GM
お茶会の手番は、PC1のイチハ、ついでナオと固定されています。
GM
このシナリオには、お茶会MOD『セルフ横槍(PC1)』が適用されており、PC1のイチハのみ、自分自身に対する行動についても横槍ができるようになります。
GM
イチハのみ、これがお茶会であると知っているからです。
GM
また、お茶会MOD『クエストMOD』が適用されています。
GM
クエストは、自分の手番の行動時に使用を宣言し、手番行動の判定値を参照して、同時にクエストの成否を決定します。
GM
PC1イチハの可能なクエストはNo.1と6。
クエストNo.1(PC1のみ) - 心を奪う
概要 :魅了し、引きつけ、意のままに動かす

条件 :PC1であること・PC2を舐める行動にのみ組み合わせられる
目標値 :7
消滅条件 :お茶会終了と同時に消滅

成功 :PC2の次の行動のクエストを指示することができる

失敗 :PC1の心の疵を回復するか悪化することで、行動とクエストの両方を成功したことにしてよい。
この決定はPC1が行い、PC2が内容を指示する
※その際、心の疵についてPC1自ら相手に明かすこと
クエストNo.6(PC1のみ) - すべてを明かす
概要 :すべてを明かし、救世主であることを認め、許しを得る

条件 :PC1であること
(このクエストを行う場合に限り、PC1はお茶会終了時に追加の手番を得てもよい。
GMはお茶会終了時に確認すること)
目標値 :PC2が成否を判断する
消滅条件 :成功するか、お茶会終了と同時に消滅

成功 :No.2を除くすべてのクエストで得た効果、
心の疵MOD『逆棘』、裁判MOD『不意を突く(PC1)』を破棄し、裁判の相手を変更する
(PC2は6ペンスコインを3枚か6枚を融通し、能力値の合計が2、1の救世主としてそれぞれ作り直しても良い。GMの判断により、裁判を省略してもよい)

失敗 :No.2を除くすべてのクエストで得た効果、裁判MOD『不意を突く(PC1)』を破棄する
GM
PC2ナオの可能なクエストはNo.2,3,4,5。
クエストNo.2(PC2のみ) - 心付けを渡す
概要 :あなたは相手に気に入られたい。だから、贈り物をする。

条件 :PC2であること
目標値 :自動的に成功
消滅条件 :お茶会終了と同時に消滅

成功 :PC2は凶器以外の宝物を全て破棄し、PC1は合計価値10以下の衣装か小道具を獲得する。
PC1が内容を指示する。
クエストNo.3(PC2のみ) - 心を開く
概要 :あなたは相手をもっと内側に招きたい。だから、心の鍵を渡す。

条件 :PC2であること
目標値 :自動的に成功
消滅条件 :お茶会終了と同時に消滅

成功 :PC2はPC1に対し、技能による同意や許可を求められたときに拒否できなくなる。
(主に調律について。他には伝授、貢物、愛染など)
クエストNo.4(PC2のみ) - 心を染める
概要 :あなたは相手を心から望む。だから、相手の望むままになりたい。

条件 :PC2であること
目標値 :自動的に成功
消滅条件 :お茶会終了と同時に消滅

成功 :自身のデッキから技能を一つ入れ替える。その際、PC1が内容を指示する。
クエストNo.5(PC2のみ) - 心を解く
概要 :あなたは相手を信じ切っている。だから、装備を遠ざけても気づかない。

条件 :PC2であること
目標値 :自動的に成功
消滅条件 :お茶会終了と同時に消滅

成功 :凶器を『素手』に変更する
GM
クエストは以上です。
GM
他にMODは、裁判開始直前に、すべての○の心の疵を●にする心の疵MOD『逆棘』。
GM
PC1が有利な立場で裁判を開始できる、裁判MOD『不意を突く(PC1)』があります。
GM
MODは以上となります。
GM
*お茶会 ラウンド1 イチハ
GM
1d12をどうぞ。
イチハ
1d12 (1D12) > 5
GM
5:トカゲの末裔だ。長く辛抱強いという性質が、あるいはあなたに多くの仕事を求める。
GM
前夜の客はトカゲの末裔でした。行為は明け方まで続き、6ペンスコインの加護を持たないあなたを疲弊させたことでしょう。
GM
そしてその翌日。再び救世主のナオが来る。
ナオ
「や、やあ」
イチハ
その声に、気だるげに身を起こす。
GM
汚れたベッドに、女の肌は白く眩い。
ナオ
「……寝てた?」
イチハ
首を振ろうとして、
イチハ
目から雫が伝う。
ナオ
荷物を放り出して駆け寄った。
ナオ
ちょっとおかしいくらいに慌てる。
イチハ
「……目に、」
イチハ
「ゴミが入ったのかもしれない」
イチハ
指で目元を拭う。
ナオ
「あっ、だめだよ」
ナオ
「指で触ったら……」
イチハ
近寄ってきた姿を、いつもの笑みで迎える。
イチハ
また、ひとしずく。
ナオ
「ま、待って。ええと確か……」
イチハ
「じゃあ、どうしたら……?」
イチハ
