GM
みなさま準備はよろしいでしょうか。
ウィル・ホーソン
いつでもどうぞ。
ミュール
大丈夫です。
GM
それでは改めてよろしくおねがいいたします。
GM
それではキャラ紹介からしましょうか。
GM
一応PC番号のあるシナリオなので、PC1のミュールさんからお願いいたします。なんかご自由に説明していただいたあと、心の疵について触れていただけると嬉しいですね。
GM
*PC1 ミュール
ミュール
何の変哲もない人間です。
人に誇れるものも何一つ。
平凡で、平坦で、普通で。
特別なことは、何もない。

──心の疵、でしたか。
ここではそれが意味を持つのでしたでしょうか。

歌を忘れています。
遠い昔、歌うのが好きでした。
いつしか、歌が歌えなくなりました。
綺麗な歌声だと、褒められたこともあったような。

だけどもう、ここにはないものです。

そして、冷めたスープです。
誰も見向きもされない、冷めきった料理です。
手慰みで掬い上げられ、口に運ばれることのない。
そんな、存在でした。抽象的過ぎましたか?
GM
いえ、どうもありがとうございます。
せっかくなので、どうでもいい質問もいたしましょうか。
好きな食べ物はなんですか?
ミュール
甘いお菓子です。
綺麗な細工や色や形。
それを見るのが好きです。
GM
どうもありがとうございます。
GM
この物語は、PC1であるミュールが招待状を受け取り、堕落の国に強制的に招かれたところから始まります。PC2である救世主がミュールを見つけ、物語は動き出します。
GM
それでは、PC2の紹介をお願いいたします。
GM
*PC2 ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソン
魔女は死んだほうがいい。
僕は間違っていない。
ウィル・ホーソン
堕落の国に堕ちてきて、
はじめて殺したのは臨月の女でした。
右も左もわからない僕に、塩味だけのスープをふるまい、
微笑みかけました。
彼女は安楽椅子に身をあずけ、おおきな腹を撫でていました。
そのとき口ずさんでいた歌が、
どんな歌詞だったかは、今はもうわかりません。
ウィル・ホーソン
次に殺したのはボロ布を纏った少女でした。
目が合って、逃げ出したので、
追いかけて殴りました。
二つ結びの髪を引きちぎるように掴むと、
お母さん、お母さん、と泣いていました。
なにか不気味な技を使おうとしていたので、
喉を締め上げて、折りました。
ウィル・ホーソン
僕は間違っていません。
ウィル・ホーソン
「僕はウィル・ホーソンです。以後お見知りおきを……」
ウィル・ホーソン
男は胸に手をあてて、うやうやしく一礼した。
GM
どうもありがとうございます。
心の疵についてはいかがでしょうか。
ウィル・ホーソン
『愛を知らない』

そんなことはあり得ないはずなのに、
あの女が最期につぶやいたことが耳にこびりついている。

「かわいそうに。
あなたは愛を知らないまま、生きて、死んでいくのね」
ウィル・ホーソン
『冷血』

心の疵なんてくだらない。
司教様から賜った旗槍が、
四六時中、囁くのです。睨むのです。
僕を見つめているのです。

「ウィル・ホーソン!」

「お前には血も涙もない」

「青い血が流れている。触れたものは凍えて死んでいく」

「お前は孤独だ。たった一人だ……」
GM
ありがとうございます。どうでもいい質問もいたしましょうか。
1人のときにはどのように過ごしていましたか?
ウィル・ホーソン
「武器の手入れと、掃除ですね」
ウィル・ホーソン
はたきが好きです。
ウィル・ホーソン
鳥の羽なので。
GM
どうもありがとうございます。
GM
それでははじめてまいりましょう。
GM
GM
GM
ミュール。まだそうと名乗る前のあなたに宛てた身に覚えのない一通の手紙が届きます。
ありきたりのあなたの元に届くには、いくらかありきたりではない手紙。
血で染め上げたかのように赤い封筒は、薔薇の形の封蝋で閉じられていて、
開けてみれば、白いレースの便箋と10枚の銀貨が入っています。
それは英語で綴られていますが、何故かあなたにはそれがすらすらと読むことができます。
GM
拝啓、アリス。
愛しいアリス。
きみが目を醒ましてから100年の月日が流れました。
ぶっちゃけ、この国はもう駄目です。
兎は落下し、猫は干乾び、帽子は裂け、女王は壊れ、
大いなる暴力と死が、堕落した国に降り注ぎます。
残ったのは53枚のトランプのみ。
猟奇と才覚、愛によって救われるこの世界で
僕らは今も、新たなアリスを待ちわびています。
GM
それはたいへん、奇怪な内容。
しかしこれを読んでしまったあなたに、もっと奇怪な事態が起きるとは誰が予想したでしょうか。
突如視界が暗転し、不思議な浮遊感に見舞われ、あなたの意識は遠のいていく――。
GM
GM
GM
GM
Dead or AliCe
『It Happens All The Time.』
――それはよくあること。
GM
GM
GM
GM
アリス!子どもじみたおとぎ話をとって
やさしい手でもって子供時代の
夢のつどう地に横たえておくれ
記憶のなぞめいた輪の中
彼方の地でつみ取られた
巡礼たちのしおれた花輪のように
GM
GM
GM
GM
ふと気がつけば、あなたは荒野にいます。
GM
まったく見に覚えのない光景です。辺り一面には砂や岩しかなく、遮るものがないため、乾いた風が絶え間なく訪れては、あなたを置いていきます。
ミュール
歩く。
GM
当然、ヒールのついた靴で歩きやすいような足場ではありません。
ミュール
塵を乗せた風が、髪を揺らす。
GM
砂塵に満ちた大気。青空は見えず、またどこまでも続く荒野に、なにか街のようなめぼしいものもありません。
ミュール
歩き難い。
ミュール
歩き慣れた道ではないから。
ミュール
誰もいない。
ミュール
何もない。
GM
人はおろか、動物の姿も、草木もありません。
この世界に息づくものは、あなたしかいないかのようです。
ミュール
「…………」
ミュール
空を見上げた。
GM
それはどこにもいけないように蓋をされているかのような、重くのしかかるような空です。
ミュール
「雨が降るのでしょうか」
ミュール
呟く声に、返事はない。
ミュール
誰もいない。
ミュール
こうして彷徨って、一体どれくらいの時が経っただろう。
ミュール
時計は逆さに回っているし。
まともな時間を知る術はない。

太陽もない。
重い雲がずっと、頭の上を塞いでいる。
GM
どこまで歩いても、砂と岩と風しかありません。
GM
そして夢が醒めるような兆しもありません。
なぜならこれは、夢ではないからです。
どこまで歩き続ければ、そうとわかるでしょうか。
ミュール
歩いて、歩き続けても。
何処にも辿り着けなくて。
ミュール
重たくなってきた足を自覚しながら、
また、足を踏み出して。
ミュール
だから、足元の小石に気付かなかった。
ミュール
踏み出した足が、
ミュール
崩れる。
ミュール
ヒールで歩くような道ではない。
そんな、優しい世界ではきっとない。

