GM
みんな~!!!
GM
青窓の時間だよ~~~~!!!
レーラ
わ~~~~っ!
ウエノ
わ~~!
クロウ
わ〜〜〜!
GM
本日もよろしくお願いいたします!!
ウエノ
よろしくお願いしま~す!
レーラ
よろしくお願いしま~す!
クロウ
ま〜すっ!
GM
GM
*お茶会 ラウンド1 ラタス2回目
GM
1d6 日数経過 (1D6) > 5
GM
7日目。
GM
1d12 道中シーン表 (1D12) > 9
GM
9 .街。以前と変わらぬ賑わいを見せている。
GM
荒野を歩きに歩いて、比較的大きな街につく。
GM
クロウ、ラタスとレーラ、ウエノに分かれて買い出しなどを行い。
GM
一足早く終えたクロウ、ラタスは宿付きの酒場に入る。
ラタス
「酒だ酒だ~」
クロウ
「ようやく一息つけるぜ〜」
ラタス
二人分の酒と適当な食べ物を店員に頼んで、どっかりと椅子に座る。
ラタス
「いやー、流石に人食い三月5体に追いかけ回されると死ねるな~!」
クロウ
「ほんとな。寝ずにかくれんぼや鬼ごっこはもう勘弁だぜ」
ラタス
大洪水でお互いを殴りだしたお陰でどうにかなりました。
ラタス
酒が供されるや否や、浴びるようにゴクゴクと飲む。
ラタス
「生き返るぜ~」
クロウ
「お前が勝手な行動しなきゃ、こんなことにゃなってなかったろうになぁ〜?」ごくごく
クロウ
ひひひ、と笑いながら酒を飲む。
ラタス
「だな~」
ラタス
仕入れたばかりらしい、沢蟹の亡者の唐揚げを食べる。
ラタス
「いや~」
ラタス
「まさかお前までついてくると思わなかったな」
クロウ
「ひひひ、俺だけ仲間ハズレは勘弁だぜ?」
クロウ
「こうして半年も一緒だったってのにつれないねぇ〜」
ラタス
「寂しがり屋だな~?」
ラタス
肘で小突く。
クロウ
「くっくっくっ、一人になったら寂しくて枕を濡らしちまうぜ」
ラタス
「見てえ~お前が泣いてるとこ」
クロウ
「男に見せるような涙はねぇよ〜」
ラタス
「ははは」
ラタス
「いや、泣かないな、お前は」
ラタス
「そうだろ?」
クロウ
「おいおい、俺だって泣いちまう時くらいあるぜ〜?」
少し大げさな手振りをする。
ラタス
「……」
ラタス
酒を煽る。
ラタス
つまみを食べる。
ラタス
「最後に泣いたのは?」
クロウ
「………いきなりだなぁ」
クロウ
つまみを口に入れる。
クロウ
「…あれはこの世界に来てすぐのこと、俺のことをすげ〜世話してくれた末裔ちゃんが亡者に殺されちまってな〜」
クロウ
へらへらと笑い話のように語っていく。
クロウ
「その時はさすがの俺も墓の前で泣いちまったぜ」
ラタス
「……」
ラタス
酒を煽る。
クロウ
「ほら、面白くもなんともねえだろこんな話よぉ」
クロウ
同じように酒を煽る。
ラタス
「面白くねえな」
クロウ
「だろ〜?」
ラタス
「ああ」
ラタス
「この旅が最後だからな」
ラタス
「嘘は……」
ラタス
「面白くない」
クロウ
「…おいおい、マジになんなよ〜」へらへら
ラタス
「……」
クロウ
「聞いてもしょうがねえだろ、んなことよぉ」
クロウ
「元の世界に帰って笑い話にでもすんのか?」
ラタス
「はははは」
ラタス
「そうだなぁ」
ラタス
「じゃあ、しょうがなくねえことを聞くか」
クロウ
「ほぅ〜、いいぜぇ」
ラタス
「仲間ってなんだと思う?」
ラタス
「救世主ってのは……殺し合うだろ」
ラタス
「なんで隣りにいるあいつやそいつの肩をもって」
ラタス
「向こうにいるあれやらそれやらを殺すんだ?」
ラタス
「なにが違う?」
クロウ
「うっわ、随分なのがきちまったなぁ〜」けらけら
クロウ
「真面目に答えなきゃダメか?」
ラタス
「答えたくないならいいぜ」
クロウ
「いや」
クロウ
「まあ、いいか」
クロウ
「俺にとって仲間ってのは、共に戦う相手のことだ」
クロウ
「こっち側と向こう側で、大きな違いはねえ」
クロウ
「違うのは、出会ったタイミングと場所だけだ」
クロウ
「お前が向こう側だった可能性だって十分あるぜ?」
クロウ
「それが、俺の仲間に対する考えだ」
クロウ
「これでいいか?」
ラタス
「おう」
クロウ
その間、ずっと表情は変わらず。笑みは張り付いたままだった。
ラタス
「そうなんだよな、おれもそう思う」
ラタス
「まあ、あれだ」
ラタス
「よくわからなくなった」
クロウ
「あん?」
ラタス
「そうして、どうなる」
ラタス
「お前はなんのために生きている?」
ラタス
*クロウの心の疵『不用品』を抉ります。
ウエノ
*横槍を入れます
ウエノ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 才覚
ウエノ
2d6+0=>7 判定(+才覚) (2D6+0>=7) > 4[2,2]+0 > 4 > 失敗
[ ウエノ ] HP : 21 → 20
ラタス
2d6+0=>7 判定(+才覚) (2D6+0>=7) > 5[1,4]+0 > 5 > 失敗
ラタス
+3が抜けてるので成功ですね。
クロウ
「…は?」
クロウ
「なんの、ために…だと?」
ラタス
「生きるために戦ってるんだ」
ラタス
「ならどうして生きてる」
クロウ
「…お前は」
クロウ
「生きるために、戦ってんのか?」
ラタス
「……」
クロウ
どうして生きてる。
仲間のため、元の世界に帰るため、死にたくないから。
クロウ
そんな理由だけなら、作ることはできる。
クロウ
だが。
クロウ
ちゃら…、と腕につけた昔の仲間のドックタグを見る。
クロウ
ーーー『この戦いが終われば、俺たちも自由な暮らしができる!』
ーーー『死んでいったあいつらのために、生きて帰らなきゃな…!」
クロウ
仲間たちの名前も、声も、口癖も、得物も、能力も、笑い方も、好きなものも、趣味も、夢も。
クロウ
全て覚えている。
クロウ
けれど、その仲間をクロウは殺した。
クロウ
国にはもう必要ないものだからと、命令されたから。
殺した。殺せた。
クロウ
あいつらにはきっと、生きる理由も、死ねない理由もあっただろうに。
ラタス
「何の意味がある」
クロウ
「意味…?」
クロウ
そんなものは。
クロウ
俺にはない。
[ クロウ ] 不用品 : 0 → -1
クロウ
死ぬタイミングを失った俺は、ただただ生きているだけ。
クロウ
「俺は…」
クロウ
どうして生きているんだ…?
クロウ
元の世界でも、この世界でも、俺は。
クロウ
生きる理由のない、生きる意味のない。
クロウ
ただの不用品だ。
ラタス
「わかんねーよな~」
クロウ
「………」
クロウ
「…ひひひ、そうだなぁ。わっかんねぇなあ〜」
クロウ
表情に笑みが戻る。ただそれは、先ほどよりも歪だった。
ラタス
「わかんねえんだよな~」
ラタス
酒を煽る。
クロウ
酒を煽る。
クロウ
少量の酒じゃ、酔うこともない。
クロウ
ただ今は、乾き続けるこの喉に。胸の奥に。
クロウ
酒を流し込みたい気分だった。
GM
すべては自動的だ。
GM
生まれ落ちて、仕組みのままに生きようとする。
GM
日は巡る、繰り返す、右足、左足と歩くように。
GM
足を止めれば、次に出すべき足はどっち?
GM
――それは7日目のこと。
GM
サブロール➁ - ウエノ&レーラ
GM
*お茶会 ラウンド1 ラタス2回目
レーラ
ウエノとふたりで通りを歩く。
ウエノ
手を繋いで、ふたり。
ウエノ
「何度来てもいい街ですよね、堕落の国にしては、ですけど」
ウエノ
左手には買い物メモ。
レーラ
「うん。たくさんモノがあるし」
レーラ
「末裔のみんなに少しでも活気があると、なんだか楽しい」
レーラ
街の住民たちを眺めて、そう零す。
ウエノ
「全員うなだれてたりしたらやってらんないですからね~」
ウエノ
この街にはじめて訪れたときは。
ウエノ
レーラはこのような喋り方はしていなかった。
レーラ
よいしょと、荷物を抱え直す。
ウエノ
「あ、ラタスの靴下も買っておかないと」
ウエノ
穴空いてましたからね、とつぶやく。
レーラ
「ラタス、そういうの気にしないもんね」
レーラ
「……クロウもかな?」
ウエノ
「あたしたちが気をつけてあげないとですね!」
ウエノ
リュックサックを揺らす。
レーラ
「うん」
ウエノ
衣料品店は……たしか、あっちだ。
ウエノ
ん?
ウエノ
「どっちでしたっけ??」
レーラ
「え?」
レーラ
ぱちくりと瞬く。
ウエノ
「いやっこれは……久しぶりだから!」
ウエノ
「久しぶりだからわからなくなってるだけですよ!!」
レーラ
「……ふふふ」
レーラ
くすくす笑って、ひょい、と道の一方を指差す。
レーラ
「あっちだったと思う」
ウエノ
「さすがレーラ!」
ウエノ
「よく覚えてるんですねえ」
ウエノ
てくてく。歩みは指さした方向へ。
レーラ
鈍いまばたきが一度だけ。
レーラ
ローラはレーラ。
レーラ
「こういうの、覚えるのだけは得意なんだ」
レーラ
少しの遅れを取り返すように、小走りでウエノの隣に並ぶ。
ウエノ
「そんな。レーラにはもっとたくさん、得意なことがあるじゃないですか」
ウエノ
ウエノは、頑なにあなたをレーラと呼ぶ。
レーラ
そうかなあ、なんて呟く。
レーラ
「例えば?」
ウエノ
「器用ですよね、色々と」
ウエノ
「戦い方もそうですし、あたしがどうにかなっちゃいそうなときは」
ウエノ
「気付いて支えてくれますし」
ウエノ
「……あ、そうだ。 優しいんです、レーラは」
レーラ
「優しい、かあ」
レーラ
ちょっぴり困った風に笑う。
ウエノ
「はい! やさしいです!」
ウエノ
「きっと、ローラに似たんですね」
レーラ
「……」
レーラ
わたしに?
レーラ
陶磁器の人形にでも代わったよう、束の間言葉が詰まる。
レーラ
「そう、なのかも」
レーラ
思い出している。
レーラ
ローラなら、こういう時。
レーラ
「あの子も、いつもそう言ってくれてたんだ」
レーラ
「ウエノみたいに」
レーラ
歩く。
ウエノ
「じゃあそれが得意なことってのは、間違いないですね」
ウエノ
「ほら、着きました! とうちゃ~く」
ウエノ
衣料品店は、他の店よりもホコリっぽい感じがする。
レーラ
「……うん。そっか。そうなんだ」
ウエノ
店には帽子屋の末裔がひとり。
レーラ
色とりどり……とも言えない衣料品たちを見て、それでも嬉しそうに笑って。
レーラ
「くしゅんっ」 と小さなくしゃみ。
ウエノ
「あははは」
ウエノ
堕落の国の縫製品の質は当然ながら、高くはない。
ウエノ
すぐほつれて、ほこりやくずを産んでしまう。
ウエノ
亡者の皮で作ったものは、ある程度はもつけれど。
ウエノ
「あ、やばい柄の靴下ありますよ」
ウエノ
「これを履かせましょう!」
レーラ
「み、見せて?」
レーラ
気恥ずかしさを誤魔化すようにウエノの手元を覗き込む。
ウエノ
小さなエビフライが無数に踊りまくっている柄だ。
ウエノ
びたんびたん跳ねてる。
レーラ
センスない柄だ……。
ウエノ
店の末裔がそれ俺が作ったんですよ、と口を挟んでくる。
レーラ
「かわいい。いいな」
ウエノ
「クロウとラタスに履かせましょう。おそろです」
レーラ
「すっごく良いと思う!」
レーラ
「きっと、いい思い出になるでしょう?」
ウエノ
「決まりですね!」
ウエノ
かごに二足色違いのそれを入れて。
レーラ
頷く。
ウエノ
「レーラもほしいものはありますか?」
ウエノ
「あたしはそろそろブラが擦り切れてきてて……」
レーラ
「あ。ええと……」
レーラ
「えっ」
ウエノ
「そろそろ必要じゃないですか?」
ウエノ
そんなことないですか? とレーラをじっと見つめる。
レーラ
「……そうかも?」
レーラ
思わず自分を見下ろす。
レーラ
気になるほどかなあ……。
ウエノ
「意外と早くつけなきゃいけないんですよお」
ウエノ
「少なくとも日本ではそうでした」
ウエノ
あたしははじめては11のころだったかな~、なんて。
レーラ
「ふ~ん……」
ウエノ
「恥ずかしいことじゃないんですよ」
ウエノ
「生きていくってことは」
ウエノ
パッドの入っているキャミソールを手にとる。
ウエノ
「こういうのからはじめるといいと思います」
レーラ
受け取って、まじまじと見て、ふむふむ。
レーラ
「これを、普通の服みたいに着ればいいの?」
ウエノ
「あたしは下着みたいに着ると思ってますけど……」
言いかけて、末裔からそのまま着ても大丈夫ですよ、という話が出る。
ウエノ
刺繍が入っていて、シャツのように着ても問題なさそうだ。
レーラ
「じゃあ、どっちでも着れるんだ」
レーラ
両方の言葉を受け取って肯く。
レーラ
「あ、えと、ウエノは?」
レーラ
「ウエノはどれにする?」
ウエノ