ぱたぱたと、
イチハ
雫が垂れる。
GM
だから愛されない。あなたに声をかけるのは、愛を持たないものばかり。
ナオ
放り投げたリュックサックを漁り、布のはぎれを取り出す。
イチハ
別に愛が欲しいわけじゃないわ。
イチハ
誰でもいいわけじゃない。
ナオ
手渡そうとして、
ナオ
ゆるされるかわからないけれど。
ナオ
拭ってやろうとした。
イチハ
「してくれる?」
イチハ
目を閉じる。
GM
当然の愛がもらえないから、こんな世界にきて、あんな結末になった。
イチハ
彼の手を待った。
ナオ
「っ」
イチハ
……それが如何したって言うの。
ナオ
頷く。
イチハ
あなたに何が分かる。
イチハ
頭に響く声。
ナオ
こわれものを扱う手付きで、やさしく拭う。
イチハ
体が変化して、随分うるさくなった。
ナオ
「辛そうだよ」
イチハ
拭う手。
イチハ
それを、
イチハ
少しも嬉しく思えない。
イチハ
けれど、笑った。
ナオ
「……本当に目にゴミが入っただけ?」
イチハ
心底嬉しそうに。
ナオ
こころから心配しているような声。
イチハ
「……どうして?」
イチハ
彼の目を覗き込む。
GM
優しくしないから、優しくされないの。優しくしたら、自然とみんな優しくするものよ。
イチハ
あなたは私に優しくしてくれなかった。
イチハ
これはきっと、
ナオ
「……」なんとなく、目を逸した。
イチハ
──母の声だ。
イチハ
「いや?」
イチハ
残念そうに、沈む声。
ナオ
「ち、違う……」
ナオ
「君に見つめられると、胸が苦しくなるから」
ナオ
「だからなんだ……」
イチハ
伸ばそうとした、手が止まる。
ナオ
「ねえ」
ナオ
ベッドの軋む音。
ナオ
男の体重は重いから。
ナオ
「今日はおれのほうから、抱きしめてもいいかな」
GM
優しい男の子だと思わない? あなたを心から愛している。
イチハ
「………。」
イチハ
ひとが、優しさで人を愛せるなら、
イチハ
私はもっと愛されていいはずだった!
ナオ
「……だめなら、いいよ」
イチハ
「………いいって、いってほしい?」
イチハ
甘えるような声色。
ナオ
「……きみの嫌なことを、できるだけしたくないだけ……」
ナオ
もうこうして、身体をお金で買っている時点で。
ナオ
甘えた考えだというのは、わかっている。
ナオ
それでも、愛してみたいし、愛されてみたい。
ナオ
そういうごっこ遊びに他ならなくても。
ナオ
「君が好きな触り方じゃないなら、しないよ」
イチハ
「………」
GM
こんなに優しい。こんなにあなたを愛している。
イチハ
…………。
ナオ
うつむく。
イチハ
誰かの愛が全て、報われるなら。
イチハ
この世に不幸は起こらない。
ナオ
沈黙が暗く湿った部屋に流れている。
イチハ
*ナオの心の疵『女の子が好き』を舐めます+クエスト1
イチハ
*ティーセット使用します
イチハ
2d6+0+2=>7 判定(+猟奇) (2D6+0+2>=7) > 8[2,6]+0+2 > 10 > 成功
GM
成功ですね。何番のクエストをさせますか?
イチハ
4で
GM
わかりました。クエストNo.4……心を染める。
イチハ
「……じゃあ、」
イチハ
微笑む。
イチハ
「髪を撫でて……、」
イチハ
彼の手を取る。
イチハ
その手を、自身の髪に。
イチハ
「指で梳いて?」
ナオ
たおやかな指先は、いまの自分のものとほど遠い。
イチハ
私の望むことを。
イチハ
私の望むまま。
ナオ
あまい香りがする。
イチハ
それがしあわせだと、
ナオ
髪にまで、お菓子の匂い。
イチハ
あなたが思うように。
イチハ
あなたに思って貰えるように。
ナオ
「……いいの? そんなのさ」
イチハ
そうじゃないと、ひとなんて、
ナオ
「おれまで、うれしくなっちゃうよ」
イチハ
殺せやしないわ。
GM
あんなに愛を求めたあなたが、今は愛を裏切っていく。
イチハ
愛では何も救えない。
イチハ
愛はすべてを滅ぼすのみ。
イチハ
この体が、こうなったように。
イチハ
ウィルが傷付いて、荒野へ消えたように!
イチハ
「嬉しい?」
イチハ
また、零れた雫が。
イチハ
頬を濡らす。
GM
誰も手を付けない冷めたスープ。メインディッシュは他にあって、冷めたスープに見向きもしない。
ナオ
こころが震える。
ナオ
なにがつらいの。
GM
あなたはその寂しさを知っているはずなのに。
ナオ
なにがきみを傷つけたの?
イチハ
ウィルに会えない。
イチハ
ウィルに会いたい。
ナオ
おれはきみのことを……なにも知らない。
イチハ
それが、あなたに、
ナオ
髪を梳いていく。
イチハ
理解できないことだと、
イチハ
理解している。
ナオ
いいにおいがして、さらさらで。
ナオ
髪は女の命だと。
イチハ
「あなたは、」
ナオ
いつか友達がふざけて言っていた。
イチハ
「髪に触れるのが上手いわ」
ナオ
手が止まる。
イチハ
命だなんて、命だなんて!