だけど、これしか履いていないのだから。
歩き続けるしかないのだ。

俯いた。
ウィル・ホーソン
全くの偶然だった。
ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソンはその日、“救世主の責務”とやらを果たしたあとだった。
ウィル・ホーソン
30日ごとに救世主を一人殺す。
ウィル・ホーソン
荒野を歩き、村から村へ、救世主を探して歩いた。
ウィル・ホーソン
やっと。やっと、見つけ出して、一人、殺したあとだった。
ウィル・ホーソン
しかし6ペンスコインを得ることはできなかった。これではより多くの魔女を殺すことができない。
GM
殺した救世主はとうに6ペンスコインを失っていたから。
ウィル・ホーソン
なぜコインを失っても、生きながらえていたのか。
ウィル・ホーソン
くだらないと思う。幼いから、弱いから、あわれだから、そんな理由で見過ごすことなど。
ウィル・ホーソン
もう救世主のいない村に用はなかった。
ウィル・ホーソン
次の村へと、荒野に繰り出して、半日ほど歩いたところだった。
ウィル・ホーソン
そう、全くの偶然。
ウィル・ホーソン
あの時、村に一日でも、とどまることを選択していれば。
ウィル・ホーソン
目的地を、また別の村に設定していれば。
ウィル・ホーソン
しかし。
ウィル・ホーソン
今更悔やんでも、もう取り返しがつかない。
ウィル・ホーソン
なぶるような風に、赤い旗がはためく。
ウィル・ホーソン
女だ。亜麻色の長い髪。黒いワンピース。
ウィル・ホーソン
救世主だ。
ウィル・ホーソン
槍を握る手に力が籠もる。
ウィル・ホーソン
互角か、それ以下か。
ウィル・ホーソン
救世主にしかわからない6ペンスコインの差が、はっきりと感じ取れる。
ウィル・ホーソン
幸運だ。こんなところに救世主《魔女》がいたなんて。
ウィル・ホーソン
殺そう。
ウィル・ホーソン
そう思って、踏み出した。
ミュール
足音。
ミュール
顔を上げる。
ミュール
最初に目に入ったのは、
ウィル・ホーソン
最初に目に入ったのは。
ミュール
鮮やかな緑色の瞳。
ミュール
輝くような金の髪。
ウィル・ホーソン
飴玉のような無垢なまなざし。
ウィル・ホーソン
風に流れる亜麻色の髪の、
ウィル・ホーソン
乙女。
ミュール
王子。
ミュール
その言葉がふさわしい。
ウィル・ホーソン
「……っ、」
ウィル・ホーソン
荒々しく踏み出した足が止まり、
ミュール
「………」
ウィル・ホーソン
あきらかに動きを変える。
ウィル・ホーソン
まるで乾いた荒野ではなく、やわらかな絨毯の上を歩くような、慎重な足取りで。
ウィル・ホーソン
「なにか……」
ウィル・ホーソン
「お困りですか、マドモアゼル」
ミュール
「ええと、」
ミュール
躊躇うような沈黙。
ミュール
「足を、挫いてしまって」
ウィル・ホーソン
何を言っているんだ、僕は?
ウィル・ホーソン
殺せ。
ウィル・ホーソン
足を挫いた救世主。
ウィル・ホーソン
おそらく6ペンスコインを持っている。
ウィル・ホーソン
いや、間違いなく。
ウィル・ホーソン
「痛みますか?」
ウィル・ホーソン
手を差し伸べる。
ミュール
警戒をするべき?いいえ。
ミュール
だってほら。
ミュール
差し伸べられた手を、
ミュール
迷うことなく取る。
ウィル・ホーソン
ちいさい、手だ。
ミュール
「お気遣いありがとうございます」
ウィル・ホーソン
白く、細く、華奢で。
GM
ウィル・ホーソン。あなたにはわかるでしょう。
彼女がまるで生まれたばかりのひな鳥のように、この世界のことも知らず、己の宿命もしらないことを。
その首をひねることは容易いことを。
ウィル・ホーソン
なんて殺しやすい。
ミュール
金属のゆびさき。
この人はきっと戦うひと。
ウィル・ホーソン
頭が痺れる。
ミュール
きっと、騎士様なのだろう。
ミュール
誰かを守って、戦うような。
ミュール
御伽噺の王子様。
ウィル・ホーソン
はためく旗が、耳元で囁く。
ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソン。あなたにはわかるでしょう。
ウィル・ホーソン
その首をひねることは容易い。
ウィル・ホーソン
息を飲む。
ミュール
警戒していない。
ウィル・ホーソン
そっと包むように、握る。
ミュール
首をひねることは容易い。
ミュール
なのに。
GM
ウィル・ホーソン。あなたにはわかるでしょう。
この世界は御伽噺の成れの果て。不思議は枯れ落ち、死と破滅しかないことを。
そしてあなたもまた、今まさに死をもたらしてきたばかりであることを。
ウィル・ホーソン
この指で、先程、少女の黒髪を引きちぎった。
ウィル・ホーソン
あのぶちぶちとちぎれる手応えと悲鳴。
ミュール
この手を握る手の、優しい力の込め方。
ウィル・ホーソン
「いえ、気遣いだなんて、そんな」
ウィル・ホーソン
「……そんな、」
ミュール
きっと優しい人なのよ。
ミュール
…………。
ウィル・ホーソン
こんなにうつくしく、あまい香りのするひとは、はじめて見た。
ミュール
「不安だったのです。ひとりぼっちだったから」
ウィル・ホーソン
こんなにかよわく、さみしげに笑うひとは。
ウィル・ホーソン
「不安……」
ウィル・ホーソン
熱に浮かされる病人のくちぶり。
ウィル・ホーソン
「お一人で、ここに?」
ミュール
こんなにうつくしく、優しく笑い掛ける人は、はじめて見た。
ミュール
「ええ」
ミュール