「あたし? あたしは~~……」
ウエノ
ブラジャーのコーナーに目を向ける。
ウエノ
「えと……」
ウエノ
「どれが似合うと思います?」
レーラ
「う~ん……」
レーラ
口許に指をあてて、店の一角とにらめっこ。
レーラ
「こういうのとか?」と、黒くて可愛らしいものを指差す。
レーラ
いつもなら『汚れが目立たないだろうから』とか
気の利いた一言があっただろうけど。
ウエノ
「え? か、かわいすぎませんかぁ……?」
ウエノ
言いながら手にとってまじまじと眺める。
レーラ
「ぴったりだと思う。ウエノ、かわいいもん」
ウエノ
「え、ええ~!」
ウエノ
「そ、そ、そんなことないです。レーラのほうがかわいいです」
ウエノ
「……でも買います!」
レーラ
「じゃあ、両方かわいい。おそろいだね」
レーラ
うんうん!と頷いて、店員さんに目配せ。
ウエノ
「全くもうっ、レーラってば!」
ウエノ
まんざらでもなさそう。
ウエノ
あとはいくつかの消耗品を持って、お会計。
ウエノ
「酒場で待ち合わせでしたよね。早く行ってあげないと、どんどんお酒を飲んじゃいます、あの二人」
レーラ
ありがとう、と店員に一言告げて。
レーラ
「あっ。そうだった」
レーラ
「わたしたちが気をつけてあげなきゃ、だもんね」
レーラ
店を出て、ふたりで歩いていく。
ウエノ
「うん! 行ってあげましょうか」
ウエノ
「しょうがないやつらですからね~」
ウエノ
手を繋いで。
GM
GM
*お茶会 ラウンド1 レーラ
レーラ
1d6 (1D6) > 6
GM
13日目。
レーラ
*ラタスの『汚れた手』を抉り、クエストNo.6に挑戦します。
クエストNo.6 女を抱く
概要 :ナンパなどで誘うか買うかして、女と夜を過ごします
目標値 :9
消滅条件 :成功するか、日数が20日目以降になると消滅
成功 :PKのデッキを公開する
失敗 :特になし
レーラ
1d12 (1D12) > 8
GM
8 .口笛。仲間がなんとなしに吹いたそれが、今をあの日と結びつける。
GM
荒野を歩いている。
GM
ラタスは口笛を吹いている。
GM
以前にも宿にした、廃墟にたどり着く。
ラタス
「ふー、まだ残っててよかったな」
ラタス
廃墟の寝室にどかどかと荷物を置く。
レーラ
「うん」
レーラ
「野宿ばっかりだと大変だもんね」
ラタス
「だな~」
レーラ
部屋の点検を兼ねて、壁をきょろきょろと眺める。
レーラ
もう服は取り替えているから、その背中に穴は空いていない。
ラタス
背中を刺したことを、ラタスはまだ謝っていない。
レーラ
「疲れてるなら先に寝ててもいいよ」
ラタス
「あー」
ラタス
「そうすっかな……」
ラタス
ほこりまみれのベッドを手で適当にはたく。逆にもっとほこりが出てきて、諦めてそのまま横になる。
ラタス
帽子を顔に乗せる。
レーラ
そんな様子を見ながら、雑然としていた荷物を整えていく。
レーラ
ローラはそんな風にして、他人の世話をするのが好きだった。
レーラ
やたらに世話を焼きたがった、とも言えるけど。
レーラ
「……」
レーラ
片付けの一通りを終えて、ひとり残ったままの姿を見やる。
レーラ
立ち上がって一歩、二歩、歩くたびに薄く埃が舞う。
レーラ
「よいしょ」
レーラ
ぽふん、とラタスが横たわるベッドに腰掛ける。
ラタス
特に気にかけたりもしない。
レーラ
かんばせは、帽子の輪郭に隠れて見えない。
レーラ
「……ラタス?」
レーラ
小さく呼びかけてみる。
ラタス
返事はない。眠っている。
レーラ
返事がない。もう眠っているのだろうか。
レーラ
帽子を退けてみる。
レーラ
寝ているなら起こさないよう、そうっと。
ラタス
特にそれで起きたりはしない。
ラタス
寝息に、人工肺の機能する音が交じる。
レーラ
もう随分と聞き慣れた音。
レーラ
それでじいっと、無防備なラタスの顔を見下ろしていたけれど。
レーラ
手のひらを伸ばして、男の髪に触れる。
レーラ
柔らかな手つきで、頭を撫でる。
ラタス
荒野の砂と数日歩き詰めで、がさがさとした手触り。
ラタス
「んおっ」
ラタス
起きる。
ラタス
「どうした」
レーラ
「起こしちゃった?」
ラタス
「起きちゃったぜ」
レーラ
「そっか……ごめんね」
ラタス
「……」
ラタス
「あんた……誰だ?」
ラタス
あれからもう10日以上立つ。
ラタス
レーラがまともじゃないくらいわかる。
レーラ
「ローラ」
レーラ
「あの子から、その話は聞いてたでしょう?」
レーラ
その間も穏やかな表情で、ラタスを見下ろしている。
ラタス
「ああ、聞いてる」
ラタス
「そう呼んだほうがいいか?」
レーラ
「好きな方でいいかなあ。
 あの子はわたしで、わたしはあの子だもん」
レーラ
本当は。
レーラ
レーラの名前は呼ばなくたっていい。
レーラ
そんな、不要な仲間の名前。
ラタス
「じゃあレーラにしておくか。そっちのほうが慣れてるからな」
レーラ
「そっか」
ラタス
「お前が『そう』なのは、おれが刺してからだな」
レーラ
「そうかも?」
レーラ
小首を傾げてみせる。
レーラ
「気にしてる?」
ラタス
「いや」
ラタス
「おれは今でもお前らが愛想つかしてどっか行ってくれてもいいと思っている」
レーラ
「ふふふ」
レーラ
「多分、それは無いんじゃないかなあ」
ラタス
「ないかあ、そうかあ」
レーラ
「うん。ウエノはそんなこと言わないと思うし、クロウもそう」
ラタス
「それは、なんでだ?」
レーラ
「……」
レーラ
頭を撫でている。
ラタス
撫でられている。
レーラ
「ラタスが色んなことをして。
 本当にもしも、他の誰もいなくなったとして……」
レーラ
「それでも、わたしはラタスのことが好きだと思う」
ラタス
「ははは、それはありがたいな」
ラタス
「おれもレーラんこと好きだぜ」
レーラ
微笑む。
レーラ
「ラタスはなんで、って言うけど」
レーラ
「ラタスにはラタスの考えがあって、
 それで、やりたいようにしてるんでしょ?」
レーラ
「わたしは、それなら良いって思うかな」
レーラ
「好きな人が、
 そうやって幸せになってくれるなら、わたしはそれで良いの」
レーラ
「そこには、意味なんてなくていいと思う」
ラタス
「……」
レーラ
それは、いつか“レーラ”が聞かされた言葉。
ラタス
「……お前はどんな世界から来たんだ?」
ラタス
レーラからは聞いたことがあるが、ローラを通しては聞いたことがない。
レーラ
問われたものには素直に。
レーラ
「わたしがいたのは白い壁ばっかりの部屋で、
 外のことはほとんど分からなかったけど……」
レーラ
「そこでずっと、たくさんの人にお世話してもらってた」
レーラ
以前にも話したことがある。それをラタスの顔を窺って、確かめるように。
ラタス
レーラの顔を見ながら聞いている。
レーラ
「難しそうな機械だとかが置いてあって、たまに注射とか、ご飯と一緒にお薬を飲んだりとかして……」
レーラ
「それだけの世界。だったけど」
レーラ
「でもね、レーラがいてくれたから楽しかったなあ」
レーラ
「お話してくれたり、一緒に本を読んでくれたりして、寂しくなかった」
ラタス
「そうか」
ラタス
「……おれはお前を見ていると、ガキのことを思い出す」
ラタス
「ムスクルスって名前で、白い髪をしていた」
ラタス
「死んでいるかもしれない、が……」
ラタス
「案外生きているかもしれない」
ラタス
「この人工肺っていうのは高価な代物でよ」
ラタス
「それなりに『お仕事』しなきゃいけない」
ラタス
「まあ、そんな世界でガキを3人も面倒みるのも、大概だ」
レーラ
微笑んだままで、じっとその話を聞いている。
レーラ
いつもなら随分お人好しだとか、茶々でも入っていたことだろうけど。
ラタス
「おれは『駆除屋』をしていた」
ラタス
「まあ、人を殺す仕事だ」
ラタス
「依頼に従ってな。ナイフを使うこともあれば、水源に毒を流すこともあった」
ラタス
「今も昔も変わらない」
ラタス
「お前はどうだ? 人を殺すことについて」
ラタス
「どう思う?」
レーラ
言葉を聞き終えて。それから、ゆっくりと黄金色が瞬いた。
レーラ
「良いことじゃない、と思う」
レーラ
「でも……」
レーラ
「でもね」
レーラ
「はじめから、殺そうと思って殺したんじゃないでしょう?」
レーラ
「それならわたしは、悪いことをした人にも優しくしてあげたい」
レーラ
撫でる。
ラタス
「……」
レーラ
「理由があったなら、しょうがないって思う」
ラタス
「そうだな、しょうがない」
ラタス
「生きるにはそれしかない」
ラタス
「救世主は……」
ラタス
「救世主は救世主を殺す」
レーラ
「うん」
ラタス
「情けない話だが……」
ラタス
「おれはそれが嫌になった」
レーラ
*才覚で判定します。
レーラ
*ティーセットを使用します。
レーラ
2d6+3+2=>7 判定(+才覚+ティーセット) (2D6+3+2>=7) > 6[4,2]+3+2 > 11 > 成功
GM
クエストも成功ですね。
ラタス
「肉体が無事でも、責務を果たしていても、心が死ねば亡者になる」
ラタス
「あの救世主を殺したときに、限界を迎えたのがわかった」
ラタス
「もうおれはダメだってな」
レーラ
僅かな間だけ、あなたに触れる仕草が止まる。
[ ラタス ] 汚れた手 : 0 → -1
レーラ
「……『ラタスは、意味のないことはしない』」
レーラ
「あの子が、言った通りだった」
ラタス
意味のないことはしない。
ラタス
それは意味のないことに耐えられないだけだ。
レーラ
「ずっと一緒に、いたから……」
レーラ
歯車のいかれた人形みたいに、声が切れ切れに落ちる。
レーラ
「そんなの、分からないわけ、ないのに」
ラタス
互いにスラムに生きるもの同士、違いはない。仲間か、それ以外か。
ラタス
救世主同士違いはない。仲間か、それ以外か。
ラタス
相手を殺すことと、例えば仲間を殺すことと、どんな違いがあるというのか。
ラタス
どんな意味が。
ラタス
「……おれはこの世界にきて初めて鳥を見た」
ラタス
「亡者になって飛べるようにもなろうなら、きっと青空の向こうにいけるだろう」
ラタス
「知ってるか? 亡者になってしばらくは、意識が残ってる噂だぜ」
ラタス
「もしそれが本当なら、飛んで元の世界に戻れば、あとはたった1往復」
ラタス
「あいつらを青い窓の向こうに運んでやることができるだろう」
レーラ
仲間でいること。誰かを殺すこと。
レーラ
いつかの日に亡者に成ること。
レーラ
今、生きているということ。
レーラ
我々はそうしてそこに、意味を見出している。
レーラ
見出さずにはいられない。
レーラ
「ラタス……」
レーラ
“レーラ”には言葉が浮かばない。
レーラ
意味を求めてしまうから、
その全てを仕方ないなんて、言い切ることができない。
レーラ
……そうと、優しく触れる。
ラタス
黒く塗り込まれたナイフで撫ぜることと、白く柔らかい手で撫でることの違いは。
レーラ
触れて。そうして、ラタスに被さるように抱きしめる。
レーラ
冷たいナイフと。少女のぬくもり。
ラタス
帽子が転がり落ちる。
ラタス
「……」
ラタス
ナイフで深々と内臓を抉る時の肉薄と、親密な相手を抱き返すときの違いは。
ラタス
感情があるのかないのかわからない、ゆっくりとした動作で抱き返す。
レーラ
「だからって、“そう”あろうとしなくても良いんだよ」
レーラ
「悪い人になろうとしなくて、良いの」
ラタス
善いことと、悪いことの違いは。
ラタス
返り血と、生きた肉体の温度の違いは。
ラタス
「……逃げただけだ」
ラタス
「お前たちから」
レーラ
「それは、言いたくなかった?」
レーラ
胸の上から見上げる。
ラタス
「じゃないとかっこつかないだろ」
レーラ
微かに息が零れる。笑う。
レーラ
「かっこつけなくても良いのに」
レーラ
「どんなラタスでも、私は良いんだよ」
レーラ
ローラは。
レーラ
優しい女の子だった。
ラタス
「……悪いな、一緒にいてやれなくて」
レーラ
華奢な腕がラタスに触れる。
レーラ
「……」
レーラ
包帯と淡い髪とが、その上にちらばっている。
ラタス
13日前に殺した少女と、今自分を抱いている少女の違いは。
レーラ
そうして、見出さずにはいられない。
レーラ
けれど、ローラは違う。
レーラ
「それでもいいよ」
レーラ
ローラは。
レーラ
レーラの為ならば、自分を明け渡すような。
レーラ
そういう子だったから。
ラタス
「よくは、ないだろ」
レーラ
微笑む。
レーラ
ラタスの頬に触れて、布が擦れる音がして。
GM
GM
*クエストNo.6 女を抱く 成功!