イチハ
この期に及んで?
ナオ
こんなふうに、男は触らないのかな。
イチハ
「みんな、髪を引くのよ」
イチハ
「痛がるのを、見るのが好きなの。」
イチハ
同情を頂戴。
ナオ
「そんな……」
イチハ
憐憫を頂戴。
ナオ
痛い。
イチハ
「だから、」
ナオ
まるで自分が髪を引かれたみたいに。
イチハ
まるで、枯れ落ちる前の蔦の様に。
イチハ
体を寄せる。
イチハ
柔らかな体。
ナオ
どきりと心臓が鳴った。 みじめな自分の身体のまやかしが、暴かれないか不安でたまらなくなる。
イチハ
甘い香り。
ナオ
柔らかな身体……
ナオ
甘い香り。
ナオ
女の子のもの。
イチハ
女の子のもの。
ナオ
こんなふうにしてくれることはないと、
ナオ
自分にはその資格はないんだと、
ナオ
ずっと諦めていたもの。
ナオ
「俺はきみが痛いのは、いやだな……」
イチハ
「じゃあ、」
イチハ
囁く声。
イチハ
「わたしの、したいこと。」
イチハ
「わたしの、してほしいこと。」
イチハ
「あなたは、それをしてくれる?」
イチハ
ううん、と首を振る。
イチハ
「それをすることを、望んで、」
イチハ
「喜びだと言ってくれる?」
イチハ
魔女の囁き。
ナオ
「きみは……」
GM
白々しい、汚れた言葉。
ナオ
「何がそんなに不安なの?」
イチハ
炎が揺れる。
イチハ
「……いなくなるのが、」
ナオ
髪をすくう手。
ナオ
やさしく、慣れた手付き。
イチハ
私を救えない手。
GM
あなたは救われない。
イチハ
やさしいだけの、淡い手付き。
GM
やさしくされる資格がないから。
イチハ
救われない、掬われない。
ナオ
正当な対価ではない。
イチハ
最初から分かっている。
ナオ
不当な搾取だ。
ナオ
それをあなたが行っている。
イチハ
でも、
イチハ
それを善しとして
イチハ
ここにいるんでしょう?
ナオ
「おれがいなくなるのが、怖いの?」
イチハ
「いなくなるのが、こわいの。」
イチハ
誰が、を塗り潰す。
イチハ
「あなたが、何も言わず、」
イチハ
「ここからいなくなると」
イチハ
殺せない。
イチハ
「いやなの」
GM
白々しい、汚れた言葉。
イチハ
「だから、望んで?」
ナオ
髪を梳く手が止まる。
イチハ
「わたしのこと、」
イチハ
「わたしの、したいことは」
イチハ
「あなたのしたいことだって……」
イチハ
「言って……?」
イチハ
弱弱しく、かすれた声。
ナオ
「おれのしたいことは……」
ナオ
あまい香り。
GM
でも、それは心からの願いね。
イチハ
「あなたのしたいことは……」
ナオ
あれほど欲しかった、女の子の体温。
ナオ
満たされていく。
イチハ
抱き締める。
イチハ
空っぽのまま。
ナオ
満たされていく。
イチハ
満たされるわけがない。
GM
もし本当にその通りになったなら、あなたは赦される。
ナオ
おそるおそる、背中に手を回す。
ナオ
「うん」
イチハ
許されたいものか。
ナオ
「いいよ」
イチハ
こんな運命に、した誰かに。
イチハ
赦しなど乞うものか。
イチハ
「うれしい」
イチハ
甘い声。
GM
この期に及んで被害者面?
ナオ
「おれ、駆け出しだから……」
ナオ
「そんな、すごいこと、できないかもしれないけど」
イチハ
死んだものを被害者と言わずして。
イチハ
何を被害者と云う?
GM
それは当然、罪のなきものよ。
ナオ
「頑張るよ。だって」
ナオ
「おれ、君の名前も知らない」
イチハ
罪のないものなど、この世には存在しない。
ナオ
「君のこと、なんにもしらないんだ」
GM
本当に?
ナオ
「知りたいんだ、君のこと」
イチハ
名前。
イチハ
名前。
イチハ
この、罪の名前。
ナオ
なんで泣いてるの。
イチハ
金糸雀の名にはあまりにも。
ナオ
なにかつらいことがあったの。
イチハ
重い罪の色。
イチハ
「……イチハ、」
イチハ
囁く名は、
イチハ
捨てたはずの名前。
ナオ
そういう気持ちに身を投げ出すと、
イチハ
冷めたスープの皿を、誰かが叩く音がする。
ナオ
まるで、愛をしているみたい。
GM
まだあなたが、『かわいそう』でいられたときの名前。
ナオ
愛し合っているみたい。
ナオ
「イチハ……」
イチハ
「呼んで?」
ナオ
「イチハ」
イチハ
甘えるように、身を擦り寄せる。
イチハ
「おぼえて、」
イチハ
「それが、」
イチハ
あなたを殺す、
イチハ
「私の名前……」
ナオ
そっと抱きしめる。うっとりするほど柔らかい。
ナオ
密着したところから、溶けていきそうな。
イチハ
彼の体は、こんなにも。
イチハ
柔らかくなどなかった。
イチハ
……ウィル、ウィル。
ナオ
よかった。
イチハ
あなたは、今何処に居るの?