微かな熱に浮き味立つ足。
ウィル・ホーソン
「ここから半日ほど歩いた先に……」
ウィル・ホーソン
「村があります。まずはそこへ向かいましょう」
ウィル・ホーソン
人を殺して逃げだした場所だ。
ミュール
「連れて行って、くださいますか?」
ウィル・ホーソン
「……」
ミュール
そこが安息の地だと、疑わない。
ウィル・ホーソン
「もし」
ウィル・ホーソン
唇を噛み、戸惑う。
ウィル・ホーソン
「よろしければ、お嬢さん」
ミュール
あなたの手が救いだと信じている。
ウィル・ホーソン
「僕が抱えて、連れて行きます」
ウィル・ホーソン
ちいさな指先。
ウィル・ホーソン
そこに触れている自分の手は、
ウィル・ホーソン
先程まで、真っ赤に染まっていた。
ミュール
戸惑う沈黙。彷徨う視線。
ミュール
触れることすら躊躇われる、
ミュール
御伽噺の景色。
ミュール
「……お言葉に、甘えても?」
ミュール
囁くように、返答する。
ウィル・ホーソン
死だ。
ウィル・ホーソン
僕が死んでいる。
ウィル・ホーソン
そのうつくしい瞳に、やわらかな唇に、ソプラノの透明な言葉のひとつひとつに。
ウィル・ホーソン
突き刺されて、死んでいく。
ミュール
あの美しい緑色と視線を合わせられない。
ウィル・ホーソン
答えのかわりに、腰に触れて。
ミュール
だから、表情が分からない。
ウィル・ホーソン
そのままひょいと、抱え上げた。
ウィル・ホーソン
なんて軽いのだろう。
ウィル・ホーソン
僕は笑っていられているか?
ミュール
抱え上げられて、目を見開く。
GM
ウィル・ホーソン。あなたにはわかるでしょう。
ほんとうはどうすべきだったのか、なにが正しいのかを。
己のありようの矛盾を。
ミュール
そっと首に、腕を回した。
ウィル・ホーソン
ひどい痛みと衝撃が体にぶちまけられる。
ウィル・ホーソン
間違っていない
ウィル・ホーソン
間違っていない?
ウィル・ホーソン
間違っている。
ウィル・ホーソン
これは、正しく、ない……?
ミュール
こんな風に、優しく抱え上げられたのは。
ミュール
きっと、はじめてだ。
ウィル・ホーソン
「向かいがてら、お話しましょう」
ウィル・ホーソン
「この、『堕落の国』について……」
ウィル・ホーソン
そう。
ウィル・ホーソン
お話なんて必要ないことはわかっていた。
ミュール
「聞かせて欲しいです。たくさん」
ウィル・ホーソン
わからせるためには言葉なんていらない。
ミュール
「この場所のこと」
ウィル・ホーソン
ただ、この槍で、やわらかい体を穿けば、それで。
ミュール
「あなたのこと」
ウィル・ホーソン
それで終いだったのに。
ウィル・ホーソン
「ええ」
ミュール
「嬉しい」
GM
ウィル・ホーソン。
それがあなたがこれまでにしてきたこと。
信じてきたこと。正しいとしてきたことであったはず。
ミュール
この出会いが幸いだったのだと。
ミュール
いつか、笑う日が来るのかもしれない。
ミュール
あるいは、その逆も。
ミュール
もしかしたら。
ミュール
けれど、この優しい声を。
ミュール
抱え上げてくれる腕を。
ミュール
疑うことなんて、出来もしなかった。
GM
It Happens All The Time.
30日間からなる物語は、二人が出会うことで動き出す。
GM
切り立った刃のような岩の世界。
砂塵は夢か現かのように何もかもを霞ませて。
GM
そして村へとたどり着く。
GM
GM
というわけで、導入は以上です。これよりお茶会に入ります。
GM
DoAは大きく、お茶会と裁判の2つのまとまりに分かれており、お茶会ではお互いの心の疵を舐めたり抉ったり、アイテムを調達するなどして、来たるべき裁判に備えます。
GM
お茶会はそれぞれ1手番ずつ行動するラウンドが2ラウンドあり、その後に裁判となります。
GM
このシナリオでは、救世主の責務と呼ばれる30日間の期限が来るまでの30日日間をお茶会として過ごします。2ラウンドで1人2手番、合計4手番あります。
GM
また、この村は辺鄙なところにある村です。
GM
あなたが他の救世主に出会えるような場所に行くまで、最低15日はかかるでしょう。そのことは、ウィル・ホーソンは知っています。1ラウンド終了時に、15日経過したものとします。村を出て救世主を探しにいくというならば、そのように宣言してください。
GM
このシナリオにはMOD『逆棘』『セルフ横槍』が設定されています。
GM
裁判開始時に心の疵の状態○が●となります。
GM
また、本来なら自分に対しての行動は横槍できないのですが、出来るようになっています。
GM
以上です。
GM
*お茶会 ラウンド1 ミュール
GM
二人が出会ってから3日後。
GM
ここは辺鄙な村で、宿屋らしい宿屋は存在していません。しかし救世主に好意的な村であるため、あなたがたのために民家が明け渡されました。
GM
そこに住んでいた白兎の末裔の娘が、世話役としてあなたがたの生活の手伝いをしています。
ウィル・ホーソン
末裔などという、耳の生えた、悪魔のような種族。
ウィル・ホーソン
そんなやつらに頭を下げて、ミュールを泊めてもらうように頼んだ。
ウィル・ホーソン
ミュール。
ウィル・ホーソン
あの娘の名前らしい。
ウィル・ホーソン
はしたない街娘が履く、安物のサンダルの名前。
ミュール
ミュール。その由来を告げたことはない。
ミュール
元の名前は捨てた。
ウィル・ホーソン
自分は馬小屋でも借りようと思っていた。
ウィル・ホーソン