*クエストNo.6成功により、PKのデッキを公開します。
GM
――それが13日目のこと。
[ レーラ ] ティーセット : 1 → 0
GM
サブロール➂ - ウエノ&クロウ
GM
*お茶会 ラウンド1 レーラ
ウエノ
「前方、異常な~し」
クロウ
「おー」
ウエノ
廃墟の中を安全点検。
ウエノ
耐震性などはチェック項目には含まれていない。
ウエノ
「亡者、いなそうですね」
クロウ
「おー」
クロウ
しっかりと見回りはしているようだが、どことなく返事が雑だ。
ウエノ
「右も異常なーし」
ウエノ
声が廃墟の中に反響する。
ウエノ
「……」クロウを振り返る。
クロウ
「ん?」
クロウ
「なんだよ」
ウエノ
「ラタスとなんの話したんですか?」
ウエノ
単刀直入。
ウエノ
「この前の街を出てから、なんだかおかしいですよ」
ウエノ
「まさかエビフライの靴下が気に入らなくてヘソを曲げてるんです?」
クロウ
「そんなことでへそは曲げねえよ、今履いてるし」
よく見えないが、靴を持ち上げる。
クロウ
「センスはどうかと思ったけどなぁ」ひひひと笑う
ウエノ
「そんな! あの帽子屋さんに謝ってください!」
ウエノ
「これは年に一回あらわれるエビフライの亡者をモチーフにしたやつで……」
ウエノ
言葉を切ってクロウを見上げる。
ウエノ
「本当にどうしたんですか?」
クロウ
「…しょうもない話と、しょうもなくねえ話をしただけだよ」
クロウ
「別に、そこまで気にするようなこっちゃねえよ」
ウエノ
「そう、ですか……」
ウエノ
「天井、異常なーし」
ウエノ
人差し指を丸める。
クロウ
「………」
ウエノ
「クロウ、元気がないの、あたしにもわかります」
ウエノ
「あれから、わかりやすくなりましたね。クロウは」
クロウ
「まあ、そうかもしんねえな」
クロウ
「ひひひ、お前のせいだぞ〜」
ウエノ
「あたしはうれしいですよ」
ウエノ
「だって……」
ウエノ
「あたしの何かが、クロウの何かを変えたってことですから」
ウエノ
「悪いことかもしれないですけどね」
クロウ
「勝手に人を変えちまうのはよくねえぜ〜?」
クロウ
「ちゃんと責任取れんのか〜?」ひひひ、と笑う
ウエノ
「勝手でしたか?」
ウエノ
「いや、でしたか?」
ウエノ
二歩、歩みを寄せて。
ウエノ
その手を両手でとる。
クロウ
「………」
ウエノ
「知ってましたか?」
ウエノ
「あたし、イヤなやつなんですよ」
ウエノ
「離れていってほしくないんです。誰にも」
ウエノ
「ラタスが元の世界に帰りたがってるの、あたし、邪魔しようと思ってるんです」
ウエノ
「協力しようなんて、まったく思ってないんですよ」
クロウ
「ふぅん」
クロウ
「まあ、別にいいんじゃねえの」
クロウ
「あいつだって勝手してるわけだしな」
クロウ
「俺も別に、協力しようなんて思ってねえしな」にやりと笑う
ウエノ
「じゃあどうしようと思ってるんですか?」
ウエノ
「あたしは、クロウにも離れていってほしくないです」
ウエノ
「クロウがクロウじゃなくなってしまっても、です」
ウエノ
「イヤなやつです、あたしは」
ウエノ
「あたしがそばにいないと、みんなダメになってほしいんです」
ウエノ
握る手にわずかに力が籠もる。
ウエノ
震える指先。
クロウ
「………」
その手を、握り返すことはしない。
クロウ
「…俺は、それに対する答えを持っちゃいねえけどよ。いいんじゃねえの、お前はそれで」
クロウ
「必要とされてえってのは、人間としてはよくある欲求だろ」
クロウ
俺自身は、知らねえけど。
ウエノ
「本当ですか?」
ウエノ
「言ってなかったですけど、この魔法、かなり危ないものなんですよ」
ウエノ
「クロウにも、ラタスにも、レーラにも、魔法をかけてあげましたけど」
ウエノ
「今はあたしが定期的に魔法をかけているから、辛い思いはそこまでしなくて済んでいるはずです」
ウエノ
「でも、しばらくかけないでいると、すごくつらい思いをすることになるんです」
クロウ
「へぇ、そりゃあ…」
ウエノ
「とてもひどい」
ウエノ
「ひどくてイヤなやつです」
ウエノ
「体が震えたり、発熱したり」
ウエノ
「悪夢を見たり、自分の全身に虫がたかっているように思えたり」
ウエノ
「いろんな人の声が聞こえたり、激しい痛みがあったり」
クロウ
「なるほどねぇ…」
ウエノ
「怒らないんですか?」
クロウ
「そりゃ確かに、ひどくてイヤなやつだな」
ウエノ
怒られないことを確信して、こうして話をしている。
クロウ
「俺らはいつの間にか、ウエノから離れられねえようにされていたわけだ」
クロウ
「ひひひ、なかなかのやり手じゃねえか」
クロウ
掴まれていた手を軽く引っ張る。
クロウ
「で?なんで、それを今言ったんだ?」
ウエノ
「……」
ウエノ
「責任をとれるのかって聞きましたよね」
ウエノ
「あたしのせいにしていいですよ。 これから起きる、いやなことは、全部」
ウエノ
「事実、そうですから」
ウエノ
ウエノの腕は絆創膏や包帯が巻かれている。
ウエノ
そこから青あざがちらりとのぞいている。
クロウ
「いやなこと、ねえ…」
ウエノ
「いやなことですよ」
ウエノ
「現実を見ることって」
クロウ
「まあ、そうか」
クロウ
「そうなのかもな」
ウエノ
「だってここで、あたしたちが一緒にいること」
ウエノ
「……なんの意味も、ないでしょう」
ウエノ
「そうですよね?」
クロウ
「そうだな、意味はねえな」
クロウ
「救世主が4人いることで、生存確率が上がる。そんくらいのもんだ」
クロウ
「…それは、お前にとっていやな現実なのか?」
ウエノ
「でもそれは、裏切りと隣合わせです」
ウエノ
「次の責務まで、あと17日……だいたい半月」
ウエノ
「しかも、あたしたちは今、他の救世主を殺すよりも、大事な用事があります」
ウエノ
『狂飆の頂』。
クロウ
「………」
ウエノ
「そんなものが本当にあるかなんて、わかりませんけどね」
ウエノ
「なかったとしたら」
ウエノ
「殺す相手を探さなければいけない。そうですよね」
クロウ
「そうだな」
ウエノ
「いやな現実です」
ウエノ
「どう考えても」
ウエノ
「リアルに、考えれば、考えるほど」
クロウ
「じゃあ、そん時ゃ…目を瞑っておけばいい」
クロウ
「そしたら、俺がその間に死んどいてやるよ」
ウエノ
「なんでそんなことを言うんですか……」
ウエノ
また一歩、歩みを寄せる。
ウエノ
体と体が密着する。
ウエノ
きみにしなだれかかる。
クロウ
「この4人で殺し合わなきゃなんねえ時、死ぬなら自分だと…前から考えてはいた」
クロウ
「もちろん、他に生きる理由がねえとかで死にてえやつがいたら…俺は生きさせてもらうけどなぁ〜」
クロウ
その時は、不用品のまま生き残ることになるだろう。
クロウ
ただその場で、ウエノを支えることなく立っている。
ウエノ
「考えたくない……」
ウエノ
「いやな現実です」
クロウ
「でもありえる現実だ」
ウエノ
「じゃあ、クロウは、あたしたちに殺されるために一緒に旅をしてるんですか?」
ウエノ
「違いますよね」
クロウ
「そりゃそうだ、殺されるために生きては…」
クロウ
ーーーじゃあ、なんで生きている?
ウエノ
「生きのこるためでも、ないですよね」
ウエノ
温かい体。
クロウ
「………」
ウエノ
「こんな世界で、誰か別の人を殺してまで」
ウエノ
「生きる理由なんて……」
ウエノ
柔らかい少女の肉体。
ウエノ
「あたしのせいにしてもいいですよ」
ウエノ
「あたしのために、生きていて」
ウエノ
「あたしのために、旅をして、誰か殺している」
ウエノ
「そういうふうにしてもいいですよ」
ウエノ
「あたしを理由にしていいですよ」
クロウ
「………………………」
クロウ
「お前は」
クロウ
「結局、自分のせいにされたいだけだろ」
クロウ
寄りかかる少女の体を、肩を掴む。
クロウ
「自分が理由になりてえだけだろ」
ウエノ
「……えっ、あっ」
ウエノ
「っ……そうですよ!!」
ウエノ
「何か問題でも、ありますか!」
クロウ
「いや、別に」
クロウ
「そんなに求められてえのか?」
クロウ
肩を強く掴んで、押し返す。
ウエノ
「別に!?」
ウエノ
「そうに決まってるじゃないですか!」
ウエノ
温かい体も、震える指先も。
ウエノ
離れていく。
ウエノ
「だって、あたしはおねえちゃんだから」
ウエノ
「ホノカの世話をしなきゃいけないし」
ウエノ
「お父さんの、お小遣いだって用意しなきゃいけないし」
ウエノ
「なにか役に立たないと。役に立つ、理由がないと」
ウエノ
「人を幸せにしたり、お金を稼いだりして、必要なひとにならないと……」
ウエノ
下唇を噛んで、黙り込む。
クロウ
「…理由ね」
クロウ
それがあれば、不用品じゃなくなるのか?
クロウ
「俺がお前の理由になりゃいいのか?」
クロウ
「お前がいなきゃ生きていけねえような人間に、何もかもをお前のせいにしていく人間になりゃ…いいのか?」
クロウ
そうすれば…それが、俺の生きる理由になるのか?
ウエノ
「いやですか?」
ウエノ
「あたしじゃ、だめですか?」
ウエノ
「あはは、そうですよね」
ウエノ
「あたしはイヤなやつですし、なんの役にも立たないし」
ウエノ
「ラタスもそう、……言って、ましたもんね……」
クロウ
「いやとかだめとか、そうは言ってねえだろ」
クロウ
「わかんねえだけだ」
クロウ
「んなこと、自分じゃ考えたこともなかったからな」
クロウ
肩を掴んでいた手の力を緩める。
ウエノ
顔を上げる。
ウエノ
「今すぐ決めなきゃいけないわけじゃないんです」
ウエノ
「だけど……」
ウエノ
「考えてほしいんです」
ウエノ
「考えてくれますか」
クロウ
「…いいぜ」
クロウ
「俺には、考える必要があるもんっぽいしな」
ウエノ
「必要とかは、わかんないです……」
ウエノ
「ただ、あたしがわがままなだけですよ」
クロウ
「じゃあ」
クロウ
「ウエノはどう求められてえんだ?」
クロウ
「どーせお前のせいになるんだ、この際全部言っちまえよ」
クロウ
「俺がそれに答えられるかは、知らねえけど」
ウエノ
「…………」
ウエノ
目を伏せる。
ウエノ
「その、その、ですね」
クロウ
「おー」
ウエノ
「だ、」
ウエノ
「抱きしめてくれませんか?」
クロウ
「いいぜ」
それを聞くと同時に、少し屈んでウエノを抱き寄せる。
クロウ
大きな手で、腕で、体で。熱が伝わる。
ウエノ
柔らかい体。華奢な肩。くすぐる髪。
クロウ
「強さは?位置は?このままでいいのか?」
ウエノ
「ふ」
ウエノ
「ふつうの女の子みたいに」
ウエノ
「ふつうの女の子にやるみたいに、してほしいんです」
ウエノ
「クロウが思う、やり方でいいですから……」
ウエノ
緊張して、たどたどしい言葉。
クロウ
「ふつう、ね」
クロウ
一拍置いて、クロウの腕が動く。
クロウ
背中を撫ぜながら、手は首元に触れ、そのまま頭へ。
ウエノ
「っ」肩がぴくりと動く。
クロウ
大きな手で、髪を撫でながら、抱きしめる力は少し強くなる。
ウエノ
みるみるうちに頬が火照る。
クロウ
体がさらに密着するように強く抱く。けれど息が苦しくならないように。
クロウ
その細い腰に手を回し、さらに自分に寄せるように力を込める。
ウエノ
「ふっ、ふーー……」吐息に熱が籠もる。胸が、腹が、呼吸にあわせて上下する。
ウエノ
ウエノの腕がきみの背に回る。
クロウ
体に熱がこもってきたのを感じて、顔を寄せる。
ウエノ
「クロウ……」
クロウ
そうして耳元で囁く。
クロウ
「で、次は?」
ウエノ
「わっ、わかんない……」
ウエノ
「こういうふうにしてもらったこと、ないから」
クロウ
そのままお互いの頭をこすりつけ、答えを待つ。
ウエノ
「おとうさんに」
クロウ
「じゃあ、もう少しこのままだな」
ウエノ
「うん……」
ウエノ
目がうるんで、そのうち、目尻から涙がこぼれる。
ウエノ
きみの服を濡らす、熱い液体。
クロウ
それに気づくが、何も言わずにただ頭を撫で続ける。
ウエノ
「こんなの、だめなんじゃないかな」
ウエノ
「間違ってるんじゃないかな」
ウエノ
「こんなこと、していいと、思いますか?」
ウエノ
嗚咽混じりにつぶやく。
クロウ
「だめだし、間違ってるかもな」
クロウ
それでも、あなたを撫でる手は止めない。
クロウ
「でも」
クロウ
「全部お前のせいだからな」
ウエノ
旅で傷ついたぼさぼさの髪。
ウエノ
前に街を出てから、拭っておらず、砂にまみれている。
クロウ
「お前のせいなんだから、俺のことは気にしなくていいだろ」
クロウ
髪を梳くように指を入れ、頭を撫でる。
ウエノ
「そうなのかな」
ウエノ
「そうなの、かも」
クロウ
「それとも、やめる理由がほしいか?」
ウエノ
「いまは、このままがいい」
ウエノ
「このままでいいの……」
クロウ
「………」
その言葉を聞いて、ただ黙って撫でるのを続ける。
ウエノ
涙をこぼし続ける。
ウエノ
意味のない行いだ。
クロウ
少し、抱きしめる力が強くなる。
ウエノ
同じように抱き返す。
ウエノ
「ありがとう、クロウ」
ウエノ
「もうすこし」
ウエノ
「もうすこし、このままで」
クロウ
「礼を言われる筋合いはねえよ」
クロウ
「全部」
クロウ
「俺が誰かの理由になるために、お前のためにしてることだ」
クロウ
「…お前のせいだよ」
そう、耳元で囁く。
ウエノ
吐息が真っ赤な耳にかかる。
ウエノ
「う、ん」
ウエノ
「そうだね」
ウエノ
「そうだったね」
ウエノ
そして、また。
ウエノ
もうすこしこのままで、とつぶやいた。
GM
GM
*お茶会 ラウンド2 ウエノ
ウエノ
1d6 (1D6) > 5
GM
18日目。
ウエノ
*レーラの心の疵『砕けた鏡』を舐めます クエストNo3に挑戦します
クエストNo.3 おいしい果物を食べる
概要 :新鮮でおいしい果物を手に入れ、食べる
目標値 :8
消滅条件 :成功するか、日数が20日目以降になると消滅
成功 :PC全員のHPを3点回復する(HPの上限を超える)
失敗 :特になし
ウエノ
1d12 (1D12) > 3
GM
3 .揺れる荷台。通りがかりの隊商に護衛として乗せてもらう。揺れる荷台で風を受ける。
ウエノ
18日目。
ウエノ
次の目的地だった村は既にあとかたもなく。
ウエノ
何日か足止めを食らってしまった。
ウエノ
途方に暮れていた時、通りがかりの救世主に友好的な末裔の隊商に、護衛として乗せてもらえる運びとなったのだ。
ウエノ
「いや~~ラッキーでしたね!」
ラタス
「ラッキーでしたね~」
クロウ
「ね〜〜〜」
レーラ
「みんなへとへとで死にそうだったもんね」
ラタス
「いや~死にかけだったぜ」
ウエノ
「6割死んでましたね!」
ラタス
「もう一歩も歩けないよ~~ってなってたな、クロウが」
ウエノ
「泣いてましたもんね~」
クロウ
「誰もおんぶしてくれなくて大変だったよぉ〜」へらへら
ウエノ
「……」
ラタス
「え~ん」
ウエノ
「やっやめなよ」
レーラ
「え? でも……」
クロウ
「え、なにが?」
レーラ
ほわわんとおんぶされていた任意の人のことを考えています。
ウエノ
「やめよう! やめよう!」
ウエノ
「この話はここで終わりです!!」
クロウ
「では次の話題をどうぞ」すっ
ウエノ
「無茶振りだー!?」
ウエノ
「えー。ええ~」
ウエノ
「じゃあ……好きな食べ物とか……」
ラタス
「肉だな」
クロウ
「肉だな」
ウエノ
「肉だな……」
ウエノ
「あっ、でも、コンビニのホットスナックが好きでした」
ラタス
「でたなコンビニ……」
ウエノ
「ビッグアメリカンドッグ……」
クロウ
「こんびに、何でも屋みてえなやつな」
ラタス
ラタスはコンビニが全てを売っているすごいところだと思っています。
ウエノ
「日本人救世主あるあるみたいな反応やめてください!」
クロウ
クロウもそう思っています。
ラタス
「そこにいけばあれだろ、すべてが手に入るっていう……」
ウエノ
「はい!」
ウエノ
「なんか……なにもかも得られます」
クロウ
「そんな場所が国に無数に存在しているってのか…、すげえな日本」
ラタス
「すげえな~」
ウエノ
「電気料金の支払いもできます」
ラタス
「すげえな~」
ラタス
よくわからないが……。
ウエノ
「水道料金も……」
クロウ
「すげえぜ…」
ラタス
「すげ~」
ウエノ
「レーラはどうなんですか?」
ウエノ
「好きな食べ物」
レーラ
「えっ」
レーラ
難しい会話をしているな……と考えていたところ。
ウエノ
覗き込む。自分の顔に髪がかかるのを指ではらいながら。
ラタス
真似してクロウの顔を覗き込んでいる。
ウエノ
「ローラとそれぞれ違うんですかね? 好みとか」
クロウ
髪を指ではらう真似をしている。
ウエノ
殴る。
レーラ
「お肉は……あんまりかも?」
レーラ
殴ってる……。
ラタス
「いたっ」
クロウ
「い"っ」
レーラ
ローラは何が好きなんだっけ。
ウエノ
手をパンパンとはたいた。
ウエノ
「コンビニには、ほかにもいろいろあるんです」
ウエノ
「チロルチョコとか。うまい棒とか」
レーラ
「ちろるちょこ、うまいぼう……」
ラタス
うまい棒……。
クロウ
うまそうだな、うまい棒…。
ラタス
いまラタスの頭によぎっているのは千歳飴みたいなものです。
レーラ
反芻する。レーラは、ウエノが知らない言葉を教えてくれるのが好きだった。
ウエノ
チロルチョコもうまい棒も、100円以内で買えるんですよという話をする。
ウエノ
ふたつ買ってもワンコイン以内なんですよ!!