ナオ
この身体になって、よかった。
ナオ
この世界に堕ちてきて、良かったんだ。
イチハ
「ねえ、」
イチハ
「すきなところに、触れていいわ」
ナオ
「……いいの?」
イチハ
あわく、優しい声。
イチハ
偽物の、鳥の囀り。
イチハ
「でも、それだけ。」
イチハ
「今日は、触れるだけよ」
GM
もはや冷たい死体みたいなものなのに、もったいぶって。
ナオ
考える。考えて、考えて。
イチハ
恋なんてこんなものよ。
ナオ
「その……」
イチハ
していたから、分かる。
ナオ
手をとって、繋ぐ。
ナオ
意図的に避けていた繋ぎ方。
ナオ
いわゆる、恋人繋ぎ、というやつ。
イチハ
指が絡まる。
イチハ
………。
ナオ
「これがいいな」
イチハ
「こうして繋ぎたかった」
イチハ
あなたではないひとと。
イチハ
「嬉しい」
イチハ
嬉しい、きっと。
ナオ
その指はウィル・ホーソンのものとは似ても似つかない。
イチハ
そう。
イチハ
この手が、
イチハ
ウィルのものであったなら!
ナオ
嬉しそうにわらう。
ナオ
本当に、心の底から
イチハ
恥ずかしそうに笑む。
ナオ
喜んでいる顔つきで。
イチハ
本当に、心の底から
イチハ
喜んでいる顔つきで?
イチハ
かんたんなひとだ。
イチハ
かんたんで、おろかで。
ナオ
かんたんで、おろかで、
ナオ
だから殺したっていいひと。
GM
純粋。
イチハ
いつかの私に似ているひと。
イチハ
無垢?
GM
もはや失われたもの。
イチハ
もはや、存在のない。
ナオ
「こうするの、夢だったから」
イチハ
「これくらい、」
イチハ
「いくらでもしてあげるわ」
ナオ
「そうだよね」
イチハ
「あなたがまた、」
ナオ
「でもさ、おれにとっては、それくらいのことなんだよ」
イチハ
「明日も来てくれるなら……」
イチハ
また明日はやがて。
イチハ
期限へとたどり着く。
イチハ
その前に殺すのはきっと、
イチハ
何をするよりもやさしい。
ナオ
「このまま、今日は寝ちゃおうか」
ナオ
「明日も来るからさ」
ナオ
「……大丈夫だよ」
イチハ
「眠らせてくれるの、」
イチハ
「あなたくらいよ」
イチハ
大丈夫、大丈夫──上手くやるわ。
ナオ
……都合が良い客になりたいわけじゃない。
イチハ
私には、あなただけ。
ナオ
本当に、おれにとってそれが、特別なだけ。
イチハ
あなただけなのよ。
イチハ
……たやすく、殺せそうなのは!
[ ナオ ] 女の子が好き : 0 → 1
GM
GM
*お茶会 ラウンド1 ナオ
[ イチハ ] ティーセット : 2 → 1
GM
暗く、小さく、湿った部屋。
GM
そこには窓がなく日差しが差しません。
GM
昼か夜かも曖昧です。
ナオ
案内される。
ナオ
甘いにおいのする部屋をこうして訪れるのは、何度目?
ナオ
その香りに鉄錆のにおいが交じる。
GM
時間を感じさせるものはお互いだけ。心臓の音。呼吸、言葉、身振り手振り、瞬きです。
ナオ
「約束どおり、来たよ」
ナオ
足元でぬいぐるみがおどけてついてくる。
ナオ
ひょこひょこ、てちてち。
イチハ
ぱたりと、目から零れる雫を拭って。
イチハ
そちらに目を向ける。
ナオ
んしょんしょとベッドをよじ登り、
イチハ
混ざる鉄錆の香り。
ナオ
イチハの目元をふわふわの手で拭う。
イチハ
それに、違和感を覚えないようになってしまった。
イチハ
この世界では、その匂いは日々のひとつ。
ナオ
「あっ、こら。だめだようーちゃん」
イチハ
あの、30日間で感じた鉄錆の香りよりも──随分軽くなってしまった。
イチハ
「なあに?」
イチハ
拭われた目元はまた、潤みだすも。
ナオ
いないいない~、ばあ!