思っていたの、だが。
ウィル・ホーソン
「おはようございます」
ウィル・ホーソン
それでも。ベッドをともにすることはできないので、床で寝ている。
白兎の末裔
これをおつかいください、と、末裔が慌てて持ってきた、床に敷くための藁であなたは寝ている。
ミュール
ベッドで一緒に寝ればいいのに、と思った。
ミュール
さぞ、床は硬くて冷たいだろう。
ミュール
けれど、それをまだ口に出しはしない。
ミュール
拒絶が怖い。
ウィル・ホーソン
逃げないように見張っているだけだ。
ウィル・ホーソン
次の“責務”までの供物。
ウィル・ホーソン
そういうことにしている。
ウィル・ホーソン
3日も、共に過ごしてしまった理由は。
ミュール
こんな足では何処へも行けない。
ミュール
そういうことにしている。
ウィル・ホーソン
「起き上がれますか? 朝食ができたそうなので」
ウィル・ホーソン
いつも、ウィル・ホーソンはあなたより早く起きている。
ミュール
それを、何となくは察していて。
ウィル・ホーソン
身支度を整えて、“王子様”然とした格好でいる。
ミュール
だから。
ミュール
「いつも早起きなのね、ウィル」
ミュール
「起こしてくれてありがとう」
ミュール
朝は得意じゃない。
ミュール
中々起き上がれない。
ウィル・ホーソン
「しょうがない人ですね」
ウィル・ホーソン
その言葉に、思ったよりも熱が籠もる。
ミュール
「ええ。あなたがいないと困るわ」
ウィル・ホーソン
伝わることを何よりも恐れている。
ミュール
きっと、感じる熱は気のせいだ。
ウィル・ホーソン
「堕落の国は危険なんですよ。ぐうたら眠っているようでは、救世主は務まりません」
ミュール
平凡な村娘を迎えに来る騎士が、
ミュール
一体何処に居る。
ウィル・ホーソン
「さあ、顔をぬぐっておいで」
ウィル・ホーソン
「支度をしておくから」
ミュール
「ええ、」
ミュール
手を差し出す。
ミュール
「足が痛いの」
ミュール
嘘だ。
ミュール
「手を取ってくれる?」
ウィル・ホーソン
動きが止まる。
ミュール
もう癒えている。
ウィル・ホーソン
「仕方の、」
ミュール
立ち上がれるほどには。
ウィル・ホーソン
「ない人だな」
GM
あなたもそれが偽りだとわかるでしょう。
救世主の体は丈夫にできている。この世界の人々よりもよっぽど。
ウィル・ホーソン
慎重な手付き。
ウィル・ホーソン
この女は……
ウィル・ホーソン
僕を陥れ、堕落させようとしているのか?
ミュール
騙されてくれる。
ウィル・ホーソン
指と指が触れ合う。
ミュール
何も言わない。
ウィル・ホーソン
指先が痺れる。
ミュール
指と指が触れ合う。
ミュール
指先の感覚に惑う。
ウィル・ホーソン
頭の中で一連の動作が再生される。
GM
この世界に堕ちてきたものが携える10枚の6ペンスコイン。
それを彼女も持っています。最後に殺した魔女のように、一枚も持ち合わせていないのならばいざしれず。
ウィル・ホーソン
ひねって、引き寄せる。顔を思い切り殴る。硬いベッドに倒れ込む彼女に馬乗りになる。
ウィル・ホーソン
そういった動作。
ミュール
それをするのは容易い。
ミュール
害することも、また。
ウィル・ホーソン
シーツに散らばる亜麻色の髪を夢想する。服の下の瑞々しい肌。薄皮一枚下の血潮。脈打つ心臓と臓物。
ウィル・ホーソン
とった手を、硝子細工をあつかうように、丁寧に引き寄せる。
ミュール
あなたにはそれをする権利がある。
ミュール
掬ったものの、救ったものの権利。
白兎の末裔
「救世主様~? 冷めちゃいますよ~?」
向こうの部屋から呼ぶ声が聞こえてきます。
二人の心の内など、まるで知らない。
ミュール
引き寄せられた。
ウィル・ホーソン
「はい、すぐ行きます」
ミュール
「はい、すぐ行きます」
ウィル・ホーソン
指を軽く握って。
ミュール
声を重ねる。
ミュール
着いて行きますと、握り返した。
ウィル・ホーソン
魔女は死んだほうがいい。
白兎の末裔
食卓につく。並ぶのは薄い粥だ。彩りのあるものはない。
白兎の末裔
水ではなく、ワインのようなもので煮込まれて、据えているのか果物なのか、とりあえず酸味がある。
白兎の末裔
おそらくミュールには、あまりに貧しいくらしのものに感じられることでしょう。
ウィル・ホーソン
そのようなものを口にしていても、ウィルには隠しきれない気品がある。
ウィル・ホーソン
礼を言って、お祈りを済ませたあと、食事をとる。
ミュール
それに従う。
ウィル・ホーソン
この女は、何に祈っているんだか。
ミュール
食事を取る。
ミュール
…………。
ミュール
温かいならば。
ミュール
きっと、どれだって満たされた気持ちになる。
ミュール
祈りの言葉に、対象は必要か。
ミュール
その答えを語ることはない。
ミュール
何一つ言葉にしない。
ミュール
思った言葉はいつも、呑み込んでしまう。
ミュール
いつの間にか、ウサギはいなくなっていた。
ウィル・ホーソン
「心の疵の力によっては」
ウィル・ホーソン
「水や、その救世主の好物を用意することもできるそうです」
ウィル・ホーソン
「そうやって栄えている大きな街もあるのだとか」
ウィル・ホーソン
「貴女の力は、どんなものなんでしょうね」
ウィル・ホーソン
まだ3日。
ウィル・ホーソン
一通りのことは伝えたが、知識があっても、肉や骨は伴わない。
ウィル・ホーソン
それに、伝えていないこともある。
ミュール
「さて、それはどんな疵なのでしょうね」

