ
その手の甲を擽るように撫でる。
イチハ
「どうしてか、聞いてもいい?」
イチハ
柔らかな声。
ナオ
「はじめは……」
ナオ
「おれのごっこ遊びに、付き合ってくれそうだからって」
ナオ
「そういう理由だったよ」
ナオ
されるがまま。
ナオ
瞼は眠そうに落ちている。
イチハ
返事の代わりに、肌を撫でる。
ナオ
「そういう理由だったけど、びっくりした」
ナオ
「こんなにごっこ遊びがへただとは思わなくて」
イチハ
「だって、」
イチハ
「ごっこ遊びをするような」
イチハ
「ともだちがいなかった」
ナオ
「おれはね」
イチハ
微かに笑う。
ナオ
「ぜんぶごっこ遊びってことにされた」
ナオ
「手を繋ぐことも、ハグも、くちづけも」
イチハ
「ごっこあそびは、」
イチハ
「いつわり、だものね」
イチハ
「あなたにとっての真実は全部」
ナオ
「だからちゃんと、いつわりだって割り切ってたほうが」
ナオ
「安心できたんだよ」
イチハ
「うそで塗りつぶされた」
ナオ
「いつわりだもの」
ナオ
「うそで塗りつぶされた……」
イチハ
「それを安心と、名前を付けて」
イチハ
「あなたは満足したつもりだったのね。」
ナオ
頷く。
ナオ
「きみは……」
ナオ
「じぶんで思ってるより、素直で」
ナオ
「無垢で、かわいい女の子だよ」
イチハ
「………、」
ナオ
「そういうふうに嘘で自分を傷つけるすがたも……」
ナオ
「おれから見たら、あまりにも純粋だ」
イチハ
「だったら、」
イチハ
するりと、すべるゆびさき。
イチハ
かすかに、爪が肌を掻く。
イチハ
*ナオの心の疵『つぎはぎ』を舐めます。
クエストは1
イチハ
2d6+0=>7 判定(+猟奇) (2D6+0>=7) > 8[5,3]+0 > 8 > 成功
GM
成功ですね。何番のクエストをさせますか?
イチハ
*クエストno5で
GM
わかりました。クエストNo.5……心を解く。
イチハ
そのまま、その指が絡んだ。
イチハ
ついと──引く。
イチハ
「あなたが、私に。」
ナオ
顔を上げる。
イチハ
「嘘の吐き方を教えて?」
ナオ
「おれが?」
イチハ
「そう。」
ナオ
うさぎのぬいぐるみがうんうん、とベッドサイドで頷いている。
イチハ
「だましかた」
イチハ
「上手い言い訳」
イチハ
「あなたはお上手なんでしょう?」
ナオ
「そんなことしなくていい」
イチハ
「だって、そうしてみたら」
イチハ
「すこしくらい、」
イチハ
「あなたのことが分かって」
イチハ
「愛してあげられるかもしれない」
イチハ
こころにもないこと。
イチハ
だけど、
イチハ
知りたいのは本当。
イチハ
あなたのその、つぎはぎの向こう。
イチハ
ほんとのあなたの姿。
GM
知って何になるの?
イチハ
「私が、そう言われたかったから。」
イチハ
「でも、あなたもそうなのかは分からない」
ナオ
「だましかた」
イチハ
私とあなたは似ているけれど。
ナオ
「上手い言い訳」
イチハ
私はあなたではない。
ナオ
「……相手のしたいことを」
ナオ
「自分のよろこびと、偽るんだ」
GM
あなたはこの子じゃないわ。
ナオ
ベッドに座り直す。
ナオ
ぐっと近くなる距離、体温
ナオ
「人を騙そうと思うんじゃない」
ナオ
「自分を騙すんだよ」
イチハ
「うん」
イチハ
それを望んだのは、
イチハ
誰だった?
GM
あなたはこの子じゃないわ。
イチハ
そうさせたのは、
イチハ
他でもない私!
