GM
一応PC番号のあるシナリオなので、PC1のミュールさんからお願いいたします。なんかご自由に説明していただいたあと、心の疵について触れていただけると嬉しいですね。
GM
いえ、どうもありがとうございます。
せっかくなので、どうでもいい質問もいたしましょうか。
好きな食べ物はなんですか?
GM
この物語は、PC1であるミュールが招待状を受け取り、堕落の国に強制的に招かれたところから始まります。PC2である救世主がミュールを見つけ、物語は動き出します。
ウィル・ホーソン
堕落の国に堕ちてきて、
はじめて殺したのは臨月の女でした。
右も左もわからない僕に、塩味だけのスープをふるまい、
微笑みかけました。
彼女は安楽椅子に身をあずけ、おおきな腹を撫でていました。
そのとき口ずさんでいた歌が、
どんな歌詞だったかは、今はもうわかりません。
ウィル・ホーソン
「僕はウィル・ホーソンです。以後お見知りおきを……」
ウィル・ホーソン
『愛を知らない』
そんなことはあり得ないはずなのに、
あの女が最期につぶやいたことが耳にこびりついている。
「かわいそうに。
あなたは愛を知らないまま、生きて、死んでいくのね」
ウィル・ホーソン
『冷血』
心の疵なんてくだらない。
司教様から賜った旗槍が、
四六時中、囁くのです。睨むのです。
僕を見つめているのです。
「ウィル・ホーソン!」
「お前には血も涙もない」
「青い血が流れている。触れたものは凍えて死んでいく」
「お前は孤独だ。たった一人だ……」
GM
ありがとうございます。どうでもいい質問もいたしましょうか。
1人のときにはどのように過ごしていましたか?
GM
ミュール。まだそうと名乗る前のあなたに宛てた身に覚えのない一通の手紙が届きます。
ありきたりのあなたの元に届くには、いくらかありきたりではない手紙。
血で染め上げたかのように赤い封筒は、薔薇の形の封蝋で閉じられていて、
開けてみれば、白いレースの便箋と10枚の銀貨が入っています。
それは英語で綴られていますが、何故かあなたにはそれがすらすらと読むことができます。
GM
拝啓、アリス。
愛しいアリス。
きみが目を醒ましてから100年の月日が流れました。
ぶっちゃけ、この国はもう駄目です。
兎は落下し、猫は干乾び、帽子は裂け、女王は壊れ、
大いなる暴力と死が、堕落した国に降り注ぎます。
残ったのは53枚のトランプのみ。
猟奇と才覚、愛によって救われるこの世界で
僕らは今も、新たなアリスを待ちわびています。
GM
それはたいへん、奇怪な内容。
しかしこれを読んでしまったあなたに、もっと奇怪な事態が起きるとは誰が予想したでしょうか。
突如視界が暗転し、不思議な浮遊感に見舞われ、あなたの意識は遠のいていく――。
GM
Dead or AliCe
『It Happens All The Time.』
――それはよくあること。
GM
まったく見に覚えのない光景です。辺り一面には砂や岩しかなく、遮るものがないため、乾いた風が絶え間なく訪れては、あなたを置いていきます。
GM
当然、ヒールのついた靴で歩きやすいような足場ではありません。
GM
砂塵に満ちた大気。青空は見えず、またどこまでも続く荒野に、なにか街のようなめぼしいものもありません。
GM
人はおろか、動物の姿も、草木もありません。
この世界に息づくものは、あなたしかいないかのようです。
GM
それはどこにもいけないように蓋をされているかのような、重くのしかかるような空です。
ミュール
こうして彷徨って、一体どれくらいの時が経っただろう。
ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソンはその日、“救世主の責務”とやらを果たしたあとだった。
ウィル・ホーソン
やっと。やっと、見つけ出して、一人、殺したあとだった。
ウィル・ホーソン
しかし6ペンスコインを得ることはできなかった。これではより多くの魔女を殺すことができない。
GM
殺した救世主はとうに6ペンスコインを失っていたから。
ウィル・ホーソン
くだらないと思う。幼いから、弱いから、あわれだから、そんな理由で見過ごすことなど。
ウィル・ホーソン
次の村へと、荒野に繰り出して、半日ほど歩いたところだった。
ウィル・ホーソン
あの時、村に一日でも、とどまることを選択していれば。
ウィル・ホーソン
救世主にしかわからない6ペンスコインの差が、はっきりと感じ取れる。
ウィル・ホーソン
幸運だ。こんなところに救世主《魔女》がいたなんて。
ウィル・ホーソン
まるで乾いた荒野ではなく、やわらかな絨毯の上を歩くような、慎重な足取りで。
GM
ウィル・ホーソン。あなたにはわかるでしょう。
彼女がまるで生まれたばかりのひな鳥のように、この世界のことも知らず、己の宿命もしらないことを。
その首をひねることは容易いことを。
GM
ウィル・ホーソン。あなたにはわかるでしょう。
この世界は御伽噺の成れの果て。不思議は枯れ落ち、死と破滅しかないことを。
そしてあなたもまた、今まさに死をもたらしてきたばかりであることを。
ウィル・ホーソン
こんなにうつくしく、あまい香りのするひとは、はじめて見た。
ミュール
こんなにうつくしく、優しく笑い掛ける人は、はじめて見た。
ウィル・ホーソン
そのうつくしい瞳に、やわらかな唇に、ソプラノの透明な言葉のひとつひとつに。
GM
ウィル・ホーソン。あなたにはわかるでしょう。
ほんとうはどうすべきだったのか、なにが正しいのかを。
己のありようの矛盾を。
GM
ウィル・ホーソン。
それがあなたがこれまでにしてきたこと。
信じてきたこと。正しいとしてきたことであったはず。
GM
It Happens All The Time.