ウエノ
力説。
ラタス
ティーセットはいくらだ?
ラタス
ヤリイカは?
クロウ
よくわからんが安く買えるんだなということは伝わった。
ウエノ
イカの炙ったやつはあります。
ウエノ
お茶も買えます。どっちも割高。
ラタス
馬鹿な……イカを食べるだと……?
ウエノ
「少食ですよね、レーラって」
ウエノ
ウエノはわりと食べます。
レーラ
「うーん。お腹いっぱい食べること、あんまりなかったから」
ラタス
最近は少食です。
レーラ
「……あ」
レーラ
「おいしいお薬は好きだったよ」
ウエノ
「おいしい薬?」
レーラ
「あまいのと、にがいのがあったんだけど……」
レーラ
「それの、あまい方」
ウエノ
「シロップとかですか?」
レーラ
「シロップも、固まってるのも好き」
クロウ
「へぇ、甘い薬なんてのもあんだなぁ」
ウエノ
「出してあげられればよかったんですけど……」
ウエノ
ウエノがふんってやるとステッキからばんそうこうがいっぱい出てきた。
ウエノ
荷台から外へ風に乗って飛んでいく。
レーラ
「うん。なんの味かって聞いてみたらね、何かのフルーツなんだって」
レーラ
「あっ」 ひらひら飛んでいく絆創膏を目で追う。
ウエノ
「やっぱダメですねえ……」
ウエノ
ピンク色のばんそうこうを指で弄ぶ。
ウエノ
「いちご味のシロップとか、風邪薬であるんですよ」
レーラ
へえ~っと聞いている。
ウエノ
「子供のころは時々飲んでたから……いけるかなって思ったんですけど」
ラタス
「薬、高えんだよな~」
クロウ
「こっちは大体直接だったぜ〜」ぶすっ、と注射をする仕草
ウエノ
「あたしの十八番でもありますねっ」
ウエノ
「……こう聞くと日本はほんと恵まれた国でしたね」
ウエノ
「基本的には」
ウエノ
荷台から足を投げ出してぱたぱた動かす。
ウエノ
「おくすりのフルーツ味って、ほんとうのフルーツとはまた違うんですよ」
レーラ
「そうなの?」
ウエノ
「いちごの風邪シロップも、ほんとうのいちごとは全然違うんです」
ラタス
「へえ~」
レーラ
「日本には、それもあった?」
ラタス
日の差さない世界に果物があるわけもなく。
ウエノ
「はいっ。赤くて、これくらいで、丸くて……」
ウエノ
「みどりいろの、王冠みたいなヘタがついてるんです」
ウエノ
「で、すっごいタネが……無数に……」
ウエノ
「表面にめちゃくちゃついてる……」
ラタス
「……なんか結構グロくないか?」
ラタス
「果物怖くなってきた」
クロウ
「ひひひっ」
ウエノ
「冷静に考えたら……グロい気がしてきました!!」
ラタス
「果物こえ~」
レーラ
「で、でも、きっとおいしいから……」
ウエノ
「そうです! すごくおいしいんです!」
ラタス
「目当ての村がなんかクレーターみたいになってたからな」
ウエノ
「甘くてすっぱくて……」
ウエノ
たしかにイチゴみたいになってたな、村……
ウエノ
「すごく汁気があるんです」
ウエノ
「じゅわ~~って感じ」
レーラ
「甘いのとすっぱいの、一緒になるんだ……」
ウエノ
「うう……また食べたい……」
クロウ
「こっちにあるかねぇ?」
ラタス
「くだものの禁断症状か?」
ウエノ
「いちごをあたしのヤクと一緒にしないでくださいよお~」
ラタス
くだものはなかったが、ドラッグは出回っていた。
ウエノ
「禁断症状っていうより」
ウエノ
「みんなに食べさせてあげたいですよ」
ウエノ
「レーラもローラも、きっと好きですよ」
ウエノ
「大好物になります!」
GM
「あっ、あの~」
レーラ
ぱちくりと瞬く。
GM
隊商の、トカゲの末裔が話に入ってくる。
GM
「く、果物でしたら、ちょうど森のほうから仕入れたものが、ありましてぇ~」
ウエノ
「え!?」
ウエノ
がばっとそっちに振り向く。
ウエノ
「ほんとーですか!?」
GM
「おっ、お売りすることなら、できますよ~」
ウエノ
*判定します クロウのティーセットを使用します
[ クロウ ] ティーセット : 1 → 0
ウエノ
2d6+3+2=>7 判定(+愛) (2D6+3+2>=7) > 8[2,6]+3+2 > 13 > 成功
GM
提示された額は手持ちで出ないこともない額だ。
ウエノ
「も……もうすこしまけてくれませんか?」
ウエノ
「あの……あたし、いろいろ渡せましてえ」
GM
「きゅ、救世主さまと言えど……」
GM
「色々……?」
ウエノ
布にくるまれた注射器を3本ほど見せる。
GM
「……」
GM
「これは……?」
ウエノ
「これを使うとすごくいい気持ちになれるんです。あたしの住んでた日本ではとても流行っていて……」
GM
救世主の持ち込んだものは、物によってはとんでもない額でやり取りされる。
ウエノ
「あたしと同じ日本の人には、すごく高く売れると思います」
GM
「……す、すぐにお待ちいたします」
GM
トカゲの末裔は木箱を持ってくる。
GM
上等な木箱を開けると、なかにちょこんと4つほど入っている。
ウエノ
仲間の三人に向かってピースしました。
ウエノ
やったよ~!
ラタス
やった~!
レーラ
「な、なにを渡したんだろう……」
クロウ
「闇取引を見てるみてぇだ」けらけら
ウエノ
「夢と希望です」
GM
「そ、それではご賞味くださいませ……」
GM
末裔は夢と希望を大切にしまった。
ウエノ
そうして木箱を覗き込む。
レーラ
「へえ~」
ウエノ
「うわ、うわ、うわうわ」
ウエノ
「うわーーー!!」
ウエノ
たちまち興奮しはじめます。
レーラ
「どんなのだった?」
ウエノ
「グロいやつです!!!!!」
レーラ
なんて聞きながら一緒になって覗き込みます。
レーラ
ぶつぶつしている。
ラタス
恐る恐る覗き込む。
クロウ
よっこらせ
ウエノ
「まさかこの国にもあるなんて……」
ラタス
「おもったよりかわいいじゃねえの」
ウエノ
赤くてつやつや。
クロウ
「想像よりちっさかったな」
ウエノ
ちっちゃくてまるくて、先がとんがってる。
ウエノ
「すごーい!!」
ウエノ
「あたしたち、ほんとにラッキーですよ! これ、いちごです! いちご!!」
ラタス
「コンビニで売ってるか?」
ウエノ
「なんと……売ってます!!」
ラタス
「コンビニやべ~」
レーラ
「これが、いちご……」
レーラ
まじまじと見る。
ラタス
ドラッグも売ってるんだろうな。
ウエノ
「触ってみますか?」
ラタス
「あっ、暴れたりしないか?」
ウエノ
「あはは! しませんよ!」
レーラ
「動くの?」
クロウ
「この種が飛んできたり?」
ラタス
「いちごこえ~」
ウエノ
「大丈夫です大丈夫です」
ラタス
しんけんなかおつき。
ウエノ
ほら! と、ひとつ摘みあげる。
ラタス
いちごこえ~。
ウエノ
「おいしそうでしょ?」
ラタス
恐る恐る手をのばす。
クロウ
「焼いたりしねえでいいのか?生?」
ウエノ
「はああ……」
ウエノ
「生でいいです、マジで」
ラタス
「体温はないな……」
クロウ
「マジか、すげえな…(?)」
ウエノ
言うと、ぱくっと齧った。
ラタス
いった!
クロウ
「おっ」
レーラ
「でも、確かに小さくてかわいいかも……」
レーラ
「あっ」
ウエノ
「…………!!」
ラタス
「……!?」
ラタス
いちごこえ~!
レーラ
「!?」
クロウ
「………」
ウエノ
ぶるぶる震えている。
ラタス
「!!」
ウエノ
「お……」
レーラ
「お…………?」
クロウ
(お?)
ウエノ
「お、おいしいっ……!!」
ラタス
ばかなっ、だまされねえぞ……っ!
ウエノ
「おいしすぎて、な、泣きそうです……」
クロウ
「へぇ〜」
クロウ
「んじゃ」ひょいぱく
ラタス
しんけんなかおつき。
クロウ
「………お、うめえ」もぐもぐ
クロウ
「確かに甘くて、若干すっぱいな」
ウエノ
「でしょでしょ~~!?」
ラタス
食べる。
ラタス
「……」
ラタス
「……」
ラタス
「……」
ラタス
「うまい」
クロウ
「な〜」
ウエノ
「ですよね! ね!」
ラタス
「うまい!!」
ウエノ
ちびちび齧っている。いちごを。
ラタス
「うめえなこれ!!」
ラタス
「なんだこれ! なんだこれ!」
ラタス
「うめ~」
レーラ
「そんなにおいしい?」
ウエノ
鼻を鳴らす。
ウエノ
「おいしすぎます……」
レーラ
最後のひとつを手のひらに掬い上げてみる。
ウエノ
「食べてみてくださいよ」
ウエノ
「きっと気に入るはずですから」
レーラ
「……」
レーラ
「うん」
レーラ
そうして、いちごよりもちいさなひとくち。
レーラ
「……あまい」
レーラ
「あまくて、すっぱい?」
レーラ
「へんな感じ……だけど」
レーラ
「おいしい」
ラタス
「な~」
ウエノ
「おいしいです……」
ウエノ
しみじみ。食べ終わったあとの指をこっそり舐めている。
ラタス
舐めてます。
クロウ
ひひひ
ラタス
それから嬉しそうにやりたいことリストに線を引いている。
レーラ
じっとまだ残るいちごを見つめる。
レーラ
糖衣とも違う甘さで、すっぱさは喉にせりあがるものとも違う。
レーラ
『おくすりのフルーツ味って、ほんとうのフルーツとはまた違うんですよ』
レーラ
ウエノの言葉を思う。
ウエノ
「どうでしたか?」
レーラ
あの薬の甘さを、ローラは好んでいた。
レーラ
「……」
レーラ
「おいしかった」
レーラ
「いちご、私は好きだったよ」
レーラ
ぽつりぽつりと零す。
ウエノ
「あたし、あの」
ウエノ
「あのね……」
ウエノ
ウエノの指先はもう赤くない。
ウエノ
「レーラはレーラだし、ローラはローラだと、思うんです」
ウエノ
「ローラには、まだ会ったことはないけど」
ウエノ
「レーラが大好きな子だから、ローラはきっと優しくて、すごく素敵な子なんだろうなって。でも……」
ウエノ
「あたしは、レーラも好きですよ……」
ウエノ
「レーラ」
ウエノ
「レーラの好きな食べ物ってなんですか?」
レーラ
ローラはレーラで、レーラはローラ。
レーラ
それは違うと言う。
レーラ
それでは、今ここに居るのは何なのだろう。
レーラ
ウエノを見る。
ウエノ
見つめ返す。
レーラ
目があう。
レーラ
レーラの名前を呼んで、こちらを見ている。
レーラ
「わたしは、」
レーラ
「私の好きな食べ物、は……」
レーラ
いつかの日。ローラはあの、にせものの甘さが好きだと言ったけれど。
レーラ
レーラが好き、という訳ではなかった。
レーラ
「……」
レーラ
「いちご」
レーラ
「いちごが、好き」
ウエノ
「はい!」
ウエノ
「あたしはビッグアメリカンドッグが好きです!」
レーラ
少しだけへたくそに笑って、頷く。
レーラ
……顔を伏せる。
レーラ
「ローラも好き、だと、思う」
ウエノ
「レーラが言うんだから、間違いないですね」
レーラ
目元を、ちいさな手のひらで擦って。
レーラ
「そうだね」
レーラ
「ローラのことは何より、私が一番分かっているし」
レーラ
「…………」 それでは、レーラのことは。
レーラ
「半年という時間は、案外、短いようで長かったらしい」
レーラ
笑う。
レーラ
「そういう風に言ってもらうのは、幾らか気恥ずかしいけれどね」
レーラ
「でも、ありがとう」
ウエノ
「あたし、みんなのことが、…………」
ウエノ
「す、す、す」
ウエノ
「すご~く好きってほどじゃあないですけど!!!」
ウエノ
「でも、いちごくらいには好きですよ」
ウエノ
「アメリカンドッグまではいかないですけどっ」
ウエノ
「嬉しいです、レーラ」
ウエノ
「うまくいえないですけど」
ウエノ
「……でも、ほんとうに嬉しいです」
ウエノ
「レーラがいちごが好きで、よかったです」
ウエノ
「おいしかったですねっ」
レーラ
「うん」
レーラ
「すごく、おいしかったよ」
レーラ
「私もみんなのこと、いちごくらいには好きかもしれないな」
GM
*クエストNo.3 おいしい果物を食べる 成功!
*クエストNo.3により、PC全員のHPを3点回復します(HPの上限を超える)
[ レーラ ] HP : 17 → 20
[ ウエノ ] HP : 20 → 23
[ クロウ ] HP : 20 → 23
GM
栄養のあるもの、美味しいもの、好きなものは活力になる。
GM
生きようとする仕組みが作りだす報酬系が、命を死から遠ざける。
GM
しかし、あるいはそれが苦痛に満ちた現実を乗り切る鎮痛にしかなりえぬこともある。
GM
ある男には、もう効かない薬。
GM
GM
*お茶会 ラウンド2 ラタス3回目
GM
日数ダイスが日数日数しすぎているので、同じ日です。
GM
そのまま、馬車に揺られて。
ラタス
「いやー、イチゴうまかったな~」
[ レーラ ] 砕けた鏡 : 0 → 1
ウエノ
「ひさしぶりに食べました~!」
クロウ
「うまかったな〜」
レーラ
「うまかったな~」
ラタス
「あんなのがひょいひょい食べれるのか、ニホン」
ウエノ
「うちは時々しか食べれなかったですよ……」
ウエノ
「他の日本の子は食べてたかも。すごくいっぱい」
ウエノ
「上野家は貧乏でしたからね~」
ラタス
「貧乏はしゃあねえなあ~」
ウエノ
ビッグアメリカンドッグは……110円なんですよ!