GM
あなたの罪。
ナオ
「でも、真似てほしくないな」
イチハ
わたしの罪。
ナオ
「ほんとうの自分が、わからなくなるよ」
イチハ
「どうして?」
GM
かわいそうな子。
イチハ
「本当の自分なんてもう、」
イチハ
「何処にもいないわ」
ナオ
首を横に振る。
ナオ
「そう思っているのはきみだけだよ」
ナオ
「きみは無垢で、純粋で、素直で」
ナオ
「ちゃんと、きみはきみだよ」
イチハ
埃をかぶった、欠けた像。
イチハ
二人で踊った教会の、
イチハ
足跡はもう、とっくに消え去っているだろう。
ナオ
「きみの……」
ナオ
「きみのすきな人が、すきだったきみのままで、いさせてあげたい」
ナオ
「それが、おれの喜び」
ナオ
「ということにすること」
ナオ
暖かいからだがすぐとなりにある。
GM
あなたは嘘でもそんな言葉はいえない。
GM
かわいそうな子だから。
ナオ
暖かくて、二人でいるのに
イチハ
わたしは嘘でもそんな言葉はいえない。
ナオ
どんどん冷えていく。
ナオ
「だからいまでは、本当のじぶんの気持ちなんてものが」
ナオ
「わからないな……」
イチハ
「じゃあ、おなじね」
ナオ
「おれはきみにどうしてほしいんだろう?」
イチハ
「わからないものどうし、」
イチハ
「自分を見失ってしまったもの同士、」
イチハ
「かたちを確かめ合うというのは、」
イチハ
「可笑しな提案かしら?」
イチハ
手を招く。
ナオ
招かれるままに。
イチハ
誘う手。
ナオ
「でもきみは……」
ナオ
「すきなひとがいるんだろう」
ナオ
「こんなの、よくないよ」
ナオ
「間違っている」
イチハ
「……あなたは、したくない?」
イチハ
ささやく、甘い声。
イチハ
その、つぎはぎをなぞる。
ナオ
赤く太い毛糸。
ナオ
「そうしたら」
ナオ
「きみは」
ナオ
「泣くだろう」
イチハ
赤い糸、絆の──縁の色。
イチハ
運命の赤い糸のおはなし。
イチハ
「でも、」
イチハ
「すきなひとが腕の中で泣いてくれるのは」
イチハ
「きっと、嬉しいことよ」
イチハ
そして、
イチハ
いつかの、
イチハ
ことばを、また。
ナオ
「そんな……」
ナオ
手を掴む。
ナオ
反転する視界。
ナオ
乱暴に、いつかの一人目のように。
ナオ
組み伏せている。
ナオ
「これが嬉しいことだって言うのか」
イチハ
「あなたが咎めなければ」
イチハ
「罪にはならないのよ」
GM
コインを持つ救世主の力には抗えない。
ナオ
「なるよ。咎めるから」
イチハ
「そして、私が厭わなければ」
GM
ベッドは軋む。
イチハ
「罰にはなりえない」
ナオ
「きみを好きなひとが、泣くよ」
イチハ
「ここにはいないのに?」
ナオ
「こんなふうに……きみがいいように、使われることを」
ナオ
「知って、心を痛めるに違いないんだ」
イチハ
「知りようもないのに!」
ナオ
「この」
イチハ
嘲笑うように、
ナオ
「おれみたいに……」
イチハ
言葉を吐く。
イチハ
「なんで、泣いているの?」
ナオ
嗚咽する。なまあたたい雫がふりかかる。
ナオ
「君がすきだから」
GM
わかっているくせに。
イチハ
「苦しいの?悲しいの?」
GM
わかっているくせに。
イチハ
なにひとつ、わからない。
ナオ
「きみがすきだから、苦しくて悲しい」
GM
かわいそうな子。
ナオ
「こんなふうに……」
イチハ
ウィル、ウィル。
GM
かわいそうな子。
ナオ
「お金を払って、代金ぶんだけで」
イチハ
あなたを愛しいと思う感情が、
イチハ
他の想いを焼き尽くしてしまった。
ナオ
「きみの形ばかりの同意を得て……」
ナオ
「この気持ち悪いからだで」
GM
5分の4の亡者。
ナオ
「嘘を塗りたくって……」
イチハ
「あなたの中には、」
イチハ
「違う自分が居る?」
イチハ
「それをつぎはぎで覆って」
イチハ
「押し隠している……?」
ナオ
「きみがそう思うならそうだ」
ナオ
「でも、ほんとうにいちばん、つらいのは」
イチハ
「……だったら、おなじね」
イチハ
つぎはぎをひとつひとつ。
ナオ
「きみには好きなひとがいるのに、こんなことをしなければいけない立場に」
イチハ
確かめるように辿る。
ナオ
「追い込まれていることなんだよ……」
イチハ
「私は、私の中のかいぶつを」
イチハ
「無垢な表情とやさしいことばで」
イチハ
「隠しているのよ」
イチハ
あさましい。
GM
かわいそうな子。
イチハ
とてもみにくい。
イチハ
かわいそうな子。
GM
やさしさを受け取ることのできない。
イチハ
やさしさを受け取ることのできない。
GM
愛を拒むことしかできない。
ナオ
「じゃあ、おれは」
イチハ
愛を拒むことしかできない!
ナオ
「きみのかいぶつになって、泣いてあげる」
GM
こんなに狭い部屋なのに。
イチハ
こんなに狭い部屋なのに。
イチハ
ふたりとも、こんなに遠くにいる。
ナオ
「こんなふうになりたくなかった」
GM
ふたりともたった一人。
イチハ
「泣いてくれる?」
ナオ
「こんなふうになりたくなかったよ……」
ナオ
泣いている。
イチハ
ふたつの、空っぽの皿。
ナオ
掴む手は弱り。
イチハ
そのぶん、力を籠める。
イチハ
「噛みついて、」
イチハ
「めちゃくちゃにしていいの」
イチハ
「切り裂いて、」
ナオ
「しない」
イチハ
「ずたずたにしたっていい」
ナオ
「しない」
イチハ
「あなたが、あなたの、」
イチハ
「飲み込んだ苦しみを」
イチハ
「やるせなさを」
イチハ
「ぶつけてもいいの」
イチハ
ここはそういう場所だから。
ナオ
「絶対に、しない」
ナオ
「君は道具じゃない」
GM
そうされたいのはあなた。
イチハ
そうされたいのはわたし。
イチハ
やさしくされるよりずっといいわ。
ナオ
そっと引き寄せて、抱きしめた。
GM
そうして世界を残酷なものにしなければ。
ナオ
ただそれだけだった。
GM
あなたは自分の憐憫を果たせないだけ。
ナオ
「おれはきみのかいぶつだ」
ナオ
「きみのかいぶつは」
ナオ
「やさしくてふわふわで」
イチハ
「あなたはわたしのかいぶつ」
ナオ
「きみがしあわせになれればいいと……」
GM
本当に残酷なのは世界よりも。
イチハ
「やさしくてふわふわで」
ナオ
「そうおもってる……」
GM
あなたのほうであるのに。
イチハ
「わたしのしあわせを、」
イチハ
「願ってくれる。」
イチハ
どうして。
イチハ
……どうして!