イチハ
雫を結ぶことは無かった。
ナオ
おどけた仕草。あなたを笑わせようとしているような。
イチハ
そんなことをせずとも、いつも。
イチハ
女は笑っているのに。
イチハ
「かわいいわね」
イチハ
ピエロみたいで。
ナオ
「ごめん、勝手に動くんだ」
イチハ
「これは、あなたのおともだち?」
ナオ
腕のなかに捕まえると、『うーちゃん』は大人しくなった。
ナオ
ナオには目立った血の汚れはないけれど、
ナオ
拭い来れなかった匂いだけははっきりとただよっている。
ナオ
「おともだち……そうなのかな?」
ナオ
「見たら分かるだろうけど、心の疵だよ」
ナオ
かわいくて、ピエロみたいでも。
GM
この部屋に風は吹きません。匂いはどこにもゆかず、そこに漂ったまま。
ナオ
さっき人を殺してきた、力の一部だ。
イチハ
遠回しに聞こうと思ったのに。
イチハ
明かされる。たやすく。
イチハ
爪を隠さなければいけないのよ。
イチハ
狩りをするためには。
ナオ
明かしてしまう。たやすく。
ナオ
かんたんなひと。
イチハ
かんたんなひと。
イチハ
ぬいぐるみをこわすように。
ナオ
そっとベッドの端にぬいぐるみを下ろして、自分も座る。
イチハ
きっと、上手くやれる。
ナオ
前はここまで来るのに、ずいぶんもたもたしていたのに。
イチハ
それを目で追う。
イチハ
随分、慣れたもの。
ナオ
いないいない、ばあ!
ナオ
ベッドの端であなたに向かって、やって見せている。
GM
上手くやれっこないわ。
イチハ
上手くやるしかないのよ。
GM
あなたが何かやり通したことがある?
ナオ
「裁縫が得意なんだ。まさか、ここに来てそれが武器になるなんて」
ナオ
「ちょっと夢にも思わなかったな」
イチハ
「ここは、」
ナオ
無意識に、自分の喉を触る。
ナオ
おおげさな縫い目のあと。
イチハ
「そういう場所よ。」
イチハ
目を伏せる。
ナオ
「末裔だけあって、詳しそうだね」
ナオ
「……おれね、」
ナオ
「元の世界では、友達が……いっぱいってほどじゃないけど、いて」
イチハ
『貴女の力は、どんなものなんでしょうね』
ナオ
「同じ年の手芸部の友達と、仲良くてさ」
ナオ
「いまごろ、何してるんだろう」
イチハ
誰かの言葉を思い出す。
イチハ
「何をしてるんでしょうね」
ナオ
「裁縫、もともと興味なんてなかったんだよ」
イチハ
聞いている。
ナオ
「やろうとも思ってなかった」
ナオ
「でも、その子が誘うから……」
イチハ
だけど、何をしているんだろうの言葉は。
イチハ
誰かの靴音を探している。
イチハ
ここにはいない誰か。
イチハ
いるはずのない誰か。
イチハ
「………あなたは、」
ナオ
ナオにはわかりっこない誰か。
イチハ
「じぶんの、やりたいことをしないの?」
イチハ
したがってばかりで、
イチハ
言いなりになってばかり?
GM
そんなことを言って、あなたはどうだったかしら。
ナオ
はは、と笑う。
ナオ
「……イチハは、おれのことをさ」
ナオ
「都合の良い子だとおもっているでしょう?」
イチハ
「そう見えるなら」
イチハ
「そうなんじゃないかしら?」
イチハ
否定も肯定もしない。
ナオ
向き直る。
イチハ
ともに、足下が崩れる原因になる。
ナオ
ベッドが軋む。
イチハ
「…………。」
ナオ
問い直さない。答えない。
イチハ
沈黙は肯定。
イチハ
そうとられてしまうのならば、
イチハ
柔らかく綿にくるむ。
ナオ
「……少なくともおれはそういうふうに振る舞ってる」
イチハ
そういうのが、おすきなんでしょう!
ナオ
「そういうことでしか、気に入られる方法がわからないんだ」
イチハ
「かわいそうね」
ナオ
「かわいそうなんかじゃないよ」
イチハ
理解が出来てしまう。
ナオ
「すごく気持ち悪いものに対して、かわいそうなんて言葉はいらない」
ナオ
「おれは……」
ナオ
「その子が好きだった。性的に」
イチハ
「そう」
ナオ
「からだを触ってみたかった。キスしてみたかった。できればその先も」
ナオ
「セックスしてみたかった」
イチハ
「好きなのなら、仕方がないのじゃないかしら」
イチハ
それを、切り捨てはしない。
イチハ
どうしてか?