皿の底が鳴る。

「ご飯や好物の調達が出来るのは」
白兎の末裔
白兎の末裔はミュールになにも語っていません。既にあなたを庇護する救世主がいるのですから、差し出がましい真似はしません。あなたがたに宿を食事を、それから求められたものを提供するだけです。
ミュール
「それが欲しかった?」
ミュール
「手に入らなかった?」
白兎の末裔
当然、あなたが彼女に全てを話していると思っています。
ウィル・ホーソン
濁った色の汁がすこしこびりついた、からっぽの皿。
ミュール
ウサギには何も語っていない。
ウィル・ホーソン
食べきってもらえた粥の皿。
ミュール
ウサギと同じように。
ウィル・ホーソン
笑顔の下でひるむ自分がいる。
ミュール
「心の疵って」
ミュール
「見せられないから、疵になっているんじゃないですか?」
ウィル・ホーソン
笑顔。
ウィル・ホーソン
「僕が貴女に求めるものなんて、ありませんよ」
ウィル・ホーソン
嘘だ。
ウィル・ホーソン
「逆に問いましょうか」
ウィル・ホーソン
「何か欲しいものはありますか、お嬢さん」
ミュール
誰かに求められたことなどない、その言葉を飲み込む。
ミュール
「欲しいもの」
ウィル・ホーソン
「可愛い靴とか、リボンとか」
ウィル・ホーソン
「そういったものだけなら、意外とあるんですよ、この国は」
ミュール
「可愛い靴や、リボンは」
ウィル・ホーソン
「本当に役に立つものは、どこを探してもありませんけどね」
ミュール
「お姫様のためのものよ」
GM
ウィル・ホーソン。あなたは祈り以外の言葉のすべてが白々しいと知っています。
すべてのものがこの世かぎりのものであると知っています。
あなたが彼女に対して、本当に役立つものは、槍一つだけであること知っています。
ウィル・ホーソン
魔女は死んだほうがいい。
ミュール
「ねえ、ウィル」
ウィル・ホーソン
まだ27日もある。ここで殺さないのは正しい。
ミュール
「欲しいものがあるわ」
ウィル・ホーソン
まだ27日もあるんだ。
ウィル・ホーソン
「言ってごらん」
ウィル・ホーソン
あなたに求めるものがないなんて嘘だ。
ミュール
「王子様じゃないあなたが欲しい」
ミュール
*ウィル・ホーソンの心の疵『冷血』を舐めます
ウィル・ホーソン
*横槍をします
ウィル・ホーソン
Choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 才覚
ウィル・ホーソン
2d6+0=>7 判定(+才覚) (2D6+0>=7) > 7[2,5]+0 > 7 > 成功
ウィル・ホーソン
1d6 (1D6) > 6
[ ウィル・ホーソン ] HP : 18 → 17
ミュール
*ティーセット使用します
ミュール
2d6+3-6+2=>7 判定(+愛) (2D6+3-6+2>=7) > 10[6,4]+3-6+2 > 9 > 成功
ウィル・ホーソン
「王子様?」
GM
ウィル・ホーソン。あなたは元より、王子様ではありません。
あなたの務めは、してきたことは、そして正しいと信じていたことは何でしょうか。
ウィル・ホーソン
笑える言葉だ。
ミュール
「ねえ、」
ミュール
「出会った時、鉄錆のにおいがした」
ウィル・ホーソン
「……」
ミュール
「それなのに、私を抱え上げた」
ミュール
「怪我をしている人のすることじゃない」
ウィル・ホーソン
「何か……」
ウィル・ホーソン
「勘違いを、」
ウィル・ホーソン
何を言おうとしているかわからなくなって、黙る。
ウィル・ホーソン
「…………」
ウィル・ホーソン
「隠していたつもりだったんですけどね」
ミュール
「私の手を見て」
ミュール
「何を考えていた?」
ミュール
「時々、私を見て何を考えているの?」
ミュール
「鉄錆のにおいと」
ミュール
「関係があること?」
ウィル・ホーソン
「堕落の国には亡者と呼ばれる化け物がいることは、お伝えしましたよね。
あの日は、大きな三月兎の亡者と戦って、」
ウィル・ホーソン
「…………」
ウィル・ホーソン
これも違う。
ウィル・ホーソン
正しいことがわからない。
ウィル・ホーソン
いや、わかっている。
ミュール
「真実を話すのに」
GM
ウィル・ホーソン。あなたは嘘をついています。
嘘を付く必要などないはず。あなたは成すべきことを成している。
ウィル・ホーソン
まだ27日あるんだ。
ミュール
「随分手間取るのね」
ウィル・ホーソン
許してくれ。
ウィル・ホーソン
まだ27日もあるんだぞ。
ウィル・ホーソン
「貴女を見て考えていること」
ウィル・ホーソン
「貴女は」
ウィル・ホーソン
「貴女は……」
GM
ウィル・ホーソン。罪に身を落として与えることができるのは罰だけのはず。
あなたはそれを信じてきました。そうして、今まで何人の罪人たちを救済してきたのでしょうか。
ウィル・ホーソン
肘にぶつけて、匙が滑り落ちる。
GM
あるいは、それが救済ではないとしますか?
ウィル・ホーソン
「何を考えているように見えますか?」
ミュール
「ウィル、ウィル」
ウィル・ホーソン
「僕が貴女を見て、」
ウィル・ホーソン
「何を」
ミュール
歌うように名前を呼んだ。
ウィル・ホーソン
僕の名前を呼ぶな
ウィル・ホーソン
やめてくれ。
ミュール
「ウィル」
ウィル・ホーソン
僕の血は冷たいんだ。
ミュール
「責めようって、思ったわけじゃないわ」
ウィル・ホーソン
なのに貴女が僕の名前を呼ぶ、それだけで。
ウィル・ホーソン
心臓は脈打ち。
ミュール
立ち上がって。
ウィル・ホーソン
手足に熱がめぐる。
ミュール
落ちた匙を拾う。
ウィル・ホーソン
「そんな、」
ウィル・ホーソン
「……使用人のような真似は、やめるんだ」
GM
ウィル・ホーソン。あなたは責務を果たすため、魔女の言葉に耳を貸さぬよう務めてきた。
いくつもの悲鳴、命乞い、涙を切り捨ててきたのでしょう。
ウィル・ホーソン
地を這うような声。
ミュール
「誰もいないのだから」
ミュール
「私たち以外は、今ここに」
ミュール
「あなたが咎めなければ」
ウィル・ホーソン
『助けて』
ミュール
「罪にはならないのよ」
ウィル・ホーソン
『助けて、お母さん』
ミュール
笑った。
ウィル・ホーソン
『お母さん、助けて──』
ウィル・ホーソン
殺したのは3月兎なんかじゃない。
ミュール
怖がっている?
ウィル・ホーソン
あなたの手にした匙を、あなたの手ごと掴む。
ウィル・ホーソン
乱暴に。
ミュール
咎に追い立てられている?
ミュール
手を取られた。
ウィル・ホーソン
「罪」
ウィル・ホーソン
「僕が間違っているように見えるのですか」
ミュール
「あなたが私が間違いだと云ったのよ」
ウィル・ホーソン
「いいえ、いいえ!」
ウィル・ホーソン
「お嬢さん」
ウィル・ホーソン
「僕は王子様なんかじゃあ、ないんですよ」
ミュール
「良かった」
ミュール
「それを確かめたかった」
ウィル・ホーソン
「僕は……」
ウィル・ホーソン
「僕は…………」
ミュール
手を掴んだ、彼の手を撫でる。
ウィル・ホーソン
言葉のつづきを言えない。
ミュール
「ウィル、ウィル」
ウィル・ホーソン
騎士ですから、とでも言えばよかった?
ウィル・ホーソン
呼ぶな。
ミュール
「いいのよ」
ウィル・ホーソン
やめてくれ……
ミュール
「あなたが何を壊しても」
ミュール