GM
かわいそうな子。
ナオ
ベッドサイドでふわふわのぬいぐるみが、
ナオ
ふわふわの耳を動かした。
GM
何もかもが思い通りに運んでいるはずなのにね。
イチハ
もっと、賢しくて。
イチハ
もしくは、おろかで。
イチハ
あなたが、何も知らなくて。
イチハ
または、全てを知っていたら。
イチハ
私の脚に斧は振り降ろされて。
イチハ
物語の幕は落ちていたはず。
イチハ
なのに、こうして。
イチハ
やさしくて、あいされたいかいぶつが。
ナオ
「イチハ、きみが好きだ」
イチハ
やわらかく怪物を抱いている。
イチハ
ほんものの、怪物を。
イチハ
「好きになれたらよかった」
イチハ
愛してあげられたら良かった。
ナオ
「ならなくていい」
イチハ
かいぶつの、やさしいこころが。
ナオ
「おれが勝手にそばにいるだけでいいよ」
イチハ
あいされたいと、なくこえが。
ナオ
「きみはすきなときに、離れるようになれたらいい」
ナオ
「それが」
イチハ
重なって、でもそれは。
イチハ
不協和音にしかならない。
ナオ
「おれは、得意だから」
ナオ
「それがおれの、よろこびだから」
GM
かわいそうな子。
ナオ
「おれの、つぎはぎだから」
イチハ
「かわいそうな子」
イチハ
「あいされるために、つぎはぎになったのに」
GM
あなたなんか忘れて、別の子のところにいけばいいのにね。
イチハ
「そのつぎはぎが、」
イチハ
「あなたの愛の邪魔をする」
イチハ
心が痛めばよかった。
ナオ
「してないよ」
イチハ
最悪感を感じられれば良かった。
ナオ
「おれが愛するだけなら」
ナオ
「なんの邪魔にもならないだろ」
イチハ
「それでは、あなたは」
イチハ
「ずっとひとりぼっちのままだわ」
ナオ
「そうだね」
GM
あなたは彼に気を狂わされることはない。
ナオ
「よかった、それで」
イチハ
こんなことを、言わなくていいのに。
ナオ
つよく抱きしめる。
ナオ
それでも、壊れないように。
ナオ
末裔はやわらかすぎるから。
イチハ
化物の心は冷たすぎるのに。
ナオ
「きみの気持ちに寄り添えない、ふたりぼっちなんていらないから」
ナオ
「たまに手をのばして、撫でてくれるだけでいいよ」
イチハ
あなたは、その柔らかな手で。
イチハ
暴くでもなく、優しく撫でていく。
ナオ
「きみのこころのいちばん大事なところには、おいておかないで」
ナオ
「おれはベッドサイドでいい」
GM
あなたはこの子ではない。
GM
あなたはなれない。
イチハ
私は怪物だ。
イチハ
正真正銘の。
ナオ
「きみの本質は」
ナオ
「怪物ではないから」
イチハ
そうであるならよかった。
ナオ
だから、ベッドサイドにおいて、撫でるくらいでいいよ。
イチハ
でも、そうだったなら。
ナオ
何回でも呟いた。
ナオ
「きみはかわいい女の子」
イチハ
この部屋に来て──あなたと出会うことは無かったのよ。
ナオ
「無垢で、素直で、純真で」
ナオ
「だいじょうぶだよ」
イチハ
もう、返事はない。
ナオ
「だいじょうぶだよ……」
ナオ
あやすように背中を撫でる。
イチハ
抱き締めて、まるで。
イチハ
甘える子供のように。
イチハ
すがりついている。
イチハ
どうしようもない。
イチハ
何処にも行けない。
イチハ
──あなたとでは。
ナオ
付き合ってあげる。
ナオ
その、どこにもいけなさに。
イチハ
ここを出る日まで。
イチハ
一緒に、とどまってくれる?