ラタス
「でも、お陰でガキに自慢できるな、果物食べたって」
ウエノ
いちごは……398円!
ウエノ
「三人いるんでしたっけ、弟か妹みたいな子が」
ラタス
「おう」
ウエノ
「うちも妹がいるんで、親近感です」
ラタス
「大変だよなあ、腹が減っただの怪我しただの、寝付けないだの」
ウエノ
「わかるわかる~」
ウエノ
といっても。ウエノの妹が、そういう要求を口にしたことはない。
ラタス
「ようやく寝たなって思って動いたらソッコーで起きるのな」
ウエノ
「わかる~~!!」
ウエノ
「なんかセンサーとかあるんですよね、どこかに」
ウエノ
「離れたら起きる何かの……」
ラタス
「だな~」
ウエノ
「大変じゃなかったですか?」
ウエノ
「ぶっちゃけ、一人でやるものじゃないですよ。子供の世話って」
ラタス
「違いないな~」
ウエノ
「なんでそんなことしちゃったんですか?」
ラタス
「あ~」
ウエノ
「血が繋がってるわけでもないんでしょ?」
ラタス
「真似だな」
ウエノ
「まね?」
ラタス
「好きだった女がやってた」
ウエノ
「え!!」
ウエノ
身を乗り出す。
ウエノ
「ラブですか?? ライクですか??」
ラタス
「おーおー食いつくな食いつくな!」
ウエノ
「え~~! 食いつきますよ~~!!」
ラタス
しっしと手を払う。
ウエノ
「むしろ魔法少女の中では軽いほうですよあたしは!」
ウエノ
すごい子は……もっとすごいですよ!
ウエノ
全身ハートまみれでピンク色ですよ!!
ラタス
「さ~」
ラタス
「まあ……愛してたんじゃないのか、しらねえけど」
ウエノ
「きゃ~~~!!!」
ウエノ
「それでそれで!?」
ラタス
「それでってなんだよ」
ウエノ
「ほらあ! 色々ですよ……」
ウエノ
「なれそめとか! どういうところが好きだったのかとか!」
ラタス
「あ~」
ラタス
「じゃあ馴れ初めを話すか~」
ウエノ
やった~~!!
ラタス
「暗殺対象の男がいてな」
ラタス
「ちょっと名のしれた傭兵の男で……簡単には殺せる相手じゃなかった」
ラタス
「だから隙をつくことにしたんだよ」
ウエノ
お父さんの話を聞いてるみたいだ、と場違いな気持ちになる。
ウエノ
夜寝るときに、ふとんの中で。
ラタス
「女と寝てるところを殺した」
ラタス
「そんとき初めて会った」
ウエノ
「その……なんというか」
ウエノ
「女と寝て……ゴニョゴニョ……」
ウエノ
「の、女の人ってわけですか」
ラタス
「あー、娼婦だな」
ラタス
「体売って稼いだ金でガキ育ててるんだよ、バカだろ?」
ウエノ
「お母さんなら、当然なんじゃないですか?」
ウエノ
「そこまでしてでも、育てたいものですよ」
ラタス
「いや、血の繋がったガキじゃねえよ」
ウエノ
「ええ?」
ウエノ
「なんで……?」
ラタス
「おれにもよくわからんから真似した」
ラタス
「まあ、わからないでもないな、やってみて」
ラタス
「なんか、意味あることしてる感じになる」
ウエノ
「意味……」
ラタス
堕落の国じゃなかったらそれで生きていける程度には。
ウエノ
妹の顔を思い浮かべる。
ウエノ
父の顔も。
ウエノ
「あたしも、そんな気持ちだったかもしれません」
ウエノ
「でも今は……」
ウエノ
「帰りたくないです、日本には」
ウエノ
「コンビニがあっても、イチゴがあっても」
ラタス
「そりゃまたどうして」
ウエノ
「あたし、そろそろこの国に来て、8ヶ月くらいになるんです」
ウエノ
「最初は、絶対帰りたいって思ってました」
ウエノ
「お父さんもホノカも、あたしがいないとダメだから」
ウエノ
「そうやって……まあ、最初の2ヶ月くらいは、なんとか」
ウエノ
「みんな似たり寄ったりでしょうけど」
ウエノ
「おかしくなってきませんか? 人を殺していくうちに」
ウエノ
「お父さんとホノカと」
ウエノ
「あたしが殺してきた人と、どんな違いがあるんでしょう」
ラタス
「そうだな」
ラタス
少女の救世主の荷物に入った、ポーチにぬいぐるみ。
ラタス
食べ物をせしめるという暴力に出たとしても、ただの少女だったことにはかわりない。
ラタス
「わかる」
ウエノ
「それに、あたしは」
ウエノ
「……それだけじゃ、ないんですよ……」
ウエノ
「この力は、今は疵の力ってことになってますけど」
ウエノ
「もともと、持っていたものなんです」
ラタス
「だろうな」
ラタス
黒いナイフと同じように。
ウエノ
「すごく、良い値段で売れるんです、これ」
ウエノ
「さっきみたいに」
ウエノ
「買い取ってくれる人がいて、その人が欲しがる人に、もっと高い値段で売って」
ウエノ
「ラタス」
ウエノ
「手は震えませんか?」
ウエノ
「悪い夢を見たり、たくさん虫が見えたり」
ウエノ
「そこにいないはずの人がいたり」
ウエノ
「そういうことは、ありませんか?」
ラタス
「……」
ラタス
「ここに来る前はよくやってたし、そういう夢もよく見たよ」
ラタス
「薬物の護衛は良い値がついて、ついでにおこぼれにあずかることもあった」
ラタス
「割のいい仕事だったな」
ウエノ
「はい。割のいい仕事なんです」
ウエノ
「直接、人を殺したのは、この国に来てからがはじめてです」
ウエノ
「でも、きっと、日本では、もっといっぱい殺してきた」
ウエノ
「8人じゃ、足りないくらい」
ウエノ
「……だからあたしはきっと、この堕落の国がお似合いですよ」
ラタス
「あれは死ぬからなぁ」
ウエノ
「それに」
ウエノ
「お父さんもホノカも、あたしを恨んでますよ」
ラタス
「へえ、なんで」
ウエノ
「急にいなくなって、8ヶ月も経ったんですから」
ラタス
「はっはは、そりゃそうだ」
ウエノ
「すごく大変な目にあってるはずです」
ラタス
「売人がフケたらえらいことになるだろうなぁ」
ウエノ
「生きてるかもあやしいですね」
ラタス
「だなあ」
ウエノ
「……はい」
ウエノ
微笑む。
ラタス
「……おまえの薬がおれに効いた試しはない」
ウエノ
「え」
ウエノ
「な、なんで?」
ラタス
「そういう心の疵だからだろうな」
ウエノ
「……ラタスが?」
ラタス
「そう」
ウエノ
わからない。
ラタス
「その場しのぎの快楽は、その場しのぎのものでしかない」
ウエノ
わからない……
ラタス
「何か意味のありそうなもので意味を装っても」
ラタス
「意味はない」
ウエノ
わかりたくない。
ラタス
「やりたいこと、興味があることがあったところで……」
ラタス
「それはそれ以上のものにならない」
ラタス
「それがおれの疵だからだ」
ウエノ
「じゃああたし、は」
ウエノ
「あたしの魔法は」
ウエノ
「あたしの魔法で、ラタスをつなぎとめることはできないんですか?」
ウエノ
「あたし、は……」
ウエノ
「行っちゃ、イヤです。ラタス」
ラタス
ナイフをどこからともなく取り出す。
ラタス
虚空から取り出したように見える。
ラタス
「今のは心の疵の力じゃないぜ」
ウエノ
「え?」
ウエノ
「だって今、なにもないところから!」
ラタス
「おれはこういうのが得意なんだ」
ラタス
「魔法みたいだろ?」
ラタス
「単なる手品さ」
ウエノ
「手品と魔法を一緒にしないでくださいよっ!」
ラタス
「子供だましだ」
ウエノ
「魔法ってのは、もっと……」
ラタス
「それは変わらないだろ」
ウエノ
「きらきらして」
ウエノ
「人を幸せにして」
ウエノ
「でもそれは……」
ウエノ
「その場しのぎでしかない」
ラタス
浅く笑っている。
ラタス
「レーラから聞いたか?」
ウエノ
「だから……」
ウエノ
「あたしは、その場しのぎでもいいんですよ……」
ウエノ
「なんにもならなくたって、いいじゃないですか」
ラタス
「いつか限度がくる」
ウエノ
「それの何が悪い、んですか」
ラタス
「効かなくなるときがくる」
ウエノ
「あたしは、みんなとずっと旅してたい」
ラタス
「だからおれはお前たちを置いて出たんだ」
ウエノ
「それが今しか、持たなくても、」
ラタス
「おれにできることはない」
ウエノ
「やだ……」
ウエノ
「いやです、ラタス」
ラタス
「おれにできることははじめからひとつなんだ」
ウエノ
「今更ですよ」
ラタス
「終わらせることだけ」
ウエノ
「こうして旅をしてるんですよ、あたしたちは」
ウエノ
「結局」
ラタス
「殺すだけだ」
ウエノ
「だから、……」
ウエノ
注射器をいつの間にか、手にしている。
ラタス
「……」
ラタス
黒いナイフは握ったまま。
ウエノ
「今更、見せないでくださいよ」
ウエノ
「あたしが」
ウエノ
とんでもなく、バカで。
ウエノ
どうしようもない。
ウエノ
救いようもない人間だって、
ウエノ
そういうことじゃないか。
ウエノ
自分の腕にそれを注射しようとした。
ラタス
「だったら」
ラタス
「殺してやろうか」
ラタス
*ウエノの心の疵『魔法少女』を抉ります
レーラ
*横槍します。
レーラ
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 才覚
レーラ
2d6+3=>7 判定(+才覚) (2D6+3>=7) > 9[3,6]+3 > 12 > 成功
レーラ
1d6 (1D6) > 6
レーラ
*ウエノのヤリイカを使用。
[ ウエノ ] ヤリイカ : 1 → 0
ラタス
2d6+3-8=>7 判定(+才覚) (2D6+3-8>=7) > 11[5,6]+3-8 > 6 > 失敗
ラタス
とんでもなくバカでどうしようもない。
ラタス
救いようもない人間だろう。
ラタス
おれも、お前も。
ラタス
ナイフで注射器を断ち切る。
ラタス
薬液がこぼれる。
ウエノ
「っ……!」
ウエノ
割れた破片がきらきら光る。
ウエノ
「……くれるんですか」
ウエノ
「殺してくれるんですか?」
ウエノ
言われてみれば、たしかに。
ラタス
黒い服に薬液が染み込むが、黒はそれ以上に黒くはならない。
ウエノ
それをずっと。
ウエノ
ずっと待ち望んでいた気がするのだ。
ウエノ
そのために、追いかけて、ここまで来た気がするのだ。
ウエノ
いちごを食べて、おいしくて。
ウエノ
みんなでわらいあって、みんないて。
ラタス
「ああ」
ウエノ
今日は、とても良い日。
ラタス
「潮時だろ?」
ウエノ
「あた、しは」
クロウ
「………」
ウエノ
「あたしは……」
ウエノ
なにか言いかけようとした。
ウエノ
決定的で、取り繕え無い、
ウエノ
終わりにするための言葉を。
レーラ
ラタスがナイフを持つ腕。
レーラ
それが動くことはない。
レーラ
まるで、ぴたりと、宙に縫い留められたよう。
レーラ
次に黒い帯が首に巻き付いて、
レーラ
男を、思い切り引き倒す。
ラタス
倒れる。
ラタス
不意をつかれたという様相ではない。
ウエノ
倒れるまでを、ぼうっと眺めていた。
ウエノ
それから、我を取り戻し。
ウエノ
「……レーラ!?」
ラタス
レーラによる『妨害』だ。
ラタス
よく知った『手品』だ。
クロウ
クロウはただその様子をじっと見ていただけ。
レーラ
「口説く時と場所くらいは、選んだほうが良いと思うけれどね」
ラタス
「は、はは」
ラタス
「時と場所を選んだのさ。じゃなきゃ――」
レーラ
殺しはしない程度に、緩く首を絞めつけている。
ウエノ
「え、えっと、えっと」
ラタス
「お前が止めちゃくれないだろ?」
ウエノ
「レーラ、あたし、もう大丈夫ですから、だから……」
ウエノ
大丈夫?
ウエノ
本当に?