「あなたが何を殺しても」
GM
ウィル・ホーソン。魔女の言葉に耳を貸すべきではありません。
ミュール
「私は責めたりしないわ」
ウィル・ホーソン
殺そう。
GM
ウィル・ホーソン。
ウィル・ホーソン
殺そう。
ウィル・ホーソン
殺すしかない。
ミュール
「ウィル」
ウィル・ホーソン
27日も待っていられない。
ウィル・ホーソン
殺すしか。
ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソンの、篭手越しのつめたい手。
ウィル・ホーソン
それが、かっと熱くなる。
ミュール
「ウィル」
ミュール
「もちろん、殺してもいいわ」
ミュール
「あなたが殺めた、なにかと同じように」
ウィル・ホーソン
「いっ」
ウィル・ホーソン
「嫌だ」
ミュール
あなたの纏う、かおりの一部になる。
ミュール
「簡単よ、ウィル」
ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソン
何を
ウィル・ホーソン
僕は。
ウィル・ホーソン
嫌?
ウィル・ホーソン
何が?
ミュール
跪く。
ミュール
目を閉じる。
ミュール
簡単なことでしょう。
ミュール
簡単なことでしょう?
ミュール
たった3日。
ミュール
出会って、たった3日。
GM
ウィル・ホーソン。さあ、罰を。救いを。
赤く据えた粥を飲み下すように。
ウィル・ホーソン
たった3日。
ウィル・ホーソン
出会って、たった3日。
ウィル・ホーソン
そのへんに掃いて捨てるほどいるような売女。
ウィル・ホーソン
男を一つ屋根の下に迎え入れる恥知らず。
ミュール
そのへんに掃いて捨てるほどいるような売女。
ミュール
男を一つ屋根の下に迎え入れる恥知らず。
ミュール
でもウィル。
ミュール
手を離さないのは、
ミュール
あなたの方なのよ。
ウィル・ホーソン
でも掴んでいる。
ウィル・ホーソン
掴んだままでいる。
ウィル・ホーソン
首をもたげた羊を。
ミュール
もう名前を呼ばない。
ウィル・ホーソン
頭を堕とすこともできぬままに。
ミュール
乞うことも願うこともしない。
ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソンの手が、供物の血によって、暖かく煮えたぎる。
ウィル・ホーソン
目の前の血の粥。
ウィル・ホーソン
「いいえ、いいえ」
ウィル・ホーソン
「ミュールさん」
ウィル・ホーソン
「顔をあげて、僕を見てください」
ウィル・ホーソン
引き寄せて、立ち上がらせる。
ウィル・ホーソン
繊細なものを扱う手付きで。
ウィル・ホーソン
見てください、と言った側だというのに、
視線を合わせられない。
ウィル・ホーソン
「怖がらせてしまって、すみません」
ウィル・ホーソン
「本当に、あの日、僕は亡者を殺したのです」
ウィル・ホーソン
「亡者を……魔女を」
ミュール
視線が合わない。
ウィル・ホーソン
「僕は王子ではなくて、騎士」
ミュール
だから。
ミュール
彼の頬に手を添える。
ウィル・ホーソン
「邪悪な魔女を絶滅させる騎士で、」
ミュール
きちんと視線が合うように。
ウィル・ホーソン
なんてあたたかく、
ウィル・ホーソン
やわらかい指!
ウィル・ホーソン
緑の目の怪物の視線が交差する。
ウィル・ホーソン
「だか、ら」
ウィル・ホーソン
「まだ」
ミュール
それはひとの心をなぶりものにして、餌食にするのです。
ウィル・ホーソン
「まだ、騙されていて、くれないか?」
ミュール
頬を撫でる。
ミュール
「あなたが上手く騙すのよ」
ウィル・ホーソン
あなたの言葉、あなたの指先、あなたの温度。
ウィル・ホーソン
それが冷たい心に直接触れて、
ウィル・ホーソン
そのたびに知らない衝動に、全身が張り裂けそうになる。
ミュール
「女は馬鹿な生き物だから」
ミュール
「抱き締められたら忘れてしまうわ」
ミュール
何かを乞うように、微笑んだ。
ウィル・ホーソン
手が震えていることを、どうか悟らないで。
ウィル・ホーソン
その衝動のままに。
ウィル・ホーソン
貪るように。
ウィル・ホーソン
抱き潰す。
ウィル・ホーソン
匙が落ちる。
ミュール
足が、ステップを踏むように。
ウィル・ホーソン
……音もなく。
ミュール
一歩、二歩。
ミュール
強く抱きしめられる。
ミュール
潰れてしまいそうなほど。
ウィル・ホーソン
僕は……
ウィル・ホーソン
僕は、間違えた。
ウィル・ホーソン
間違えた僕は、死ぬ。
ミュール
「ウィル」
ウィル・ホーソン
死になさい、ウィル・ホーソン。
ミュール
吐息を吐くように、微かな声で名前を呼ぶ。
ミュール
「私は」
ミュール
「これが欲しかったのよ」
ウィル・ホーソン
お前の築いた死体の山に、体を横たえるのです。
ミュール
堅い鎧を剥がしてしまうために。
ミュール
きつい言葉で詰め寄った。
ミュール
その中の柔らかく、温かい心に触れるために。
ミュール
嘘のナイフを振り上げた。
ミュール
背を撫でる。
ウィル・ホーソン
けれど、ここまでよく働いてくれたあなたに、一度だけチャンスを与えましょう。
ミュール
「ウィル」
ウィル・ホーソン
魔女を殺すのです。
ウィル・ホーソン
「はい」
ミュール
魔女は、心を惑わす。
ミュール
それは、一体。
ウィル・ホーソン
天使だ。
ウィル・ホーソン
僕の、天使。
ミュール
目の前の女とどう違う?
ウィル・ホーソン
あまい香りがして、やわらかく、暖かく、
ミュール
何が違う?
ウィル・ホーソン
とろけるような顔で微笑む。
ミュール
それは、魔女の笑みではなかった?
ウィル・ホーソン
もう少し時間をください。
ウィル・ホーソン
神様。
ウィル・ホーソン
まだ、27日もある。
ウィル・ホーソン
まだ……
ミュール
騙されていて、ウィル・ホーソン。
[ ウィル・ホーソン ] 冷血 : 0 → 1
[ ミュール ] ティーセット : 2 → 1
GM
It happens all the time.
ありふれたこと。かくも魔女はその舌と体を用いて、聖なるものを穢すのです。
GM
GM
*お茶会 ラウンド1 ウィル・ホーソン
GM
二人が出会ってから13日後。
GM
村には寂れた教会がある。暮らしぶりのよくないこの村では、あまり手入れがされている様子はなさそうだ。
GM
少女を象った像には、荒野から吹いてきた砂塵が積もっている。
ウィル・ホーソン
かつ、かつ。
ウィル・ホーソン
足跡がついて、埃が舞う。
ウィル・ホーソン
ミュールを連れだって、わざわざここへ来た理由。
ウィル・ホーソン
「あなたの国にはこういった場所はありましたか?」
GM
少女の像は最初のアリスの像だ。エプロンドレスをまとったあどけない少女。物語としての『不思議の国のアリス』を知るものが見れば、ここが信仰の場と思わなかったかもしれない。
ミュール
「遠目から見たことがあるだけで……」
ミュール
少女の像に目を遣る。
ミュール
「なんだか、寂しい場所ですね」
GM
他には白兎としての白兎や、帽子屋としての帽子屋などが彫られたレリーフがある。
ウィル・ホーソン
「救世主信仰」
GM
まだ何もかも堕落する前の姿。発狂し、亡者と成り果てる前の姿が、今や信仰として残っている。
ミュール
「ええと、先程の質問の答えですけれど。
 似たような場所はありました。」