イチハ
愛せやしない。
イチハ
好きにもならない。
イチハ
そんな私のベッドサイドに、
イチハ
ぬいぐるみがひとつ、増えた。
ナオ
愛せないぶんだけ、愛するよ。
ナオ
好きになれないぶんだけ、好きになるよ。
ナオ
おれはきみの怪物。
ナオ
さみしいきみの、怪物だ。
[ ナオ ] つぎはぎ : 0 → 1
GM
GM
*お茶会 ラウンド2 ナオ
GM
他の客を取ることはなく、ナオは連日やってくる。
ナオ
「やあ」
ナオ
足元には例のぬいぐるみ。
ナオ
ぱっ、と手をひらいてよろこびのジェスチャー。
イチハ
「いらっしゃい」
ナオ
「他に誰か来た?」
イチハ
「来なかったわ」
ナオ
部屋に荷物を置く姿も、慣れた雰囲気だ。
イチハ
おかげで、少し眠れた。
ナオ
勝手知ったる、湿った部屋。
ナオ
自分の宿より長く居る気がする。
GM
救世主が贔屓しているとわかれば、末裔は手出ししない。
ナオ
「よかった」
イチハ
「あなたがきてから随分と」
イチハ
「穏やかになったわ」
ナオ
「よかった」
ナオ
「きみにかりそめでも、穏やかな時間をあげられて」
ナオ
「……また、泣いた?」
イチハ
「……すこしだけ。」
イチハ
化物の体は、勝手に涙を流す。
GM
自分がかわいそうで仕方がなくて。
ナオ
「大丈夫だよ」
GM
なんてかわいそうな子。
イチハ
「あなたの声は、安心する」
ナオ
「そういうふうに作ったから」
イチハ
それはもう、完全な嘘ではない。
イチハ
わずかな、ほんとう。
ナオ
「よかった。そういうふうに、作って」
ナオ
上着を脱いで折りたたむ。
ナオ
ナオは、男性にしては。
ナオ
ところどころの仕草ややりかたが、丁寧だ。
ナオ
「泣いていけないなんてことはない」
イチハ
「ものを丁寧に扱うのね」
イチハ
それを見ている。
イチハ
それを見てきた。
ナオ
「たたまないとシワになっちゃうからね」
ナオ
「布をさわるときは、職業柄……? ちょっと慎重になる」
ナオ
同意するようにぬいぐるみが跳ねた。
イチハ
「なんだか、女の子みたいね」
ナオ
そして、まち針のレイピアも。
ナオ
荷物と一緒に置いてしまう。
イチハ
息を吐くように笑った。
ナオ
はじめはそれは、戦略だった。
ナオ
心をゆるして、無害だと思われるように。
ナオ
かんたんでおろかなものだと思われるように。
ナオ
いまはもう、それだけじゃない。
ナオ
「女の子かあ」
ナオ
それ以上の言葉はない。
イチハ
「私はあなたのやさしいところ」
イチハ
「嫌いじゃないのよ」
ナオ
ベッドサイドに伸ばされた見えない手が、心を撫でていく。
イチハ
ずいぶんと、前よりも。
イチハ
不自然な笑顔が減った。
イチハ
ふわふわのかいぶつは、ベッドの傍。
ナオ
「きみの嫌いじゃないものが、増えてよかった」
イチハ
ひとりぼっちの鳥をいつも慰めている。
イチハ
そのやわらかさで以て。
イチハ
「ありがとう」
ナオ
「え……」
イチハ
「わたしのかいぶつさん」
ナオ
「……どういたしまして」
イチハ
呼ぶ声は、柔らかな絹の手触り。
ナオ
ふわふわのあまい声。
ナオ
いいにおい。
ナオ
おれには手に入らないすべて。
ナオ
手に入らなくて良かった。
イチハ
さいしょは、だまして。
イチハ
つきはなして、
イチハ
騙されてくれないかと思った。
イチハ
けど、現実はそんなに甘くなくて。
ナオ
ベッドが軋む。 恋人というより、親しいともだちと内緒話をするようなしぐさで座る。
イチハ
でも、
イチハ
その結果が、これだ。
イチハ
いつものように、その指を乞う。
ナオ
触る。繋ぐ。
イチハ
こっちのみずは、あまい。
ナオ
こころがいたい。でもそれでいい。
ナオ
おれは怪物。
イチハ
指を絡めて、つないで。
ナオ
この子の怪物。
イチハ
でも、ずっと。
ナオ
この子の幸せのためなら、どんなこともしてあげる。
イチハ
あなたとほんとうに手を繋げない。
ナオ
ぬいぐるみの手じゃあね。
ナオ
「ね」
イチハ
かいぶつの手じゃあね。
ナオ
「きみの好きな人の話」
ナオ
「聞いてはいけないかな」
ナオ
「もう、ばかな真似はしないからさ」
イチハ
「………むかし、むかし。」
イチハ
返事の代わりにこぼれたのは。
イチハ
御伽噺の為の言葉。
ナオ
耳を傾ける。
ナオ
ゆるく指をからめながら。
イチハ
「あるところに、女の子がいました。」
イチハ
「女の子は、ずっと誰かの顔色ばかり見て」
イチハ
「ずっと、誰かの願いばかりかなえて」
イチハ
「だれかの、声だけを標に」
イチハ
「生きてきたのです」
ナオ
自分の話みたいだ。
ナオ
自分の。
GM
まだ本当に、かわいそうなだけだった女の子。
イチハ