ウエノ
まだ心臓がどきどき鳴っている。
ウエノ
本当に欲しいものをみつけたときみたいに。
レーラ
「歳ばかり重ねて、自分の尻も拭えない」
ウエノ
「大丈夫ですから……」
ウエノ
言葉は小さくなっていく。
レーラ
「……ウエノ」
レーラ
「ケガはないかな」
ウエノ
「えっと……」
ウエノ
破片で切ったところから、血が出ている。
ウエノ
首を横に振る。
ウエノ
「あたしは、大丈夫です」
レーラ
ウエノの腕を掬うように捕まえる。
ウエノ
少しだけ切れている。
ウエノ
「これくらい、なんともないですよ」
レーラ
その血を、自分の服の裾で拭ってやる。
ウエノ
「なんともないですったら……」
レーラ
「ウエノがそう思ってるだけだよ」
ウエノ
「あたしは丈夫ですよ」
ウエノ
「すぐ治ります」
ウエノ
まだ心臓がどきどきしている。
レーラ
ウエノの顔を窺い見る。
ウエノ
居心地が悪くて、目をそらす。
ウエノ
「こんなふうに、大切にしなくたって」
ウエノ
「ラタスが言うように……」
ウエノ
「死んだほうがいいかもしれないじゃないですか」
レーラ
「ウエノが」
レーラ
「そう思っているだけだよ」
レーラ
「自分には、見えてないだけで」
レーラ
見ようとしないだけで。逃げているだけで。
レーラ
「自分だけで、解決しようとして」
レーラ
できもしないのに。
レーラ
「自分だけで、結論付けているだけだ」
ウエノ
「じゃあっ……」
ウエノ
「どうしたらよかったんですか……?」
ウエノ
「このまま、誰かを殺して」
ウエノ
「ラタスも失って」
ウエノ
「いつか誰かに殺されたり、亡者になる時まで」
ウエノ
「ずっと生きなきゃいけないんですか?」
ウエノ
「なにか、」
ウエノ
「意味は、あるんですか」
ウエノ
生きていくことは恥ずかしいことじゃない。
ウエノ
でも、そこになにか。
ウエノ
意味を見いだすなにかは。
ウエノ
なにかが……
レーラ
底のない沼のよう。
真摯に向き合う者ほどに、足を取られていく。
クロウ
「なんだ?お前が意味に、理由になってくれんじゃなかったのか?」
クロウ
「あんなに俺を求めてたくせに、死んじまうのかぁ?」
ウエノ
「そ、それは……」
ウエノ
「じゃあ、どうしたら良かったんですか」
ウエノ
何度も。
ウエノ
「自分だけで、結論づけてるだけって」
ウエノ
「レーラが、そう言ったんですよ」
ウエノ
「レーラにはわかるんですか?」
ウエノ
「なにかがわかるんですか?」
ウエノ
「みんなで、考えたら」
ラタス
「よっこいせ、っと」
ラタス
包帯を解き、起き上がる。
ラタス
紙をぽい、とウエノに放る。
ラタス
何も書かれていない紙だ。
ラタス
「ま」
ラタス
「したいことでも考えておけ」
ウエノ
受け取る。
ラタス
「取り返しがつかなくなる前にな」
ウエノ
「……な」
ウエノ
「なんですかそれ」
ラタス
少なくともお前達は、美味しい果物で生き長らえる程度には、
ラタス
まだ生きている。
ウエノ
「……あたし一人じゃ」
ウエノ
「ラタスみたいにいっぱい、書けないですよ……」
ウエノ
困る。
ウエノ
だって、ビッグアメリカンドッグはもう二度と食べられないし。
ウエノ
もう二度と普通の女の子には戻れないし。
ウエノ
家に帰っても、家族が生きてるかもわからないし。
ウエノ
「夢なんて、決められない……」
ウエノ
その場しのぎしかわからない。
クロウ
「じゃあ」
クロウ
「一人じゃなくて」
クロウ
「誰かと一緒にしてえことでもいいんじゃねえの?」
クロウ
そう言って荷台に寄りかかる。
ラタス
「ひひひ、そりゃそうだろ」
ラタス
「セックスは一人じゃできねえからな」
クロウ
ウエノ
「……」
クロウ
「まあそうだな」
ウエノ
「レーラは何か、やりたいことはあるんですか」
ウエノ
「あたしと一緒に」
ウエノ
「あたしに生きてほしいんでしょ?」
レーラ
みんなで考えたら、何かが分かるか。
レーラ
分かるかどうかは、分からない。
レーラ
所詮は、絡まった毛糸同士でしかない。
レーラ
「……」
レーラ
「ウエノが、色んな服を着てるのを見たい」
レーラ
例えば。
レーラ
少し遠出をした、女の子同士でするみたいに。
レーラ
ふたりでなければできないこと。
ウエノ
「かわいい服は、似合わないですよ……?」
レーラ
「そう、思ってるだけだって」
ウエノ
「……レーラが」
ウエノ
「そう言うなら、そうなのかな」
レーラ
「うん」
レーラ
「ウエノは、かわいい服に見合うくらい素敵だよ」
レーラ
「私が、そう思う」
ウエノ
「そうなのかな」
ウエノ
「そうなの、かも」
ウエノ
「今は、わからないけど」
ウエノ
「そのうち。いつか」
ウエノ
「レーラと一緒なら……」
ウエノ
「着ても、いいかもしれないです」
ウエノ
それがいつになるのか。
ウエノ
二度と来ないのかもしれない。
ラタス
ははは、振られちまったな。
ラタス
――それでいい。
ラタス
生きていてほしいと言ったのは、
ラタス
偽りではない。
GM
望みが断たれていることを、絶望という。
GM
未来に望みをかけることを、希望という。
GM
それが希なるものであるとしても、望めるものならば。
GM
――それは18日目のこと。
[ レーラ ] HP : 20 → 19
GM
サイクル2,あとはクロウ、レーラとラタス2回です。
GM
みんな~~~~~!!!!!
GM
青窓の時間だよ~~~~~!!!!
レーラ
わ~~!
クロウ
わ〜〜!
ラタス
わ~~~~!!!
ウエノ
わ~~~!!!
GM
というわけでよろしくお願いします。
GM
サイクル2,あとはクロウ、レーラとラタス2回です。
GM
18日ですね~。
GM
GM
*お茶会 ラウンド2 クロウ
GM
※日数が日数しすぎているので1日経過になります。
GM
11.闇夜。たき火がパチパチと燃え爆る音。語り合うのにうってつけの夜。
クロウ
夜。焚き火の明かりが二人の人影を照らす。
クロウ
ゆらゆらと揺れる炎を挟んでクロウはウエノと向かい合っていた。
クロウ
適当に拾った木の枝を放り投げる。
ウエノ
眠たそうに瞼をこする。
ウエノ
「ん…… 今、ちょっと寝てました」
ウエノ
「かわりに見ててくれてたんですか? 火」
クロウ
「別に、少しくらい構わねえぜぇ…っと」
木の枝を投げ入れる。
クロウ
「今日は別に疲れてねえし、このまま俺が代わろうか?」
ウエノ
「え~~。いやです」
ウエノ
「却下です」
クロウ
「ひひひ、そうかよ」
ウエノ
「クロウ、いつもそうじゃないですか」
ウエノ
「交代だって言ってるのに起こしてくれないで、そのまま見張ってたりとか……」
ウエノ
「だから今日はあたしもがんばって……ふあ~~あ」
ウエノ
「ふあ~~~……ます。がんばります」
クロウ
「ひひひ。じゃあ、まあがんばれ」
そう言いながらも、そこから離れる様子はない。
ウエノ
「寝てもいいんですよ??」
クロウ
「もうちょいしたらな」
クロウ
「今日はちっとだけ、起きていてえんだ」
ウエノ
「ええ~~」
クロウ
そう言ってまた枝を投げ入れる。
ウエノ
投げ入れられる枝が、オレンジ色の炎につつまれてはじける。
ウエノ
おなじように、適当な枝を投げてみる。
ウエノ
「じゃあ、あたしもつきあいますよ」
クロウ
「そりゃあどうも」
クロウ
「…そういやよぉ」
クロウ
「ラタスから言われたやりたいことリスト…考えてみたのかよ」
ウエノ
「まだぜんぜんですよ。レーラとお洋服買いにいきたいってのは決まってますけど」
ウエノ
スカートのポケットから紙を取り出して広げる。
ウエノ
一番上以外、ほぼまっさらな状態だ。
クロウ
「まっ、とりあえずひとつありゃあ今はいいんじゃね」
クロウ
「やりたいことなんてよ、そう簡単に浮かばねえし」
クロウ
「…生きていく意味も、同じようにな」
ウエノ
「日本って、こういうリストよく作らされるんですよ」
クロウ
「へぇ〜」
ウエノ
座り直す。少し距離が詰まる。
ウエノ
「将来なにになりたいかとか」
ウエノ
「夏休みなにやるかとか……そういう計画とか」
ウエノ
「学校で、プリントを配られて、書かされるんです」
クロウ
「そいつぁ、大変だな」肩をすくめる
ウエノ
「……思い浮かばないわけじゃないと思います」
ウエノ
「クロウとか、ラタスとか、レーラとか……」
ウエノ
「みんなより、あたしのいままでの暮らしって、やっぱ恵まれてて」
ウエノ
「学校があって、勉強できて、給食費はらってなくても給食食べれて」
ウエノ
「だから、みんなより思い浮かぶほうだと思うんですけど」
ウエノ
「書こうとすると、手が止まるんですよ」
クロウ
「…まあ。こういうのってよ、恵まれてるからどうって問題でもねえだろ」
ウエノ
耳を傾ける。
クロウ
「やりたいことも、生きていく意味も…俺らみてえな奴らにゃ難しい話だぜ」
クロウ
「…元の世界じゃよお、生きる意味はねえけど役割はあったんだ」
クロウ
「金を稼ぐため、力を得るため、戦争を終わらせるため…俺はやるべきことを与えられてた」
クロウ
「そうすっとな、不思議と死のうとは思わねえんだ」
ウエノ
「必要とされるってことですもんね」
クロウ
「ああ。クソみてえな扱いだったけどな」
ひひひ、と笑う
ウエノ
そのありかたは、”魔法少女”と重なる。
クロウ
「だってのに、この世界じゃ生きる意味も役割もありゃしねえ」
クロウ
「クソみてえなシステムのおかげで、死なねえために生きるだけ」
ウエノ
「はは」
クロウ
「ああ、一応世界の救済ってのはあるか〜」ひひひ
ウエノ
「ずいぶんきっぱりいいますねえ……」
ウエノ
枝を折る。ぽきんと音が鳴る。
ウエノ
否定はしない。
クロウ
「もっと"お前には生きる意味がある"、"生きててほしい"って言ってほしかったか?」
ウエノ
首を横に振る。
ウエノ
「わかってるくせに、わざわざ確かめるなんてイジワルですよ」
ウエノ
ぽい、と火の中に放る。
クロウ
「ひひひ、わりぃな」
同じようにぽいっ、と枝を放る。
ウエノ
「やっぱり、思い浮かばないわけじゃないんです」
ウエノ
「でも、叶いもしないことを、『やりたいこと』に加えるのって、ばかみたいじゃないですか?」
ウエノ
「クロウにはクロウのできることが、求められていることがあって」
ウエノ
「あたしにはあたしのできることが、求められていることがあって」
ウエノ
「できることにも、求められてることにも限りがある」
ウエノ
もう片方も火の中に投げ入れる。
ウエノ
「意味とか役割って、現実的じゃないと、ダメな気がするんです」
ウエノ
「はっきりと、役に立てて、実行できるものじゃないとダメな気がする」
ウエノ
「薬とか、お金みたいに」
クロウ
「…お前って」
クロウ
「結構物事を難しく考えるよな」
ウエノ
「ぐ、ぐぬぬ」
クロウ
「やりたいことってよぉ、べっつにそんな真面目に考えなくてもいいだろ」
クロウ
「さっき俺は、意味も役割も一緒くたにしちまったけど…」
クロウ
「やりたいことってよぉ…」
クロウ
「別に、叶えなきゃなんねえことってわけでもねえだろ」
クロウ
昔の仲間が、そうだったことを思い出す。
ウエノ
「え~~??」
ウエノ
「叶わなかったらなんにもなんないですよ?」
クロウ
「少なくとも…わかるだろ、自分のやりてえことが」
ウエノ
「まあ……」
ウエノ
ひとつくらいは。
クロウ
「それに、叶う叶わねえなんて自分じゃわかんねえよ」
クロウ
「んなもん考えてたら、なーんもできねえだろうが」
クロウ
「明日死ぬかもしんねえから、美味いご飯食わなくてもいいや…とかにゃならねえだろ」
ウエノ
「できてませんか?」
クロウ
「ん?」
ウエノ
「少なくとも、気持ちいい夢を一瞬見せることはできるし」
ウエノ
「痛みを忘れさせてあげることもできるし……」
ウエノ
「クロウにはなにか夢はあるんですか?」
ウエノ
「やりたいこととか。これから」
クロウ
「ん〜〜〜」
クロウ
「………」
クロウ
「ねえな」けらけら
クロウ
「ねえけど、どうよ?」
クロウ
「俺ぁ、死んどいた方がいいかぁ?」
ウエノ
「意地悪くないですかあ??」
クロウ
「ひひひ、俺ぁ意地悪なんだぜ?」
ウエノ
「知ってますよ。半年も一緒にいるんだし」
クロウ
「そりゃそうだ」
ウエノ
「まあ……あたしも、イジワル言いました」
ウエノ
「あたしの魔法は、ラタスには効いてなかったわけですから」
ウエノ
夢を見せることも、痛みを忘れさせることも、満足にできていなかった。
ウエノ
「本音でいうと、叶わなかったときのことを考えると、辛いから嫌なんです」
クロウ
「…なるほどねぇ」
ウエノ
「クロウはまるで、見てきたみたいに言いますよね」
ウエノ
「クロウのまわりの人の夢は、叶ったんですか?」
ウエノ
「なにかできていて、死なない方が良い人だったんですよね」
クロウ
「………」
クロウ
「いや、あいつらの夢は叶わなかった」
クロウ
ーーー俺が殺したから、叶わなかった。
クロウ
けどそれは、今はまだ言わなくていい。
ウエノ
ほぼわかっていた答えだった。
ウエノ
子供が意地悪で大人を困らせるためにするような、そんな質問。
クロウ
「お前も、相当意地悪なやつだよなぁ」
ウエノ
ほほえむ。
ウエノ
「夢を持たないと生きていけないことは、わかる気がします」
ウエノ
「でも、そんな仕組みがあるとしたら、許せないですよね」
ウエノ
「残酷すぎますよ」
クロウ
「あー…」
クロウ
「お前が言いたいことも、わかるしよ…否定はしねえ」
クロウ
「でもなー…、なんつーか」
クロウ
「さっきから、やっぱ難しく考えすぎじゃね?」
クロウ
「ちょっとその紙貸してみろ」ちょいちょい
ウエノ
「ええ~~? はい……」
クロウ
「ん」
ウエノ
指先がすこし触れる。
クロウ
それを受け取ると、焚き火の明かりを頼りに紙に書き込んでいく。ごりごり。
クロウ
「ほい」
そう言って書き終わった紙をあなたへと見せる。
クロウ
紙の二つ目には"いちごをもっかい食べる"…と書いてある。
クロウ
「こういう、どーでもいいのでいいんだよ」
ウエノ
「これ、クロウのやりたい事じゃないですか~!」
クロウ
「え、じゃあお前はいらねえの…?」
クロウ
「今度見つけても、俺だけ食っていいのか?」
ウエノ
「…………」
ウエノ
「食べたいですけど!?」
クロウ
「ひひひ。だろ?」
クロウ
「これだって叶わねえかもしんねえけど、別に死ぬほどショックは受けねえだろ?」
ウエノ
「…………なんかズルい」
クロウ
「クソみてえな世界なんだからよ、少しくらいズルしたっていいだろ」
クロウ
「ほら、この前言ってた抱きしめてほしいってのも十分やりてえこと、してほしいことになんじゃねえの?」
ウエノ
「あれは……」
クロウ
「なに、ちげえの?」
紙を返そうと手を伸ばす。
ウエノ
紙を受け取る。
ウエノ
「ラタスのことばを借りるなら」
ウエノ
「その場しのぎ、ですよ」
ウエノ
紙を眺める。自分のものとは違う筆跡で、書いてある文字すら異なる。
ウエノ
それでも読める。心の疵の力だ。
ウエノ
「あれは、叶わなかったら」
ウエノ
「あたしは死んじゃうんですよ」
ウエノ
「死ぬほどショックだから、死んじゃうんです」
ウエノ
いちごをもっかい食べる。
ウエノ
いちごはもう食べれなくたって、諦められる気がする。
クロウ
「………」
クロウ
ふぅ…、とため息を吐いて立ち上がる。
ウエノ
見上げる。
クロウ
持っていた木の枝を全部焚き火に投げ捨てながら、あなたの隣へと歩み寄る。
クロウ
「じゃあ」
どかっ、とあなたの隣に座る。
クロウ
「今」
クロウ
「お前のしてほしいこと、言ってみろよ」
クロウ
*ウエノの「甘い夢」を舐めます
*クエストNo.5 海を見に行く、に挑戦します
クエストNo.5 海を見に行く
概要 :この世界には海というものがあるらしい
目標値 :8
消滅条件 :成功するか、日数が20日目以降になると消滅
成功 :技能の一つを入れ替える(入れ替えなくてもよい)
失敗 :特になし
クロウ
2d6+3=>7 判定(+猟奇) (2D6+3>=7) > 8[6,2]+3 > 11 > 成功
ウエノ
「えっ」
ウエノ
あたしがしてほしいこと。
ウエノ
クロウに、本当にしてほしいこと?
ウエノ
今やクロウは、ウエノのすぐとなりにいる。
ウエノ
「してほしいこと……」
ウエノ
ふつうの女の子みたいに、だきしめてほしい?
ウエノ
ずっと、となりにいてほしい?
ウエノ
誰かを殺すときに、おそれを感じていてほしい?