質問の答えとして適切ではなかったと、
判断して言い直す。

「……埃をかぶった、信仰ですか?」
ウィル・ホーソン
「堕落の国は『最初のアリス』が創り出した世界だと言われています」
ウィル・ホーソン
「埃をかぶってはいませんよ。今でも白兎たちなんかは、強く信仰している。現に、よくしてくれているでしょう」
ウィル・ホーソン
「ただ、維持するのが難しいだけ……」
GM
この堕落の国では、掃いても掃いても砂が積もる。何もかもたちまち褪せていこうとする。すり減っていく。
ウィル・ホーソン
「ミュールさんは、神をみつめるためのまなざしを、まだ見つけていらっしゃらないのですね」
ミュール
少女の像に近寄って。
ミュール
見上げる。
ウィル・ホーソン
それを見つめる。
ミュール
「神様」
ウィル・ホーソン
亜麻色の髪の乙女。
ミュール
「あなたは信じていますか?」
ミュール
彼を振り返る。
GM
象られた少女は不思議に目を驚かせている。純真で、不思議なこと何もかもにそのまま不思議と思って口にするような、嘘偽りのなさ。
ウィル・ホーソン
「異端審問の場で」
ウィル・ホーソン
「同じことが言えますか?」
ウィル・ホーソン
咎めるでもなく。
ミュール
少女の像。そのまなざしに耐えられずに視線を落としたのを、気付かれないといい。
ウィル・ホーソン
無垢な少女のいたずらに、微笑みかけるように。
ミュール
無垢な少女の問いだったらどんなに、好かった。
ミュール
「異端と」
ミュール
「裁かれてしまうでしょうか?」
ウィル・ホーソン
「救世主の戦いを、この堕落の国では──」
ウィル・ホーソン
「裁判、と呼びます」
GM
教会に置かれた一つの絵には、まさにその場面が描かれている。
ミュール
裁判。
GM
女王、トランプ兵、白兎に最初のアリス。
ウィル・ホーソン
「そして、裁判の前に行われるのは、訴訟の申し立ての手続きではなく」
ウィル・ホーソン
「お茶会、と呼ばれています」
ミュール
「お茶会」
ウィル・ホーソン
「ティーカップもないのにね」
ミュール
お粥と、落ちた匙を思い出す。
GM
また別の絵には、狂ったお茶会の光景。
ウィル・ホーソン
絵に近づいて、指先でなぞる。
ミュール
彼を見ている。
ウィル・ホーソン
なぞったところにだけ、あざやかな色が現れた。
ミュール
それを魔法のようだと思う。
ウィル・ホーソン
手をはらう。
ウィル・ホーソン
「『心の疵』の力を損なわせたり、あるいはその逆を行い──」
ミュール
心の疵。
ウィル・ホーソン
「いずれ来たる裁判に備えるのです」
ウィル・ホーソン
「といっても、難しいことはありません」
ウィル・ホーソン
「終わったあとになって、あれがお茶会だった、と気付くようなものです。たいていはね」
ミュール
「………」
ミュール
「ウィルも誰かに、」
ミュール
「それをしたことがある……?」
ウィル・ホーソン
頷く。
ウィル・ホーソン
「子守唄を」
ミュール
歌。
ウィル・ホーソン
「なにか、知らない、異国の言葉でしたけれど」
ウィル・ホーソン
「歌っているのを、聞きました」
ミュール
歌は、好きじゃない。
ミュール
歌って。
ミュール
歌うこと。
ミュール
………。
ミュール
「歌声は、好きですか?」
ミュール
「その声は、好ましかったですか?」
ウィル・ホーソン
そのあまいソプラノが、冷たくなっていくのを、
ウィル・ホーソン
知ってか知らずか。
ミュール
凍る声。
ウィル・ホーソン
「絶望でした」
ウィル・ホーソン
「好き、というよりはね」
ミュール
「どうして?」
ミュール
声が震える。
ウィル・ホーソン
「そんな、わけのわからないものが」
ウィル・ホーソン
「銃より、剣より、槍よりも強い世界」
ウィル・ホーソン
「そんなものは、絶望ですよ」
ミュール
彼のまとう、鎧を見た。
ウィル・ホーソン
「人は刺したら死ななければいけないんだ」
ウィル・ホーソン
「女の歌声なんかで、疵付く世界があってはいけない」
ミュール
彼が剣を振るう姿を想像した。
ウィル・ホーソン
「ただ、ね」
ウィル・ホーソン
「ただ……」
ミュール
歌声は疵になってはならない。
ミュール
いつか、誰かがそう言った。
ミュール
思い出す。
ウィル・ホーソン
「どんなものを使ってもいいんですよ」
ウィル・ホーソン
「そのままの貴女だ」
ウィル・ホーソン
「貴女は、救世主なのだから」
ウィル・ホーソン
*ミュールの心の疵『歌を忘れた』を舐めます
ウィル・ホーソン
2d6+3=>7 判定(+猟奇) (2D6+3>=7) > 6[2,4]+3 > 9 > 成功
ミュール
「……歌えなくても?」
ウィル・ホーソン
「歌えないのですか?」
ミュール
「歌えません」
ウィル・ホーソン
「そう」
ミュール
「少し、」
ミュール
「昔話をしても?」
ウィル・ホーソン
「いいよ」
ミュール
少女の靴が鳴る。
ミュール
ここには、綺麗なステンドグラスも。
ミュール
ライトの眩しいステージだってない。
ウィル・ホーソン
「聞きますよ」
ウィル・ホーソン
お茶会。
ウィル・ホーソン
そう、これはもう、心と心のぶつかり合いだ。
ミュール
「昔、とても美しい歌声だと」
ミュール
自分の喉を撫でる白い指先。
ミュール
「褒められたことがあります」
ミュール
遠い昔だ。
ミュール
こんな赤い靴は履けなかった。
ウィル・ホーソン
「そんな気がしていたんです」
ミュール
まだヒールのない、ぺたんこな靴を履いて。
ウィル・ホーソン
「あなたの声を聞くと、なぜか」
ウィル・ホーソン
「なぜか、痛いから」
ミュール
「“歌声は疵になってはならない”」
ミュール
「先生が言っていました」
ミュール
「大好きな先生でした」
ミュール
「──ああ、痛いなら」
ウィル・ホーソン
攻撃を受けている。
ウィル・ホーソン
とびきり不当な呪いを。
ミュール
「歌えなくてよかった。」
ウィル・ホーソン
それだけじゃないんだよ。
ウィル・ホーソン
声だけじゃないんだ。
ミュール
「私の歌声が、あなたの疵にならなくてよかった」
ミュール
「あのね」
ミュール
言葉を落とす。
ウィル・ホーソン
「なにかな」
ミュール
「その先生は」
ミュール
「私の発表会の日に亡くなったんです」
ミュール
「誰も彼もが、内緒にしていた」
ミュール
私一人だけが知らなかった。
ミュール
上手く歌えて、拍手の中で。
ウィル・ホーソン
「まるで、小鳥のようですね」
ミュール
なんにも知らずに笑っていた。
ミュール
「上手く歌えましたと」
ミュール
「云うつもりだった」
ミュール
微かに震えた声。
ミュール
けれど、その瞳は涙を零さない。
ミュール
「後で考えたら」
ミュール
「わたしが」
ミュール
「わたしの、うたごえが」
ミュール
「先生の命を吸って」
ミュール
「美しく響いたのではないのかと」
ウィル・ホーソン
「まるで、小鳥のよう」
ミュール
唇が弧を描く。
ミュール
「だって」
ミュール
「それまでね、」
ミュール
「あなたの歌声は綺麗なだけで」
ミュール
「中身がないと」
ウィル・ホーソン
一歩近付く。
ミュール
「称されていた」