「ある日、些細なきっかけで」
イチハ
「女の子は、御伽噺の世界を訪れました」
イチハ
「女の子は赤い靴、」
イチハ
「青いカンテラを持って、」
イチハ
「荒んだ世界を歩きました」
イチハ
「そこで。」
イチハ
「王子様に出会いました。」
ナオ
「王子様……」
イチハ
「金の髪、宝石の瞳」
イチハ
「王子様は困っていた女の子をたすけて」
イチハ
「近くの村へと避難させてくれました」
イチハ
「そして、一か月間。」
ナオ
おれは王子様にはなれない。
イチハ
「一緒に居てくれた。」
イチハ
「そう、」
イチハ
「さいごまで。」
ナオ
「さいごまで……?」
ナオ
「女の子は、どうなってしまったの?」
イチハ
「女の子も王子様も」
イチハ
「離れてしまった」
ナオ
「王子様はどこにいるの?」
イチハ
「わからない……」
イチハ
首を振る。
ナオ
「ふたりとも、迷子なんだね」
ナオ
「……おれは思う」
イチハ
「そうかもしれないわね」
ナオ
「ずっと思ってたことがある」
GM
イチハ、あなたは。
ナオ
「イチハ」
ナオ
両手であなたの手を握る。
イチハ
拒みはしない。
GM
イチハ。
ナオ
「こんなところにいちゃいけない」
イチハ
呼ぶ声は聞こえない。
ナオ
「ここはきみときみの気持ちを殺していくだけの牢獄だ」
ナオ
何か、握らされる。
イチハ
「……………。」
ナオ
あなたが手のひらをひらくと。
ナオ
6ペンスコインが、5枚。
ナオ
*イチハの心の疵『砕けた硝子の靴』を舐めます。
クエストno5に挑戦
イチハ
*横槍を入れます
イチハ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
イチハ
2d6+0=>7 判定(+愛) (2D6+0>=7) > 9[5,4]+0 > 9 > 成功
イチハ
1d6 (1D6) > 4
ナオ
*ティーセット使用
[ イチハ ] HP : 14 → 13
[ ナオ ] ティーセット : 1 → 0
ナオ
2d6+3+2-4=>7 判定(+才覚) (2D6+3+2-4>=7) > 6[5,1]+3+2-4 > 7 > 成功
GM
*クエストNo.5 心を解くにより、ナオの凶器は素手に
ナオ
「おれといっしょに、きみの王子様を探しにいこう」
ナオ
「きみがここで緩やかに死んでいくことに、おれは耐えられない」
ナオ
「だっておれは」
ナオ
「きみのことが、なによりも、たいせつで」
ナオ
「なによりもだいじで」
イチハ
いやだ。
イチハ
いやだ……。
ナオ
「きみがきみを傷つけるぶんだけ」
イチハ
大切なわけない。
ナオ
「きみを愛したり、癒やしてあげたいとおもってる」
イチハ
大切だなんて言わないで。
ナオ
「かいぶつなんだよ」
ナオ
「きみのかいぶつなんだ」
イチハ
ほんとうのかいぶつは、
イチハ
このわたし!
イチハ
「それであなたに」
イチハ
「何が返ると云うの」
イチハ
「あなたの手に、何が残ると云うの」
ナオ
「きみが泣かないでいい世界が」
ナオ
「おれの手元に残る」
イチハ
そんなものはない。
イチハ
ここには、ない。
イチハ
この世界には、いいえ。
ナオ
「王子様と女の子が……」
イチハ
きっと、何処にだって!
イチハ
あなたの愛が首を絞める。
ナオ
「ずっといっしょに、しあわせに暮らしましたって」
イチハ
真綿が、私の首を包む。
ナオ
「めでたしめでたしってさ」
イチハ
なるわけがない。
イチハ
なるわけがない。
ナオ
「大丈夫」
イチハ
私はもう、怪物だ。
ナオ
「怖がらないで……」
ナオ
引き寄せる。
ナオ
抱きしめる。
イチハ
ウィル、ウィル。
イチハ
ほんとうはわたし、
イチハ
もどったって、
イチハ
あなたに会ったって、
イチハ
抱き締めて貰える保証がないことを、
イチハ
ほんとうは分かっているのよ!
ナオ
「怖がらなくていいんだよ」
イチハ
抱き締められる。
ナオ
「おれがこんなに君を愛せるくらい」
イチハ
やわらかな抱擁。
ナオ
「きみはかけがえがなくて、大切で」
ナオ
「しあわせになっていい女の子なんだよ」
イチハ
あたたかな抱擁。
イチハ
欲しかった言葉。
ナオ
「大丈夫だよ」
イチハ
──そう、わたしが、
イチハ
怪物でさえなければ!
ナオ
「それが信じられないなら……」
ナオ
「きみのかいぶつが、何度でもそう言ってあげるから」
ナオ
「きみのかいぶつだ、おれは」
ナオ
「……そうでしょう?」
イチハ
「…………っ」
ナオ
「受け取ってくれる?」
ナオ
「おれの心」
イチハ
「どうして………」
ナオ
「おれの、きみを愛おしいと」
ナオ
「たいせつに思う気持ち……」
イチハ
無理よ。
イチハ
無理よ!