イチハ
それはあなたの心臓に続いているからよ。
イチハ
「気持ち悪いって、」
イチハ
「私は思わないわ」
ナオ
「優しいんだね」
ナオ
とだけ。
ナオ
先程から様子がおかしい。
ナオ
舞い上がったり、喜んだり。
ナオ
顔を赤くしたり、しない。
GM
浅い言葉。
イチハ
浅い関係。
イチハ
でもここは、そういうところでしょう。
イチハ
暗くて、せまくて、湿っていて。
ナオ
「ここに来ると嬉しいんだ」
イチハ
でも、その中の心だけは乾ききったまま。
ナオ
「お金を払えば、おれのこんな空っぽに……」
イチハ
満たされることはない。
ナオ
「きみは、付き合ってくれるでしょう」
イチハ
「そうね、金額の分だけ」
ナオ
「ちゃんと理由があって、対価があって」
イチハ
「対価の分だけ。」
ナオ
「それを約束されていて、不安に思うことはない」
ナオ
「対価のぶんだけ」
イチハ
「その金額分だけは、裏切らない」
イチハ
「捨てられない」
イチハ
「否定されない」
ナオ
「セックスしてみたかったけどさ」
ナオ
「それと同じくらいに……」
イチハ
「拒絶されない」
ナオ
「いや、それ以上にさ」
ナオ
「愛して、愛されてみたかったんだ」
ナオ
目を覗き込む。
イチハ
みたかった。
ナオ
「確認するよ」
ナオ
「おれのことを、きみは愛していない」
イチハ
「あなたがそう思うなら、そうよ」
ナオ
「ほんとうのことを言って」
GM
あなたに人を愛せるの? イチハ。
ナオ
「大丈夫」
イチハ
「ほんとうのことなんて、」
ナオ
「幻滅したり、逃げたりしない」
GM
あなたは人を愛したことがあるの? イチハ。
ナオ
「というか」
イチハ
この世のどこにある。
ナオ
「きみはごまかしたり、嘘をついたりしているつもりなんだろうけど……」
ナオ
はは。
イチハ
「問う場所じゃないわ」
ナオ
「下手すぎる……」
ナオ
「おれのほうが、娼婦に向いてるんじゃないかな?」
GM
あなたに上手くなんかやれっこないわ。
GM
なにをやったって中途半端なんだから。
イチハ
何やっても中途半端。
イチハ
なにひとつ、うまくいかない。
イチハ
だから、私は死んだ。
ナオ
「責めてるわけじゃないんだ……」
イチハ
「あなたは、」
ナオ
「きみの素直なところが、うれしいんだよ」
イチハ
「愛されるのがへたね」
イチハ
「黙っていればいいのよ」
イチハ
「黙って、従って、従順な振りをしていれば」
イチハ
「世界なんて簡単に回るのよ」
ナオ
「黙っていられなくしたのはきみでしょう」
イチハ
「あなたが黙れなくなったんだわ」
ナオ
「ごっこ遊びで満足するつもりだったんだよ、ほんとうに」
ナオ
首を横に振る。
ナオ
「きみのしたいことを、おれの喜びとするのだろう」
イチハ
「そうね」
ナオ
「それはね」
イチハ
たとえば、彼の変貌は。
ナオ
「ごっこ遊びだけじゃあ、できないんだよ」
イチハ
恋をしていたのなら、
イチハ
愛があったのならば、
イチハ
戸惑い、
イチハ
傷付き、
イチハ
なにか、言い返したのだろうけれど。
イチハ
あいにくこれは、
イチハ
──愛の物語ではない。
イチハ
化け物の、世界に対する復讐譚。
イチハ
だから、
ナオ
「ねえ」
ナオ
指を重ねる。
イチハ
ふれる。
イチハ
抵抗も、拒絶もしない。
ナオ
「いなくなるのがこわいって」
ナオ
「それは」
ナオ
「……おれでは、ないね?」
ナオ
「見え透いた嘘だよ」
イチハ
「いいえ、」
イチハ
「困るわ」
イチハ
「あなたが、いなくなると」
イチハ
──ウィル、ウィル。
イチハ
あなたがいなくなるのが怖いなんて、
イチハ
云うはずがないのよ。
イチハ
だって、もうあなたは街を去ってしまった!
ナオ
「でも違う誰かを思い浮かべている」
ナオ
「おれにかける言葉じゃないんだ」
イチハ
「………あなたは、」
イチハ
「出会って数日の相手に、」
イチハ
「多くのものを求めるのね」
ナオ
「求めてるわけじゃない」
ナオ
「きみのつく嘘が、下手すぎるだけ」
ナオ
「だからこんなふうにさ」
イチハ
「うそは、」
ナオ
手を握る。
イチハ
「暴かれなければ、」
イチハ
「真実になるのよ。」
イチハ
握られた手は、力がない。
イチハ
彼のなすがまま。
ナオ
「こんなふうにさ……」
イチハ
くだらない。
ナオ
「それがほんとうだったら、どんなにいいだろうって」
ナオ
「思えてしまうだろ……」
イチハ
「どんなにいいだろうっていうのは、」
ナオ
「暴くまでもないよ」
イチハ
「諦めた人の使う言葉よ」
イチハ
「あなたの言葉は、ずっと」
イチハ
「ぜんぶ」
イチハ
「終わった話みたいだわ」
ナオ
「それは」
ナオ
「きみもそうだ」
イチハ
「終わった話だもの」
ナオ
「ねえ」
ナオ
「どういう人だったの」
イチハ
「あるはずもないページを書き足して、勝手に話を続けているのよ。」
イチハ
首を傾げた。
イチハ
「どんな。」
ナオ
「髪色は?」
ナオ
「性格は?」
ナオ
「口調、目の色、背格好」
ナオ
首元を撫でる。
ナオ
おとなしくおすわりしているぬいぐるみ。
イチハ
その欠片を、渡せと云うのか。
ナオ
「嘘でしかないけど」
イチハ
その欠片を拾い集めて、
ナオ
「もっと上手な嘘をつけるようになってよ」
イチハ
一体なにを作るつもりなの。
ナオ
「……おれがそれを真似たらさ」
ナオ
「おれのことを、愛するふりくらいは、できる?」
イチハ
馬鹿にしている。
イチハ
とんでもない。
ナオ
馬鹿にしているのは。
ナオ
どちらのほうだよ。
GM
馬鹿にしているのはどっち?
