GM
        二人の救世主がいました。
男と女、それぞれの名をウィル・ホーソンとミュールといいます。
二人は荒野で偶然出会い、30日間を共に過ごしました。
    
 
 
    
    
        GM
        最後の日、二人は荒野にて裁判を行い、ウィル・ホーソンはミュールを殺しました。
救世主が救世主を殺す。
それはよくあることです。
    
 
 
    
    
        GM
        しかし、ミュールは再び生きることを望みます。
想いは、あるいは妄執は届き、ミュールは立ち上がりました。
その生命の5分の4を亡者へとやつし、再び歩きだしました。
    
 
 
    
    
        イチハ
        履く脚を失ったとしても砕けることは無かったでしょうね。
    
 
 
    
    
        イチハ
        硝子の靴がなければ、シンデレラは舞踏会に出られない。
    
 
 
    
    
        イチハ
        『違う王子様を殺してしまえば、ハッピーエンドを迎えられるんじゃないか』って。
    
 
 
    
    
        GM
        イチハ。あなたは蘇ったあと荒野を歩き、ある街へたどり着きました。
    
 
 
    
    
        GM
        6ペンスコインを失って、生きてたどり着くことができたのは幸運と言えるでしょう。
    
 
 
    
    
        GM
        救世主は心の疵を持っていたとしても、6ペンスコインがなければ力を使えません。何処にでもいる末裔とまったく同様、無力になってしまうのですから。
    
 
 
    
    
        GM
        救世主である以上、救世主の責務は変わらずあります。
    
 
 
    
    
        GM
        30日に一人の救世主を裁判で殺さなければ、あなたは亡者に成り果てるのです。
    
 
 
    
    
        GM
        また、荒野には至るところに亡者が蔓延り、街から街へ移動するのだってままなりません。
    
 
 
    
    
        GM
        6ペンスコインを手に入れなければ、あなたは愛しい人の下へ行くことは決してかなわないでしょう。
    
 
 
    
    
        GM
        いや、それどころか。その身を亡者と成り果てても、飲み食いしなければ生きていくことはできないのです。雨に打たれれば身体は冷え、衰弱すればただ死ぬでしょう。
    
 
 
    
    
        GM
        あなたに割り当てられたのは、暗く、小さく、湿った部屋。
    
 
 
    
    
        GM
        『In The Dark, Small And Wet Room』
    
 
 
    
    
        GM
        9:暴力的な救世主だ。力を知らしめ服従させる。うっかりあなたを殺しても、誰も咎められない。
    
 
 
    
    
        GM
        初めてあなたを抱いた客は、奇しくも救世主でした。しかし、あなたはそれからコインを奪うことは難しいと思うでしょう。
    
 
 
    
    
        GM
        8:眠り鼠の末裔だ。あなたには添い寝を求める。しかし、夢が休む場所でないことを知ることになる。
    
 
 
    
    
        GM
        眠り鼠の末裔は夢の中で、あなたを犯し続けました。飽くことなく、疲れることもなく、何度も。
    
 
 
    
    
        GM
        7:帽子屋の末裔だ。ムードを求める。お洒落を解かせても、その帽子までは脱がせない。
    
 
 
    
    
        GM
        帽子屋の末裔をあなたは客に取りました。洒落者の男は多くを持っているように見えても、救世主ではありません。生きつなぐ銭を落としても、あなたの活路には繋がりません。
    
 
 
    
    
        ナオ
        「歳は17で……得意なことは、裁縫仕事。
まさかこれが武器になるなんてさ、わかんないもんだね」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「ほら、おれが作ったものはね、こうして動いたりするんだ。
結構いいでしょ?」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「元の世界じゃなんにもならなかったのにね、お裁縫なんて……」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「ここってすごくひどい世界だよ。水も満足に飲めないし、お風呂にも入れない生活をすることになるなんて、想像も付かなかった」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「……やってることは、結局ひとごろしだけどね……」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「手を握ると柔らかくて、とろけそうなくらい甘い声を持っていて。
さらさらの髪は、いいにおいがして……」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「いいなあ。あんな女の子と付き合えたら、どういう気持ちになるんだろう?」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「そうだ、許されないなら、騙ってしまえばいいんだ」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「お姫さまのとなりには王子さましか許されないなら、おれがそれになればいいんだ」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「死んだ人間の皮でできてる王子さまなんていないよ」
    
 
 
    
    
        ナオ
        「これでやっと、生きていけそうな気がするのに……」
    
 
 
    
    
        GM
        あなたのつぎはぎは機能しました。娼館の主人はあなたに、
    
 
 
    
    
        GM
        「救世主のお兄さん、どんな子がお好みですか。素直な白兎に積極的な三月兎、それからミステリアスなチェシャ猫――」
    
 
 
    
    
        GM
        「もちろんですよ。うちはかわいい子ばかりですよ!」
    
 
 
    
    
        GM
        「オススメはコックの末裔の子! お菓子を料理しすぎて、甘い匂いがとれなくなっちゃった子です!」
    
 
 
    
    
        GM
        「末裔でも肉付きがよく、きっと、いや絶対に、お兄さんにもご満足いただけます!」
    
 
 
    
    
        GM
        「おおっと、そうでしたかそうでしたか! それではこちらへ……」
    
 
 
    
    
        GM
        店主は気が変わらぬうちに、とせっかちに店に招き、料金等の説明をします。
    
 
 
    
    
        GM
        亡者を殺したりしていれば、救世主のあなたには容易に払える額です。
    
 
 
    
    
        GM
        ふかふかのベッドもあり、かわいい子にいっぱい優しくしてもらったあとは、そのままぐっすりお寛ぎいただけるでしょう……。
    
 
 
    
    
        ナオ
        なんの覚悟もできていないままここまで来てしまった。
    
 
 
    
    
        GM
        「よかったよかった。それでは、改めてごゆっくり……」
    
 
 
    
    
        ナオ
        心臓がうるさすぎる。このままでは胸のあたりから破裂してしまう。
    
 
 
    
    
        イチハ
        「あなたが今夜で来なくなったら──さみしいもの。」
    
 
 
    
    
        ナオ
        手だけは許されていたから、繋いだことはあるけれど。
    
 
 
    
    
        ナオ
        「君の触れられたいところを、触れられたらいいなと思う」
    
 
 
    
    
        ナオ
        ぬいぐるみの綿よりももっとすてきなものを身体に感じる。
    
 
 
    
    
        ナオ
        着込んでいるが、それは身体を守るすべにはならない。
    
 
 
    
    
        ナオ
        これだけのことでよろこぶ。これだけのことで満足する。
    
 
 
    
    
        ナオ
        きっと次だって、その次だって、通いに来るに違いない。
    
 
 
    
    
        イチハ
        きっと次だって、その次だって、通いに来るに違いない。