GM
末裔であったとしても、傍に救世主がいれば、そのコインの力を引き出すことができます。
ナオ
あなたの手の中には。
ナオ
6ペンスコインが5枚。
イチハ
6ペンスコインが5枚。
GM
あなたの欲しかったもの。
イチハ
私が欲しかったもの。
GM
あなたに必要なもの。
イチハ
わたしに必要なもの。
イチハ
「貰って」
イチハ
「いいの……?」
ナオ
頷く。
イチハ
化物がささやく。
イチハ
……都合がいい。
イチハ
それを咎められるようなら、
イチハ
そんな心があるのなら、
イチハ
私はあの場で死んでいた。
GM
いいえ。
イチハ
「ありがとう……」
イチハ
コインを受け取る。
ナオ
殺されてもいいなと。
ナオ
そう思った。
GM
*ナオはイチハに6ペンスコインを5枚譲渡。
ナオ
たまに撫でてくれるだけでいいよ。
ナオ
たまに、撫でてくれるだけでね。
イチハ
献身は必ずしも、真実の愛に至らない。
ナオ
きみは……
ナオ
うそが下手すぎる……
GM
*イチハは能力値1点を割り振り、ナオは能力値を1点まで減らしてください。
イチハ
それを知っていて、彼は。
ナオ
「大丈夫だよ」
ナオ
「大丈夫」
ナオ
安心させるように背を撫でる。
イチハ
笑わないで。
ナオ
「これからいっぱい、いいことがあるよ」
イチハ
撫でないで。
ナオ
「きみの想像が、つかないくらいに」
イチハ
優しくしないで。
GM
あなたは本当に嘘が下手ね。
イチハ
優しくしないで。
ナオ
「たくさんの楽しいことがあって」
イチハ
そんなわけない。
ナオ
「生きててよかったって思えて」
ナオ
「愛して愛されて」
イチハ
そんなわけない。
ナオ
「そういうふうになれる」
ナオ
「まちがいない。きみのかいぶつが言うんだから、絶対に、そうだから」
イチハ
抱き締める。
イチハ
どうして、
イチハ
どうして。
ナオ
暖かい。
ナオ
やわらかい。
ナオ
心地いい。
ナオ
おそらく、お互いにとって。
ナオ
そうなってしまった。
イチハ
ウィル……ウィル……。
イチハ
私は、
イチハ
あなたを、
イチハ
愛している。
イチハ
愛しているのよ。
[ イチハ ] 砕けた硝子の靴 : 0 → 1
イチハ
でも、でも。
イチハ
あなたの愛した私はもう、
イチハ
損なわれてしまった。
ナオ
そんなことないって言ったろ。
ナオ
信じてくれるまで言い続ける。
イチハ
めでたしめでたしをするには、
イチハ
わたしたちはあまりにも、
イチハ
血を浴びすぎてしまったわ。
ナオ
「大丈夫」
ナオ
「だいじょうぶだってば、あはは」
イチハ
笑い声。
ナオ
「本当に大丈夫なんだよ?」
イチハ
聞いている。
ナオ
「泣いていいよ」
ナオ
「いっぱい傷ついたね」
イチハ
「………たすけて、」
イチハ
「たすけて、」
イチハ
この子を。
イチハ
だれか。
イチハ
わたしのかわりに……。
イチハ
…………。
ナオ
「あと何日なの?」
イチハ
あと何日。
イチハ
彼と会って、
ナオ
「わかっちゃうって、もう、ほんとうに」
ナオ
「大丈夫だって言ったろ……」
イチハ
「きょうで、」
イチハ
掠れた声。
イチハ
「──23日。」
イチハ
奇しくもそれは、
イチハ
物語をまた、辿るような。
ナオ
「あと一週間かあ」
ナオ
背中を撫でる。
イチハ
背筋が凍る。
ナオ
「大丈夫大丈夫」
ナオ
「大丈夫だって言ったら、大丈夫」
ナオ
「……少しのんびりできるね」
ナオ
のんびりしている時間なんてない。
ナオ
「きみのやりたいことをしようか」
イチハ
やりたいこと。
イチハ
ああ、いつかの。
ナオ
「この前亡者を倒したときのお金が、まだ残ってるからさ」
イチハ
蒼い炎が、
イチハ
胸を灼く。
ナオ
「もっとかわいい服を買おう」
ナオ
「王子様のところに行くんだろ」
イチハ
「服は、」
イチハ
「お姫様のためのものよ」
ナオ
「きみはお姫様だよ」
ナオ
「あまいものも食べよう。ケーキは好き?」
イチハ
時計がさかしまに回る。
ナオ
「ケーキっていっても、堕落の国だから、シフォンケーキだけどさあ」
イチハ
ケーキ、甘いもの。
イチハ
ここに来るまで、
ナオ
「おいしいお店が近くにあるの」
イチハ
好きだったもの。
イチハ
「………ええ、」
イチハ
「じゃあ、もし、」
イチハ
「ぶじに、30日目を通り過ぎたら」
イチハ
「一緒に」
イチハ
「行きましょう」
ナオ
「……」
イチハ
そんな事は、ありえない。
イチハ
ありえないのだ。
ナオ
「うん」
ナオ
「ベッドサイドにおれはいるから」
ナオ
「大丈夫だよ」
ナオ
「連れて行って」
イチハ
「………いつまでも?」
イチハ
「ずっと……?」
ナオ
「きみが大切にしてくれるなら」
ナオ
「いつまでも、ずっとだよ」
イチハ
「うん……」
ナオ
「おれはきみのかいぶつだから」
ナオ
「大丈夫だよ……」
イチハ
そっと小指を、差し出す。
ナオ
よかった。
ナオ
お裁縫が趣味で、ほんとうに。
イチハ
「やくそく、ね」
ナオ
「やくそく」
イチハ
酷い物語だ。
イチハ