ウエノ
いままで放ったそのどれもは、注射器や絆創膏とおなじで、その場しのぎに過ぎない。
クロウ
あなたの顔を覗き込んだまま、クロウは答えを待つ。
ウエノ
瞬きを2回。
ウエノ
まつげに炎の明かりが乗っている。
ウエノ
「あたし、は」
ウエノ
「あたしは……」
ウエノ
「ラタスに言われた言葉が、今も忘れられません」
ウエノ
「殺してやろうかって、そう言いましたよね」
クロウ
「ああ、言ってたな」
ウエノ
「なんでそれが、そんなにあたしの中で、深く刺さったのか、考えてたんです」
ウエノ
「あたしが……ううん、あたしだけじゃない」
ウエノ
「みんな、けっこう、死んだほうがいいって思ってますよね」
ウエノ
「言ってないだけで」
クロウ
「ああ、そうかもな」
ウエノ
「でも……」
ウエノ
「死んだほうがいいってわかってても、なにか求めることが、きっと」
ウエノ
「そのリストに、やりたいことを書くってことで」
ウエノ
「それって、結構、覚悟がいることで、……あたしは、怯えてたんだと思います」
ウエノ
「だってそれって」
ウエノ
「叶わなかったら、死んじゃうほど苦しんでもいいってことでもあるから」
ウエノ
「……だから」
ウエノ
「クロウにしてほしいことは、それです」
ウエノ
「あたしに、叶わなかったら、死んじゃってもいいな、って思わせてくれるんですよね?」
クロウ
「さあな、どうなると思うよ」
クロウ
「どうにもならないかもしんねえし、どうにかなっちまうかもしんねえな」
クロウ
「なあ、ウエノ」
クロウ
「俺は、いつだってお前を殺してやれるぜ?」
ウエノ
「わかりません」
ウエノ
「どうなるかなんて、わかりません」
ウエノ
「あたし、クロウに殺されちゃうのかもしれません」
ウエノ
「そ、それでも、いいやって」
ウエノ
「死ぬほどショックで、苦しんで」
ウエノ
「それでもって死ぬようなときに、あなたが……」
ウエノ
「あたしの叶わなかった夢の欠片で、とてもひどいケガをしてくれるなら」
ウエノ
「それで、それで、いいのかも」
ウエノ
「夢を」
ウエノ
「見ても、いいのかも」
ウエノ
「その場しのぎじゃない、ほんとうの夢」
ウエノ
紙になにか、書こうとする。
クロウ
「お前はひどくて、イヤなやつで」
ウエノ
炎の明かりに、ウエノの手元が照らされる。
クロウ
「全部、お前のせいなんだもんな」
ウエノ
指がいままでで、一番ひどく震える。
ウエノ
「あたし、あ、たし」
ウエノ
――ふつうの……
ウエノ
「普通の女の子に、なってみたい」
ウエノ
とびきりの甘いまなざしで、クロウを見つめた。
クロウ
その言葉を聞き、その瞳を向けられたと同時に。
クロウ
あなたの体は引き寄せられ、視界は黒に包まれる。
クロウ
大きな手が…あなたの頭を、背中を包み込み。
クロウ
熱が混じる。焚き火の熱と、触れ合う体の熱が。
ウエノ
長旅でぼさぼさの髪。
ウエノ
潮風でべたついた肌。
クロウ
そんなものは気にならないというように、あなたの髪を、肌をごつごつとした手が撫でる。
クロウ
「言えたじゃねえか、やりてえこと」
ウエノ
「く、くさいかも。あたし」
ウエノ
抵抗しない。
ウエノ
「汚いかも」
クロウ
「俺も同じようなもんだ」
クロウ
「だけど」
クロウ
「こうしちまえば、変わんねえだろ?」
そう言ってさらに抱きしめる力が強くなる
ウエノ
「変わらない、かな?」
ウエノ
「あ、あたし、傷だらけ、かも」
ウエノ
「クロウが見ると、びっくりするし、気持ち悪いって思うかも」
クロウ
「へぇ…」
にたり、と笑って少し体を離す。
クロウ
そのままあなたの顔を覗き込み、頰を片手で撫でるように支える。
ウエノ
ぴくりと動く。
ウエノ
焚き火の暖かさだけではない、たしかな熱。
クロウ
目つきの悪い顔が、あなたの顔に近づいていく。
ウエノ
夢みる顔つき。
ウエノ
期待と緊張で、うるむヘーゼルナッツの目。
ウエノ
そっと目を閉じる。
ウエノ
心臓が高鳴る。
クロウ
「目ぇ、閉じちまっていいのかぁ?」
クロウ
その声は、もうあなたの目の前から聞こえてきて。
クロウ
鼻先が少し触れ合うのを感じる。
クロウ
頰に触れていた手は、そのままゆっくりと下がって首元を撫で、うなじをなぞる。
ウエノ
「っ」知らない触り方。くすぐったいような。甘いような。
ウエノ
お互いの吐息がかかるほどの距離。
ウエノ
「は、はずかしい、から」
クロウ
こつん、と額が当たる。
クロウ
「それで、ウエノ」
ウエノ
「ひゃっ」
クロウ
囁くように、あなたの肌に声が響く。
ウエノ
思わず目を開ける。あまりにも近い距離。
ウエノ
心臓の音が、ひどくうるさい。
クロウ
「どんな女の子に、なりてえんだっけ?」
クロウ
もう一度問いかける。意地悪な瞳が、あなたを見つめたまま。
ウエノ
「ふ、普通、の」
ウエノ
「ふつうの、女の子みたいに、」
ウエノ
「デートしたり」
ウエノ
「かわいい服を着たり」
ウエノ
「こ、恋したり」
ウエノ
「あそんだり……」
ウエノ
「そういうことをしてみたい」
クロウ
「へぇ…」
目を細め、口元を緩ませる。
ウエノ
「普通のおんなのこみたいに、」
ウエノ
「愛されて、みたい」
クロウ
うなじを撫でていた指が、あなたの耳の後ろに触れる。
ウエノ
息が漏れる。くすぐったいような。もっとしてほしいような。
クロウ
「愛されてえんだな、普通のおんなのこみてえに」
言葉を繰り返す。
クロウ
クロウの顔が、あなたに迫る。
クロウ
「じゃあ…」
クロウ
けれど、それはぶつかることなくあなたの顔を横切る。
クロウ
また、抱きしめ合う形。
クロウ
「今日はここまでな」
クロウ
頭を、背中を撫でる。
クロウ
とんとん、となだめるように背中を叩く。
ウエノ
期待はすこし、裏切られて。
ウエノ
それでもずっと甘くて、暖かくて、
ウエノ
いつも何をしていても、どこかうつろだった。
ウエノ
その空虚な穴が、満たされていく。
ウエノ
「……い、」
ウエノ
「いじわる……」
ウエノ
背中に手を回して、しがみつく。
ウエノ
ああ、あたし。
ウエノ
あなたに、殺されてしまった。
[ ウエノ ] 甘い夢 : 0 → 1
GM
――それは18日目のこと。
GM
サブロール➃ - レーラ&ラタス
GM
*お茶会 ラウンド2 クロウ
ラタス
2人ずつに分かれて、交代で見張りをしている。
ラタス
「異常な~し」
レーラ
「異常な~し」
レーラ
つかず離れず、左右それぞれを向いて並んでいる。
レーラ
「ふう」
レーラ
「平和だねえ」
ラタス
「平和だな~」
レーラ
「いつもこうなら良いんだけどねえ」
レーラ
ぶらぶら、手持ち無沙汰に脚を揺する。
ラタス
「平和が一番だな~」
ラタス
ナイフを手先で弄んでいる。
ラタス
手品の練習だ。
レーラ
隣を窺い見る。
レーラ
手元のそれは暗闇にとけてしまって、よく見えやしない。
レーラ
「……それ」
レーラ
「前から気になってたのだけど」
ラタス
「おう」
レーラ
「自分では見えてるのかな」
ラタス
「見えない」
ラタス
「まあ、ずっと触ってればもう体の一部みたいなもんだ」
レーラ
「へえ~」
レーラ
「……ふうん。少し意外だったな」
ラタス
「手応えで、どれだけ深く切ったのか、突き刺さっているのかもわかるぜ」
ラタス
「切りつけた相手がどんな服を着ていたのかも」
ラタス
「体型なんかもな。筋肉質なのか、脂肪がついているのか……」
ラタス
「骨に触れたか、内臓にまで届いたかも」
レーラ
「……」
レーラ
「それ、素面で言うもんかね……」
レーラ
若干引いている。
ラタス
「ひひひ」
レーラ
「ま。難儀なものだね」
レーラ
足元に蟠っていた土の塊を蹴る。
レーラ
「……それじゃあ、私はどうだった」
レーラ
「まあ」
レーラ
「もうそれなりに経つし。
 とっくに分かり切っていて、なんとも思わなかったかもしれないけどね」
ラタス
「薄い皮膚、肉付きは浅く骨っぽい、柔らかめの内臓」
レーラ
「……」
レーラ
こういう時も鳥肌って立つんだな。
レーラ
「ひらかれる家畜にでもなった気分だ」
ラタス
「……刺されるとわかっているときの、筋肉のこわばり」
ラタス
「相手を裏切って刺したときのような」
ラタス
「全く不意をつけばもっと筋肉は弛緩している。完全に予期していれば、もっと筋肉は硬直している」
ラタス
「そのどちらともつかない、迷いのあるこわばり」
レーラ
すいと、視線を他所にやる。
レーラ
「はあ」
レーラ
「……難儀だね、本当に」
レーラ
「なら、刺さなければ良かっただろうに」
ラタス
「ラタスという男に裏切られた、だまされた、ハメられた」
ラタス
「そういう終わり方の方がよかったかもしんねーぜ」
レーラ
「はは」
レーラ
「巷ではそういうのがウケるのか」
レーラ
「生憎、流行りには疎くてねえ」
ラタス
「いつの世だって詐欺や裏切りはトレンドだぜ?」
ラタス
「……悪かったな」
レーラ
「……」
レーラ
空を切る音がして、暗闇がラタスの肩を小突く。
レーラ
「私はローラほど優しくない」
ラタス
「はは」
ラタス
「許さなくていい」
レーラ
「別に。怒ってない」
レーラ
心の疵のあらわれがゆらりと揺らめいて、もう一度男をはたく。
レーラ
一つと、二つきり。
ラタス
それを甘んじて受ける。
レーラ
「……」
レーラ
ふん、と息を漏らす。
レーラ
「聞きそびれていたけど。私のも特別見えてるわけじゃなかったのか」
レーラ
今もラタスの傍を、深海の生き物のように漂っている。
ラタス
「見えなくても、なんとなくわかる。戦いの中なら」
ラタス
敵がどこにいて、レーラがどこにいて、それでどういう軌道を描くのか。
ラタス
「半年も一緒に戦っていれば、それくらいならな」
ラタス
あるいは自分の一部のように。
レーラ
「ふうん」
レーラ
気のないような返事。
レーラ
見えなくても、なんとなくわかる。
ラタス
光に欠いた世界において、目に映るものはさして重要でない。
レーラ
「それじゃあ同じだ」
レーラ
目に映るものはさして重要ではなく、束の間判断を鈍らせただけ。
レーラ
「良くも悪くも、隠せるものじゃない」
レーラ
「私は、そう。悪い気はしないけれどね」
ラタス
「頼りになった。呼吸を合わせるのも、不意をつくのも上手い。おれが拾い損ねたものを、確実にお前が対処してくれるという安心があった」
ラタス
「煙幕の中で」
ラタス
「孤独を感じていたわけじゃない」
レーラ
「お褒めに預かり光栄だ」
レーラ
「……」
レーラ
ふと、考える。
レーラ
それなら、何が及ばなかったのだろう。
レーラ
「私は謝らないよ。ラタス」
レーラ
孤独を埋める以上の、何かが及ばなかったとして。
ラタス
「謝るようなことなんてないだろ」
レーラ
「はは。そうだなあ」
レーラ
「謝るようなことなんてない」
レーラ
「悪いなんて言うもんじゃない、そうだろう」
レーラ
緩やかに回遊していた足を止める。
ラタス
「……」
ラタス
「そうだろうな……」
ラタス
「すべてを話せば、きっとそういうだろうと」
ラタス
「だから、おれは逃げたのかもな」
ラタス
弱さを責めるようなことはしないと知っている。
レーラ
「誰しも」
レーラ
「思うほど強くはないよ」
レーラ
それが、救世主。
レーラ
喉のもとまで来ている言葉を飲み下して、そうやって宣っているだけ。
ラタス
「そうだな」
ラタス
誰も彼も傷ついている。
ラタス
傷ついたまま寄せ集まっているお前たちを置いて、先に死ぬ。
レーラ
三つ分の傷痕は、きっと埋まることはない。
レーラ
GM
19日目。
GM
腐敗し、淀みきった海。
GM
美しいというには憚られる光景。ここは堕落の国。
ラタス
「うおっ!」
ラタス
「これが……海か!?」
ウエノ
「うわあ!!」
ウエノ
「波が……打ち寄せてる!!」
ラタス
「海……臭えな!!!」
クロウ
「うひょ〜、海だぁ〜」
ぴょーん、と跳ねてます。
ラタス
「やべえ臭いするぞ!!!」
ウエノ
「ラタス!! 波が打ち寄せてますよ!!」
レーラ
「これが噂の」
ラタス
「もしゃもしゃしてるな!」
クロウ
「やべえ臭いだ、さすが堕落の国だぜ」
ラタス
波が。
ウエノ
「もしゃもしゃしてます!!」
ラタス
波打ち際が見え始めたあたりで、突然駆け出す。
レーラ
「海というか、膿って感じだなあ」
ラタス
「おれが一番!!!」
ウエノ
「あーーずるい~~!!」
ラタス
才覚型だからお前らの3点分足が速いが?
クロウ
「おうおう、抜け駆けか〜?」ダッ!
ウエノ
愛なので遅い。
ラタス
1d6+3 (1D6+3) > 3[3]+3 > 6
ウエノ
1d6 (1D6) > 6
クロウ
1d6 (1D6) > 5
ウエノ
あれ?
レーラ
1d6+3 (1D6+3) > 2[2]+3 > 5
ウエノ
一番海経験値がある利がここで!
ラタス
クロウを引っ張ったりしてたら大差ないぐらいについた。
クロウ
ぐいぐい、おらおら
ラタス
おらっおらっ
クロウ
転べっ
ウエノ
男子ってほんと……
レーラ
はしゃいでるな~、と思いながらついていきました。
ラタス
道連れだっ
ウエノ
「しっかしひどい匂いですねえ~!」
ウエノ
鼻をつまむ。
クロウ
波打ち際につく頃には砂まみれ
ラタス
このなんかでろでろしたやつをくらえ!
ウエノ
きたね~!
クロウ
こっちは透明なぷにぷにしたやつだっ!