ナオ
*イチハの心の疵『砕けた硝子の靴』を舐めます。
クエストno4に挑戦
イチハ
*横槍入れます
[ イチハ ] HP : 15 → 14
イチハ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
イチハ
*ティーセット使用
[ イチハ ] ティーセット : 1 → 0
イチハ
2d6+0+2=>7 判定(+愛) (2D6+0+2>=7) > 8[4,4]+0+2 > 10 > 成功
イチハ
*ヤリイカ使用します
イチハ
1D6 (1D6) > 1
ナオ
*ティーセット使用
[ イチハ ] ヤリイカ : 1 → 0
[ ナオ ] ティーセット : 2 → 1
[ ナオ ] ティーセット : 1 → 0
[ ナオ ] ティーセット : 0 → 1
ナオ
2d6+3=>7-3+2 判定(+才覚) (2D6+3>=6) > 4[3,1]+3 > 7 > 成功
GM
2d6+3-3+2で4なので、失敗ですね。
GM
成否にかかわらず、クエストは成功します。
GM
どのように技能を替えますか?
イチハ
*暗器→依存に
GM
*クエストNo.4 心を染めるにより、ナオの暗器が依存に
イチハ
わかるわけないわ。
イチハ
わかるわけないわ、あなたに。
イチハ
「あのひとに、あなたが」
ナオ
わかるわけないだろ。
ナオ
話してくれないなら。
イチハ
「なれるわけないのよ」
ナオ
嘘をついているなら。
ナオ
わかるわけない。
ナオ
「……っ」
ナオ
「……っ、じゃあ」
ナオ
「じゃあおれはどうすればいいの……!?」
ナオ
「こういう生き方しか知らないんだよ!」
ナオ
手を強く握る。
イチハ
──ウィル、ウィル。
ナオ
痛めつけるほどに。
イチハ
あなたのかわりは、
イチハ
どこにもいない。
イチハ
偽物なら要らない。
ナオ
「おれは……なにをやってるの?」
イチハ
あなたが、あなたではないのなら。
ナオ
「きみはおれのことを……奴隷かなにかだと思ってるんだろ?」
ナオ
「だから奴隷になってやるって」
ナオ
「そう」
ナオ
「言ってるじゃないか……」
イチハ
あなたいがいは、わたしのせかいに。
イチハ
──要らないのよ!
ナオ
「慣れてるんだよ」
GM
だから愛されなかったのね、イチハ。
ナオ
「おれはみんなにとって、ただのふわふわのかわいいぬいぐるみで」
イチハ
愛された、愛された。
イチハ
私はたしかに、
ナオ
「そばにいてあげられても、そばにいてもらえることはない」
GM
だから依存しているのね、イチハ。
イチハ
愛されていた。
イチハ
しあわせだった!
GM
一度の愛に。
ナオ
ぼろぼろと、湿ったシーツに涙が染みていく。
イチハ
その手に、そっと叩くように触れる。
ナオ
「なんだよ」
ナオ
「なんなんだ……?」
ナオ
「こまるくらいでしょ、おれがいなくなったって」
イチハ
「何の言葉も、」
イチハ
「あなたの慰めには足りない」
イチハ
「あなたが欲しいのは同情じゃない」
イチハ
「そうでしょう」
ナオ
「きみがそう思うならそうだ」
ナオ
渡した言葉が。
イチハ
「だって、私もそうだった」
ナオ
返っていく。
イチハ
「誰かに愛されたかった」
イチハ
「誰かの言葉に従えば、」
イチハ
「愛されるはずだと思っていた」
イチハ
「でも、結果は御覧の通りよ」
ナオ
うさぎのぬいぐるみが、心配そうにふたりを見上げる。
ナオ
道化。
イチハ
道化。
ナオ
そうすれば、かわいらしいから。
イチハ
そうすれば、わらってくれるから。
ナオ
「そうだよ」
イチハ
「私は、」
イチハ
「あなたを見ていると、苦しい」
イチハ
私とおなじみち。
イチハ
私と同じ、愛され方のへたくそな。
ナオ
「きみを見ていると、苦しいよ」
イチハ
「腹立たしいとさえ、思う」
イチハ
たとえば、ここじゃなかったら。
イチハ
たとえば、こんな出会い方をしなければ。
イチハ
もしかしたら、
イチハ
もしかしたら。
イチハ
分かり合えたこともあったかもしれなかったと、
イチハ
思うほどには。
GM
もっと単純な話。
GM
順番が逆だったら?