ひどい、おはなしだ。
ナオ
それをおなじ小指で絡めて。
イチハ
それをこうしたのは、
ナオ
「ゆびきり、げんまん」
イチハ
これを導いたのは、
イチハ
まぎれもなく、私自身だ。
ナオ
「針千本を飲むのは」
ナオ
「おれだけでいい」
イチハ
「ばか」
イチハ
もたれかかるように、
イチハ
体を預ける。
イチハ
「……ばか」
ナオ
「うん」
イチハ
それきり、言葉は途切れて。
イチハ
嗚咽だけが、部屋に転がる。
GM
小さな部屋に、その嗚咽から逃れる場所はありません。
ナオ
背中をやさしく撫でていた。
ナオ
ずっと、ずっと。
GM
もっとも、傍らにいるならば逃れるはずもなくて。
GM
ただ、二人、そこにいました。
GM
GM
30日目。
GM
暗くて、狭くて、湿った部屋。
GM
その部屋には窓がなく、いつも夜。
GM
いつものようにイチハがいて、
GM
ナオが訪ねてくる。
ナオ
「やあ」
ナオ
腕にはぬいぐるみを抱いている。
イチハ
いつものように、零れる雫。
ナオ
ナオのかわりに手を振る。
イチハ
それはもう、自分では拭わなくなった。
イチハ
この一か月。
イチハ
やわらかい手が、
イチハ
いつも拭ってくれていたから。
ナオ
イチハがいつもいるベッド。
ナオ
閉じ込められた鳥に通う鳥。
ナオ
籠へ手を伸ばして、涙を拭ってやった。
イチハ
すっかり、甘い匂いの染みついた。
ナオ
おなじように、ぽふぽふと。
イチハ
いつものやりとり。
ナオ
やわらかい綿のつまった手。
イチハ
やさしい手つき。
イチハ
やわらかい綿のつまった手。
イチハ
体温のないそれは、
イチハ
この体を溶かさない。
ナオ
30日目。
イチハ
30日目。
ナオ
運命のギロチン。
イチハ
運命のギロチン。
ナオ
冷徹な期日。
イチハ
時計の針は、0時を指して。
イチハ
──魔法が解ける時間。
ナオ
ぼおんぼおんと鐘が鳴る。
ナオ
お互いの頭の中で。
イチハ
手を伸ばす。
イチハ
いつものやりとり。
ナオ
こたえる。
イチハ
恋人同士のする行為とは、
イチハ
随分違う、
イチハ
児戯めいたやり取り。
イチハ
それを一月繰り返した。
ナオ
男の子になれば、女の子と繋がれると、
ナオ
あさはかな希望を抱いて、それが叶わず。
イチハ
愛されたり、愛したりしてみたい。
ナオ
それでもいいと、一ヶ月。
ナオ
ばかだっていわれたね。
イチハ
その願いは、届くことのないままに。
イチハ
ばかだって、言った。
イチハ
おろかだって……。
ナオ
「ふふ」
ナオ
わらう。
ナオ
「くすぐったい」
イチハ
「そう?」
イチハ
「あたたかいわ」
イチハ
微笑む。
イチハ
こうして、
イチハ
時を、
イチハ
引き延ばしている。
ナオ
「そうだね」
ナオ
引き伸ばしている。
イチハ
猶予を探って、決定的な時間が来ないように。
ナオ
それがわかっている、お互いに。
イチハ
終わりにしたいんじゃなかったの?
イチハ
殺したいのでは、なかったの?
イチハ
どうして、ひとつき。
イチハ
わたしは待った?
ナオ
きみが女の子だからだよ。
ナオ
きみがやさしくて、素直な女の子だから。
イチハ
おんなのこ。
イチハ
おんなのこは、何で出来ている?
ナオ
「……いろいろ、必要なものを買ってきたんだ」
ナオ
「見てくれる?」
ナオ
リュックサックを漁る。
イチハ
──砂糖とスパイス。脆く崩れる肉体。
そして、瞳から伝う紅茶。
イチハ
目の前に居るのは、化け物だ。
イチハ
あなたが知らないだけ。
イチハ
「なあに?」
ナオ
自分のお下がりの、女物の着替え。水筒。なけなしの食料。
ナオ
コンパスに、地図。
イチハ
外へ行くための。
イチハ
生きるための道具。
ナオ
あとは路銀の詰まった袋とか。
イチハ
「…………。」
ナオ
そもそも自分の荷物そのものとか。
イチハ
30日の向こうへ?
ナオ
地図を広げる。
イチハ
翼もないのに。
ナオ
「ここから西のほうに行くと、もう少し大きい街があって」
イチハ
「うん」
イチハ
30日目。
イチハ
30日目なのよ。
ナオ
「そこでなら、しばらくは困らないと思う。」
ナオ
「君の探している人の噂も、もしかしたら聞けるかもしれない……」
ナオ
ルートはこっち、馬車を借りよう。路銀はまだ大丈夫。
ナオ
これでも貯金してあるからね。
イチハ
どうして、今日なの。
ナオ
そんな話。
イチハ
どうして、
イチハ
今日で終わりなのよ。
GM
わかっていたはず。
ナオ
終わりじゃないってば。
ナオ
まったく君ったら。
イチハ
……あなたの手を取れない。
ナオ
「いちおう服は揃えたけど、あんまりかわいくなくてごめんね」
GM
愛することの重みを。
ナオ
「かわいいやつはさ、君とおれとで選ぼう」
イチハ
愛してるからわかる。
GM
愛されることの重みを。
イチハ
あなたではないひとを。
ナオ
「きっときみの好きな人も、喜んでくれるやつ」
イチハ
服を選ぶ約束。
イチハ
ケーキを食べる約束。
ナオ
「ああ、あとそう。ハンカチね」
イチハ
降り積もる約束は白雪のように。
イチハ