ウエノ
「ヘタに触らないでくださいよ、毒があったらどうするんです……」
クロウ
「そん時ゃよろしく」ひひひ
ウエノ
「よろしくされるから言ってるんですよ!」
ラタス
「ひひひ」
クロウ
「ひひひ」
ラタス
帽子の上にクラゲがのっかったまま。
クロウ
腰にでろでろを引っ掛けたまま
ウエノ
「にしても海、ほんとにあったんですね~!」
ラタス
「だな~」
ウエノ
「あっ! 見てください! あれが水平線ですよ!」
ラタス
「すげー」
ウエノ
「日本……っていうか地球は、こう……丸いんですけど」
クロウ
「汚ねえ海でも、こう見ると綺麗に見えっから不思議だぜ」
ウエノ
「堕落の国も丸いんですかね……」
ウエノ
ふしぎな話をしている。
レーラ
「ふむん。考えたことなかったな」
ラタス
「?」
クロウ
「…丸い?」
ウエノ
「ええと……」
ウエノ
べちゃべちゃする砂浜に、そのへんで拾った枝で絵を書く。
ウエノ
おおきなマル。
ウエノ
その上に棒人間が四人乗っかっている。
ウエノ
「世界はこういう姿をしているらしいんです」
ラタス
「おいおい、騙されねえぞ~」
ウエノ
それで、太陽のまわりをこう……ぐるぐるまわってて……
ウエノ
だから朝が来たり夜が来たりするんですよ~。
ラタス
太陽を見たことはない。
ラタス
朝と夜も堕落の国で知った。
クロウ
「へぇ〜」
レーラ
しゃがみ込んでウエノの絵に見入る。
レーラ
「私の所もそんな感じだったなあ」
クロウ
「え、この反対側はどうなんだよ。落ちねえの?」
ウエノ
「それが……落ちないんです」
ウエノ
枝を手からぽとっと落とす。
ウエノ
こうふうに、球体の中心にむかって、あたしたちは磁石みたいに引き寄せられてるんですよ~~。
ラタス
「すげ~」
ラタス
「ウエノって頭いいんだな~!」
クロウ
「なるほど、不思議パワーってやつか…」
ウエノ
「え!? ど、どうなんでしょう!?」
ウエノ
「日本人ならみんな知ってることですし……」
ウエノ
まあ……テストの点数は、そんなに悪いほうじゃなかったですけどね!!
ウエノ
寝る間も惜しんで勉強しましたからね!
クロウ
「ひひひ、そういう時ゃ素直に褒められとけばいいんだよ」
ウエノ
「う!」
ウエノ
「……はい」
クロウ
「で、どーよラタス。海」
ラタス
「いやーいいな!」
ラタス
「広いのがいい」
ラタス
「あと……水がいっぱいある」
クロウ
「わっかる〜」
ウエノ
「同感です」
ラタス
「水がいっぱいあるな」
ラタス
「なんか……わしゃわしゃしてる」
ウエノ
「信じられないほどありますね」
クロウ
「これ全部飲めりゃいいのにな〜」
レーラ
「そうだなあ」
ウエノ
「この……砂浜があり得ないほど汚いのは、日本の海もそうですよ」※場所による
レーラ
「ええ……」
ウエノ
「海ってそんなきれいなものじゃ……ないんですよ!」
ウエノ
※場所による
レーラ
そうなんだ……
クロウ
「へぇ〜」
ラタス
「マスクつけると快適だな」
クロウ
「あ、ずり〜」
ウエノ
「ずるいです~!」
ラタス
「海のいいところだけを享受してるぜ~」
ウエノ
「それ人数分出せないんですか?」
ラタス
「コインが増えたら出るぜ~」
ラタス
※適当言っています。
ラタス
「まあ海の臭さを満喫しておくか……」
ラタス
すーっ、ゲホッゲホッ
クロウ
「ひひひ。せっかくの機会だ、全部味わっておけ」
ウエノ
「いや~やりたいことが叶ってよかったですね!」
ラタス
「いや~よかった。向こうで自慢できるぜ~」
クロウ
「そいつぁよかった」
クロウ
「んじゃ」伸びをする
クロウ
「俺も少し自由させてもらおっかねえ」
クロウ
「ちょっくらあっちまで行ってくらぁ」ぴっ
ラタス
「おう」
クロウ
「あ、ウエノも連れてくからよろしく」ひらひら
ウエノ
「いってらっしゃ」
ウエノ
「ああ!?」
ラタス
「……」
ウエノ
クロウを見る。
ラタス
「……」
ウエノ
それからレーラを見る。
ウエノ
ラタスを見る。
クロウ
「おら行くぞ〜」ふらふらと歩いていく
ウエノ
そんでもってクロウを見る。
ラタス
「……」
ウエノ
「ち」
ラタス
「……!」
ウエノ
「ちがうんです」
ウエノ
「ちがうんです!!!!!!!」
ラタス
「いってらっしゃい」
ウエノ
レーラを見る。
ウエノ
違うんですよお~!
レーラ
「……」
ラタス
「おれはレーラといちゃいちゃすっか~」
ラタス
「な~」
ラタス
レーラに横からぶつかる。
ウエノ
ま、まさか……!?
ラタス
無理やり肩を組む。
レーラ
「はは」
レーラ
「コレの面倒は見ておくよ」
レーラ
いってらっしゃい、という代わりに手を振る。
ウエノ
「い、いってきま~~す……」
ラタス
コレ。
レーラ
コレ。
クロウ
「おーい、行かねーのー?」振り向いて大きな声で
ウエノ
「はいはい!待ってくださいよ!」
ウエノ
岩を乗り越えてもたもた追いかける。
クロウ
「遅かったじゃねえの」ひひひと笑う
ウエノ
「クロウのせいでからかわれてたんですっ」
ウエノ
「まったくもう……」
ウエノ
隣に行く。
クロウ
「堂々としてりゃからかわれもしなかったろうに」
クロウ
隣に来たのを確認して、手を差し出す。
クロウ
「ほれ」
ウエノ
「そ、それは……」
ウエノ
手を見る。
ウエノ
そっと指を重ねる。
ウエノ
「なにを企んでいるんです……」
クロウ
指を絡めるように手をとる。
クロウ
「企んでるなんて、ひでえなぁ」
クロウ
「海デートだよ」
クロウ
手を引いて、二人の距離を近づける。
ウエノ
「……!」
クロウ
「したいって言ってたろ、デート」
ウエノ
「や、やっぱり企んでた!」
ウエノ
しばらく迷って、寄りかかる。
クロウ
もう片方の手で、あなたの頭をぽんぽんと叩く。
クロウ
「ま、つってもただ砂浜を歩くだけだけどな〜」
ウエノ
(子ども扱い……)
クロウ
じー…。
クロウ
「………」
ウエノ
「な、なに」
ウエノ
「歩きましょうよ。デートなんですから……」
ウエノ
今度はこちらが手を引く。
クロウ
「そーだな」
クロウ
ふ、と微笑む。いつもの人を小馬鹿にしたような笑みではなく…。
クロウ
どこか、柔らかな笑み。
ウエノ
「な、なんですかあ……」
クロウ
「いやぁ、別にぃ?」にやぁ
ウエノ
「もー!」
ウエノ
砂浜はべちゃべちゃしている。
ウエノ
真っ黒だし、粘り気がある。
ウエノ
そこをゆっくりと歩いていく。
クロウ
海の水は冷たいが、それは火照ったあなたの体にはちょうど良いだろう。
クロウ
「じゃあ、そうだな…」
クロウ
「今日はデートで…」
クロウ
「明日は、何がしたいよ?」
ウエノ
「な、な、な!」
ウエノ
「あたしの口から言わせるんですか、逐一!?」
クロウ
「そりゃあ…」
クロウ
「お前のやりたいことリスト、だろ?」
いじわるな笑みが君に向けられる。
ウエノ
「鬼……悪魔……」
ウエノ
力ない言葉。
クロウ
「まあ、言わないなら俺が勝手にするだけだけどな」
ウエノ
ながいため息のあと。
ウエノ
歩みをとめて、振り返る。
ウエノ
「……したことないんです」
ウエノ
唇に手をやる。
クロウ
同じように足を止める。
ウエノ
「キス、したことないんです」
ウエノ
「……する時はもっといいところで、お願いしますね」
ウエノ
「海デートもすてきですけど、あはは」
ウエノ
「ちょっとここじゃあ、臭すぎるかも」
ウエノ
繋いだ手を揺らす。
クロウ
「ひひひ、確かにな」
ウエノ
風に髪がなびく。
ウエノ
「クロウは?」
ウエノ
「クロウは、やりたいこと、見つかりました?」
ウエノ
指を絡め直す。
ウエノ
「もし、叶わなかったときに、ショックで死んでしまうような」
ウエノ
「とびっきりのものが見つかったら、」
ウエノ
「あたしも、付き合ってあげますよ」
ウエノ
クロウに付き合ってもらってるみたいにね。
クロウ
「ひひひ、そーきたかー」
手を、少し強く握りなおす。
クロウ
「そうだなぁ…」
クロウ
「さすがに、叶わなかったらショック死まではいかねえけど…」
クロウ
「今は」
少し大きな波が、二人の足元をさらう。
クロウ
手を強く引く。あなたは体勢を崩して、後ろに倒れそうになる。
ウエノ
「きゃっ」
クロウ
そのタイミングで、クロウの手があなたの腰に回り…受け止める。
クロウ
顔が、昨晩と同じくらい…近くにくる。
ウエノ
少女の華奢で細い腰。
クロウ
「お前とキスしてみてえと、俺も思ってるぜ?」
ウエノ
「なっ」
ウエノ
みるみるうちに赤くなって。
ウエノ
「ば、ばかっ」
クロウ
「でも残念だなぁ、こんな汚ねえ海じゃなあ」
クロウ
「もっといいところ、じゃねえとなぁ?」
ウエノ
まるで自分が心臓そのものになってしまった、みたいな。
ウエノ
「い、いじわる!」
ウエノ
「いじわる、いじわる、いじわるったら!」
ウエノ
軽い力で胸を叩く。
クロウ
「ひひひ」
ウエノ
「……まだダメ!」
クロウ
腰を引き寄せて、あなたの姿勢を戻す。
ウエノ
まだうまく顔が見れない。
ウエノ
「まったくもう……」
ウエノ
「た、楽しみにしてますよ」
ウエノ
「それなりにね」
クロウ
「ご期待に添えるよう、努力するよ」
クロウ
「それなりにね」
ウエノ
手を引く。
ウエノ
「あんまり長居すると、ラタスに冷やかされちゃいますよ」
ウエノ
「レーラだってラタスのお守りで、うんざりかもしれません」
ウエノ
なんて理由付けしたけど。
ウエノ
ほんとうはもう、心臓がもたないだけで。
ウエノ
この音が、伝わっていないといいな、と思う。
クロウ
「そうだな、そろそろ戻るか」
クロウ
歩いてきた浜辺を振り返る。
ウエノ
ふたりの足跡の、大きさの違い。
クロウ
大した距離ではなかったけれど、それは二人で歩いてきた証。
ウエノ
いつか波にさらわれても。
ウエノ
心の疵が、覚えている。
ウエノ
「クロウ?」
ウエノ
「行きましょう」
クロウ
「ああ」
クロウ
「行こうか、ウエノ」
GM
明日を待ち遠しいと思うこと。そう思えること。
GM
望みがあること。
GM
それが絶望に処方される薬。
GM
――それは19日目のこと。
GM
サブロール➄ - レーラ&ラタス
ラタス
「まさかいつのまにか出来てたとはな~」
レーラ
「そうだなあ~」
ラタス
まだ肩くんでる。
レーラ
「……」
レーラ
「なんだろうな。別に、出来てても構いはしないのだけど」
レーラ
「改めて言われてみれば、少し複雑かもしれないな」
レーラ
肩を組んでいることはスルーしている。
ラタス
「複雑かぁ」
レーラ
「いや、なんだろうな……ウエノが幸せならそれでいいんだけどね」
レーラ
「いや……クロウがダメという訳でもないんだけど……」
ラタス
「お前にしては歯切れ悪い言い方だな」
レーラ
「む……」
レーラ
「ラ」
レーラ
「ラタスはどう思う」
ラタス
「どうってなんだよ」
レーラ
「ふたりが出来てることについて……?」
ラタス
「そう、だな~」
ラタス
「むしろお前が心配だけどな」
ラタス
「おれが言えたことじゃねーけど」
ラタス
「3人になるだろ」
ラタス
「ふたりに気を使ったりするだろ、お前は」
レーラ
瞬く。
レーラ
「……まあ」
レーラ
「そう、なるのか」
レーラ
視線が足元に落ちる。
ラタス
肩を組むのを解く。
レーラ
「心配されるほどのことはないよ」
レーラ
「私は、誰かひとりきりが好きというわけじゃない」
ラタス
「なら別に心配事はねえな」
レーラ
「そうだとも」
レーラ
「まあ万一、二人との関わり方が変わるようならば一悶着はあるだろうけど」
レーラ
「それは、その時に考えればいい」
ラタス
「そんときは、まあ上手いことやってくれ」
レーラ
「はは」
レーラ
「そのときくらいは、ラタスが恋しくなるかもしれないな」
ラタス
「……」
レーラ
足下に打ち寄せる飛沫を眺める。
ラタス
寄せては返す波。
ラタス
……この波とかいうやつ怖くないか?
ラタス
なんかこう……攫われそうじゃないか?
ラタス
「じゃあ土産の一つでも渡しておくか」
ラタス
手品、ではない。
ラタス
心の疵の力がラタスの手にナイフを齎す。
ラタス
それを渡す。
レーラ
波に揺蕩う何か生き物を見ていた。
レーラ
その眼差しが、持ち上がりきる前に。
レーラ
「は」
レーラ
「……土産?」
レーラ
手のひらに、ちいさく確かな重み。
ラタス
黒く塗り込まれた十字架のようなナイフ。
ラタス
闇に溶け込み、血を浴びても赤く染まらない凶器。
ラタス
「置き土産っつったほうが正しいか?」
レーラ
「……」
レーラ
「はは。笑えんな」
ラタス
「これを見ておれを思い出せ……とは言わないが」
ラタス
「おれがいた証拠くらいにはなる」
レーラ
渡されたそれを握ることもできないで、ただ、手放すこともできない。
ラタス
材質は鋳鉄。ナイフ一本分通りの重さ。
ラタス
心の疵より産まれて、体の一部のように取り扱うナイフ。
ラタス
「そうだな、もし殺すのにウンザリしたとき」
ラタス
「それを凶器にするといい」
ラタス
「そしたらおれのせいにできるだろ?」
レーラ
「……はは」
レーラ
本当に笑えない。
レーラ
いつも通り確からしくない事ばかり、言っていればいいものを。
レーラ
「生憎」
レーラ
「そこまで図々しくはないよ、私は」
レーラ
手の内の帳に、眼差しを向ける。
ラタス
「はは、そうかよ」
レーラ
「そうだとも」
レーラ
「ただ、まあ」
レーラ
握る。掴めない漆黒の輪郭を、確かめる。
レーラ
「万一の護身には使えるかもしれんな」
レーラ
ふたりを覆い隠してきた闇、その一片は、今は手のひらの中。
ラタス
「お前なら使いこなせるだろうよ」
ラタス
半年見てきたんだからな。
ラタス
いや、『見て』はいない。
ラタス
共に戦ってきたから。
GM
GM
*クエストNo.5 海を見に行く 成功!
GM
*クエストNo.5成功により、全員好きに技能を一つ入れ替えてもよいです。
GM
これは裁判前までに決定していればよいものとします。
GM
次はラタスの手番!
GM
PCはレーラで、最後はまたラタスですね。
GM
20日以降になりますので、クエストはなくなります。