ミュール
「でも、あの歌だけは」
ミュール
「とても美しかったと、」
ミュール
「心を込めた旋律だったと」
ミュール
「みんながそう言った」
ウィル・ホーソン
震える唇を見つめている。
ミュール
死体の上の花が、養分で鮮やかになるように。
ミュール
呪われた歌声。
ミュール
「いっそ、小鳥であればよかった」
ミュール
「歌っているだけで、」
ミュール
「誰の教えも無く、歌っているだけで」
ミュール
「そうしたらきっと」
ミュール
先生は死ななかった?
ミュール
「そんなことを考えていたら」
ミュール
「何一つ、歌えなくなった」
ミュール
「よくある、」
ミュール
「挫折かもしれません」
ミュール
私はもしかして、歌えなくなったことすらも。
ミュール
先生のせいにしている。
ウィル・ホーソン
「いちど、番わせておくのです」
ウィル・ホーソン
「そうして、片方を引き離す」
ミュール
先生の死を受け止められなかったことを。
ミュール
歌声のせいにしている。
ウィル・ホーソン
「恋仲を引き裂かせた小鳥は」
ウィル・ホーソン
「恋人を求めて、毎晩、美しい声で囀る」
ミュール
「恋しくて、鳴くの。」
ミュール
「届きもしないのに」
ウィル・ホーソン
「『あの人はどこ? どこへ行ってしまったの?』」
ウィル・ホーソン
「しかし」
ミュール
もう会えないのに。
ウィル・ホーソン
「あなたは囀ることさえできない」
ウィル・ホーソン
「……でしたら、」
ウィル・ホーソン
「手を」
ミュール
手。
ウィル・ホーソン
そちらへ向ける。
ウィル・ホーソン
何度も繰り返した。
ミュール
誤魔化すように微笑んだ。
ウィル・ホーソン
もう、触っていられないほど、熱い手。
ミュール
触れないでほしい。
ミュール
嘘だ。
ミュール
触れて欲しい。
ミュール
でも、今触れられてしまったら。
ミュール
…………。
ウィル・ホーソン
差し伸べている。
ミュール
恋しいとなく鳥の、
ミュール
羽ばたきに似たような。
ミュール
躊躇うような、指先の動き。
ミュール
手を、
ウィル・ホーソン
掴む。
ミュール
伸ばして。
ミュール
捕まえられてしまった。
ウィル・ホーソン
「囀るかわりに、踊りましょうか」
ミュール
眩暈がする。
ミュール
「ええ」
ミュール
微かに頬が、熱を持つ。
ミュール
ここにいるのは、この席に居るのは。
ミュール
御伽噺のお姫様でなければならないのに。
ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソン。
ミュール
拒めない。
ウィル・ホーソン
そうやって籠絡させてきた女たちと、
ウィル・ホーソン
彼女と、何の違いがあるのですか。
ミュール
……眩暈がする。
ウィル・ホーソン
「力を抜いて」
ミュール
目が眩みそうになる。
ウィル・ホーソン
「僕の動きについてくるだけでいい」
ウィル・ホーソン
「もう」
ウィル・ホーソン
「足は」
ウィル・ホーソン
「治っているんだから」
ミュール
「ウィル」
ミュール
「……ウィル。」
ミュール
咎めるような、それでいて甘えるような。
ミュール
手を引かれるまま、従う。
ミュール
「ずっと、そうして、」
ミュール
「手を引いていて」
GM
ウィル・ホーソン。あなたがどこへ導けるというのでしょう。
ミュール
何処へも行けなくていい。
ウィル・ホーソン
ステップは重く。
ウィル・ホーソン
ひとつひとつに埃が舞い上がる。
ミュール
鳥籠は、鳥を閉じ込めるためのもの。
ウィル・ホーソン
なんてみじめな舞踏会。
ミュール
それを、望む。
GM
ステップを踏めば、砂の積もった床に足跡がつく。
一つは鉄靴の、床板を傷つける騎士の足跡。
一つはヒールのついた女の足跡。
いずれも幼気な少女の足跡ではない。
ミュール
手を、離してしまえば終わりなのに。
ミュール
互いに、離そうとはしないまま。
ミュール
爪先が、踵が。
ミュール
埃を巻き上げる。
ミュール
なんてみじめな舞踏会。
ミュール
でも、私には。
ミュール
これくらいが相応しい。
ミュール
いいえ。
ミュール
勿体ないくらい。
ミュール
「ウィル」
ミュール
呪いを掛ける。
ウィル・ホーソン
呼ばないでくれ。
ウィル・ホーソン
本当に。
ミュール
あなたを縛りたい。
ウィル・ホーソン
喉ごと失っていたらよかったのにね。
ミュール
声すら出せなかったら良かったのに。
ミュール
なら、
ミュール
名前を呼んで、
ミュール
こんな、言葉を吐かずとも。
ミュール
「ウィル、」
ウィル・ホーソン
「そんなに呼ばなくても」
ウィル・ホーソン
「ここに居ますよ」
ウィル・ホーソン
ここで踊りますよ、あなたと。
ミュール
「好きよ」
ウィル・ホーソン
どちらかが灰に、
ウィル・ホーソン
なるまで、
ミュール
「あなたの手が好き」
ミュール
あなたを縛りたい。
ミュール
「あなたの声が好き」
ウィル・ホーソン
言葉をなくす。
ミュール
あなたを縛りたい。
ウィル・ホーソン
ここは地獄だ。
ミュール
呪いを掛ける。
ウィル・ホーソン
「そんなに、慌てなくても」
ミュール
あなたが、離れていく前に。
ミュール
あなたの枷になるように。
ウィル・ホーソン
「お茶会はまだ、始まったばかりですよ」
ミュール
私が、離れていくときに。
ウィル・ホーソン
「……ミュールさん」
ミュール
あなたの疵になるように。
ミュール
「なあに?」
ウィル・ホーソン
「ここに居りますからね」
ミュール
「ええ」
ミュール
手を、握る。
ウィル・ホーソン
あと17日。
ミュール
あと17日。
ウィル・ホーソン
こんな辺鄙な村では、他の救世主は通りかからない。
ミュール
その期限を知らない。
ウィル・ホーソン
見ず知らずの供物で“救世主の責務”を果たすことは、絶望的だ。
ウィル・ホーソン
それを知っていますとも。
ウィル・ホーソン
大丈夫です、うまくやりますよ。
ウィル・ホーソン
焦らなくても。
ミュール
歌えなくなった小鳥が。
ミュール
手を伸ばせば容易く手折れる花が。
ミュール
目の前にいるのに。
ウィル・ホーソン
だから、そんなに囀らなくてもいいよ。
ミュール
囀ることなんてできないと、
ミュール
言ったのはあなた。
ミュール
だからこれは、
ミュール
泣き声の代わり。
[ ミュール ] 歌を忘れた : 0 → 1
GM
GM
ラウンドが一つ終了しましたね。
GM
ここで15日が過ぎようとしています。
GM
ウィル・ホーソン。あなたはミュールに救世主の責務の話をしていませんね。
GM
故に、その判断ができるのはあなただけ。
GM
ここではないどこかへ、救世主を探しに行きますか?
ウィル・ホーソン
知っていますとも。
ウィル・ホーソン
大丈夫、うまくやりますよ。
ウィル・ホーソン
魔女は死ぬべきだ。
ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソン。僕はよく知っています。
ウィル・ホーソン
探しに行くことは、ありません。
GM
わかりました。
GM
それでは、お茶会第二ラウンドに入る前に、シーンを挟みましょう。