きっと、でも。
ナオ
「きみが思い切り泣いてもいいようにさ」
イチハ
それは、熱に触れれば、
イチハ
消えてしまう。
イチハ
「ずいぶん、お金持ちなのね」
ナオ
じゃ~ん! と手にもってぬいぐるみが見せてくる。
イチハ
おかしいような、笑っているような。
イチハ
声を作る。
ナオ
「布を作れたり縫ったりできると、案外ね」
ナオ
「みんなそういうの無くて困ってるから」
イチハ
「……あなたのその力は、」
イチハ
「そういう意味でも、人を助けたのね」
GM
何にもならない言葉。
イチハ
これで、機嫌を取ったつもり。
イチハ
違うのよ。
ナオ
「どうかなあ」
イチハ
今回は、違う。
ナオ
「おれはきみがいちばん大事だからな……」
イチハ
今から、きっと。
イチハ
奪うだろう重みを。
イチハ
確認している。
ナオ
それから、と。
イチハ
「……………」
ナオ
まるでお菓子でも手渡すように。
ナオ
自分の武器を渡した。
ナオ
とても軽い剣。
イチハ
渡される。
ナオ
おもちゃのようなレイピア。
イチハ
どうしてと、視線が問う。
ナオ
「きみが持ってくれなくちゃ」
イチハ
「どうして、」
イチハ
「あなたの、」
ナオ
「あげる」
イチハ
「あなたが、」
ナオ
奪われるんじゃない。
ナオ
あげるんだ。
イチハ
「使わないと」
イチハ
どうして。
ナオ
「あげる」
イチハ
奪わせてもくれない。
ナオ
あれも、これも。
ナオ
ぜんぶあげる。
イチハ
あなたはその笑みですべて、
イチハ
私の掌に載せていく。
ナオ
ふわふわのぬいぐるみがあなたの膝に飛び乗る。
ナオ
それだってあげる。
イチハ
あなたの手の中のものを、ひとつずつ。
ナオ
「おれだよ」
ナオ
「おれをあげる」
イチハ
「何を、言ってるの?」
GM
何故。どうして。
イチハ
「あなたはそこにいるじゃない」
GM
わかっているはず。
ナオ
「いっしょに行くんでしょ?」
ナオ
首を傾げる。
ナオ
「連れて行ってくれよ」
イチハ
「………、」
GM
愛されたから。
GM
愛されているから。
ナオ
「大丈夫」
イチハ
愛なんて、愛なんて。
イチハ
碌なものじゃないわ。
イチハ
そうでしょう!
GM
だから、あなたのために心付けを渡す。
ナオ
「大丈夫だよ」
イチハ
そうだって言ってよ……。
GM
だから、あなたのために心を開く。
イチハ
だれか。
ナオ
「大丈夫」
イチハ
わたしのため、
ナオ
両腕を広げる。
イチハ
ぜんぶ、わたしのため。
GM
だから、あなたのために心を染める。
ナオ
だきしめてあげる。
イチハ
献身。
GM
だから、あなたのために心を解く。
イチハ
見返りを求めない。
ナオ
「なんにも心配ないよ」
イチハ
それが、それだけ。
イチハ
胸を刺すか。
ナオ
「王子様をいっしょに探しに行こう」
ナオ
「こわくない、こわくない」
ナオ
「きみが望むなら、ぬいぐるみでも白馬でも馬車でも」
GM
イチハ。あなたはいつでもこの部屋の物語を終わらせることができました。
ナオ
「なんだってなれるからさ、おれは」
イチハ
あなたがそこに、いたいと願ったなら。
GM
あなたにしか出来ません。
イチハ
拒絶も出来たのに。
GM
あなたが終わらせると決めたとき、それが裁判開廷の合図です。
イチハ
────魔女裁判を、はじめましょう。
イチハ
いつかとおなじ。
イチハ
いつかと、おなじように。
イチハ
よくあることだわ。
イチハ
こんなこと。
ナオ
ないよ。
ナオ
おれにとってはない。
ナオ
きみがいちばんすきだよ。
イチハ
あなたをいちばんにはできない。
ナオ
それでいいってば。
イチハ
あなたをいちばんにはできない。
イチハ
恨んでよ。
ナオ
それでいいんだよ。
イチハ
呪ってよ。
ナオ
恨まないよ。
ナオ
呪わない。
イチハ
どうしてと問うて、
イチハ
私を責めて。
ナオ
責めないよ。
ナオ
だいすきだよ。
ナオ
うそがへたくそなきみを、
GM
*裁判MOD『不意を突く』の名称を改め、裁判MOD『あなたを受け入れる』に変更します。
ナオ
愛さずにはいられないよ。
イチハ
愛さないでくれてよかった。
イチハ
あいさないでくれて、
イチハ
よかったのに!
ナオ
笑っている。
GM
*心の疵MOD『逆棘』を適用。
イチハ
笑えない。
[ イチハ ] 砕けた硝子の靴 : 1 → -1
ナオ
地図もぬいぐるみもお金も食料も。
[ ナオ ] 女の子が好き : 1 → -1
ナオ
武器も心も命も。
[ ナオ ] つぎはぎ : 1 → -1
ナオ
ぜんぶあなたのものにしてあげる。
ナオ
君に夢中だ。
イチハ
あなたの手には、なにも。
イチハ
残らないのよ!
ナオ
「見せてくれ」
ナオ
「きみが泣かなくていい世界」
イチハ
「……わたし、」
イチハ
「あなたと居られて」
イチハ
「楽しかった。」
GM
*ナオはすべての心の疵の状態が●のため、発狂。
ナオ
ああ、でもね?
ナオ
「ときどき泣いたっていいよ」
イチハ
「………うん、」
イチハ
ありがとう、と。
イチハ
ささやいた。