イチハ
だから、私の欠片はあげないわ。
イチハ
──でも、でも。
イチハ
冷めたスープどうしは、
イチハ
互いを飲み干すことが出来ない。
イチハ
誰かがスプーンで掬わなければ、
イチハ
冷たいスープはただ、
イチハ
ふた皿並んでいるだけ。
ナオ
皿の底が鳴る。
ナオ
「ごめん」
ナオ
涙を拭う。
イチハ
皿の底はもう鳴らない。
イチハ
スープは誰かが飲み干した。
ナオ
「きみが話してくれないのも当然だよ」
イチハ
いのちといっしょに。
ナオ
「こんなやりかた、間違ってる」
ナオ
「きみの好きなひとを、きみごと馬鹿にするようなやりかただ」
イチハ
「…………。」
ナオ
「こんな提案、してはいけなかった」
イチハ
「あなたは、じぶんのあやまちに気付いて」
イチハ
「それを、省みることが出来る」
イチハ
私とは違う。
イチハ
「私は、それが出来なかった。」
イチハ
「間違え続けたまま、」
イチハ
「踊り続けている。」
ナオ
「イチハ……」
イチハ
赤い靴はもう脱ぎ去ったのに。
イチハ
勝手に、足が踊る。
イチハ
この脚が千切れて、歩みを止めるまで。
イチハ
このからだが、全て化け物に堕ちて。
イチハ
──物語が終わるまで。
ナオ
手をたどって、肩に伸ばし。
ナオ
抱きしめる。
ナオ
ぐずぐずの心のまま。
イチハ
抱き締められる。
ナオ
「おれなんかでごめん」
イチハ
甘い砂糖菓子の体が。
ナオ
「おれなんかで、ごめんね……」
ナオ
「きみのいやなことは」
イチハ
それに、何かを返せたら。
ナオ
「やりたくなかったのに……」
イチハ
物語は、ハッピーエンドに向かうのだろうか。
イチハ
──いいえ。
イチハ
そんな事は、ありえない!
イチハ
「でも、」
イチハ
「こうして、抱き締められるのは」
イチハ
「嬉しいことだと、思うわ」
イチハ
あなたはわたし。
イチハ
いつかのわたし。
イチハ
置き去りにされた、
イチハ
いつかの欠片。
ナオ
「その言葉は」
ナオ
「信じるよ」
イチハ
「噓じゃないもの」
イチハ
「……嘘じゃないわ。」
GM
暗く、狭く、湿った部屋。
GM
すべてを明るみに晒すには光が足らず。
GM
すべてを偽るには近すぎました。
GM
身体が覚える寒さと温もりは偽ることができません。
GM
GM
1d12 (1D12) > 1
GM
1:あなたは誰も客に取らなかった。脱がされるべき店のドレスと下着を自分で脱ぐ。
GM
その日は誰もあなたの部屋を訪れることはありませんでした。
GM
あなたを誰も抱きしめませんでした。
イチハ
空っぽの部屋に、
イチハ
声が響く。
イチハ
柔らかな歌声。
イチハ
恋しい人を乞う、鳥の囀り。
GM
それに耳を傾ける人はいません。
GM
あなたは未だ、ケージの中。
GM
自分で選んだケージで、そのときを待っています。
ナオ
その日、ナオは来なかった。
ナオ
亡者退治に出かけていた。
イチハ
来なかったことに、落胆は覚えない。
ナオ
よいことをして、感謝されて、必要とされて。
イチハ
悪いことをして、罵倒されて、必要とされなくて。
ナオ
便利な救世主だから、頼られて忙しい。
イチハ
それの繰り返し。
イチハ
都合のいい娼婦だから、呼ばれないこともある。
イチハ
それは、まるで泥の中の安息。
イチハ
暗くて重い部屋で、ろうそくの明かりを見て過ごす。
GM
灯火は揺れて、あなたにこういいます。
GM
本当に、浅はかな子。
イチハ
「知っているわ」
イチハ
「赤い靴もないのに」
イチハ
「足がずっと、ステップを忘れられない」
イチハ
「二人用のワルツ」
イチハ
「ひとりで踊っても」
イチハ
「仕方ないのに」
イチハ
浅はかで、みっともない。
イチハ
ろうそくの声が、誰かの声と重なる。
イチハ
『一葉ちゃんって、便利だね。ノートありがとう。今度も頼むね』
イチハ
『一葉は、いつも読んだら来てくれて好きなことをやらせてくれる。いいやつだよ』
イチハ
『だから、あなたはだめなのよ』
GM
けれどあなたはかわいそうな子でいられたわ。
イチハ
可哀そうと憐れんで。
イチハ
可哀そうと侮って!
GM
他ならぬ、あなた自身がそう思っていた。
イチハ
他ならぬ、わたし自身がそう思っていた。
GM
今でもあなたは。
GM
被害者面でいるつもり?
イチハ
今でもわたしは、
イチハ
被害者のままよ。
GM
だったらあなたは、
イチハ
それがいけないの?
GM
かわいそうな子だわ。
イチハ
憐れんでよ。
イチハ
可哀そうだって言って!
GM
かわいそうな子。
イチハ
かわいそうな子。
GM
ほんとうに、かわいそうな子……。
イチハ
悲劇に縋らないと生きていけない。
イチハ
可哀そうでしか、もう満たせない。
イチハ
皿を満たしていた幸福は、
イチハ
いのちと一緒に流れてしまった。
イチハ
あなたがいない。
イチハ
あなたがいない。
イチハ
あなたがいない、それだけで。
イチハ
こんなにも、世界は歪んで見える。
GM
この小さく汚れた世界は、お誂え向き。
GM
悲劇に浸るあなたのためのスイートルーム。
ナオ
血まみれのレイピアを振るい、空を見上げる。
ナオ
青い色ひとつない曇り空。
ナオ
お誂え向きの世界。
GM