30日間からなる物語は、二人が出会うことで動き出す。
GM
というわけで、導入は以上です。これよりお茶会に入ります。
GM
DoAは大きく、お茶会と裁判の2つのまとまりに分かれており、お茶会ではお互いの心の疵を舐めたり抉ったり、アイテムを調達するなどして、来たるべき裁判に備えます。
GM
お茶会はそれぞれ1手番ずつ行動するラウンドが2ラウンドあり、その後に裁判となります。
GM
このシナリオでは、救世主の責務と呼ばれる30日間の期限が来るまでの30日日間をお茶会として過ごします。2ラウンドで1人2手番、合計4手番あります。
GM
あなたが他の救世主に出会えるような場所に行くまで、最低15日はかかるでしょう。そのことは、ウィル・ホーソンは知っています。1ラウンド終了時に、15日経過したものとします。村を出て救世主を探しにいくというならば、そのように宣言してください。
GM
このシナリオにはMOD『逆棘』『セルフ横槍』が設定されています。
GM
また、本来なら自分に対しての行動は横槍できないのですが、出来るようになっています。
GM
ここは辺鄙な村で、宿屋らしい宿屋は存在していません。しかし救世主に好意的な村であるため、あなたがたのために民家が明け渡されました。
GM
そこに住んでいた白兎の末裔の娘が、世話役としてあなたがたの生活の手伝いをしています。
ウィル・ホーソン
そんなやつらに頭を下げて、ミュールを泊めてもらうように頼んだ。
ウィル・ホーソン
それでも。ベッドをともにすることはできないので、床で寝ている。
白兎の末裔
これをおつかいください、と、末裔が慌てて持ってきた、床に敷くための藁であなたは寝ている。
ウィル・ホーソン
いつも、ウィル・ホーソンはあなたより早く起きている。
ウィル・ホーソン
「堕落の国は危険なんですよ。ぐうたら眠っているようでは、救世主は務まりません」
GM
あなたもそれが偽りだとわかるでしょう。
救世主の体は丈夫にできている。この世界の人々よりもよっぽど。
GM
この世界に堕ちてきたものが携える10枚の6ペンスコイン。
それを彼女も持っています。最後に殺した魔女のように、一枚も持ち合わせていないのならばいざしれず。
ウィル・ホーソン
ひねって、引き寄せる。顔を思い切り殴る。硬いベッドに倒れ込む彼女に馬乗りになる。
ウィル・ホーソン
シーツに散らばる亜麻色の髪を夢想する。服の下の瑞々しい肌。薄皮一枚下の血潮。脈打つ心臓と臓物。
ウィル・ホーソン
とった手を、硝子細工をあつかうように、丁寧に引き寄せる。
白兎の末裔
食卓につく。並ぶのは薄い粥だ。彩りのあるものはない。
白兎の末裔
水ではなく、ワインのようなもので煮込まれて、据えているのか果物なのか、とりあえず酸味がある。
白兎の末裔
おそらくミュールには、あまりに貧しいくらしのものに感じられることでしょう。
ウィル・ホーソン
そのようなものを口にしていても、ウィルには隠しきれない気品がある。
ウィル・ホーソン
「水や、その救世主の好物を用意することもできるそうです」
ウィル・ホーソン
一通りのことは伝えたが、知識があっても、肉や骨は伴わない。
白兎の末裔
白兎の末裔はミュールになにも語っていません。既にあなたを庇護する救世主がいるのですから、差し出がましい真似はしません。あなたがたに宿を食事を、それから求められたものを提供するだけです。
白兎の末裔
当然、あなたが彼女に全てを話していると思っています。
ミュール
「見せられないから、疵になっているんじゃないですか?」
ミュール
誰かに求められたことなどない、その言葉を飲み込む。
ウィル・ホーソン
「そういったものだけなら、意外とあるんですよ、この国は」
ウィル・ホーソン
「本当に役に立つものは、どこを探してもありませんけどね」
GM
ウィル・ホーソン。あなたは祈り以外の言葉のすべてが白々しいと知っています。
すべてのものがこの世かぎりのものであると知っています。
あなたが彼女に対して、本当に役立つものは、槍一つだけであること知っています。
GM
ウィル・ホーソン。あなたは元より、王子様ではありません。
あなたの務めは、してきたことは、そして正しいと信じていたことは何でしょうか。
ウィル・ホーソン
「堕落の国には亡者と呼ばれる化け物がいることは、お伝えしましたよね。
あの日は、大きな三月兎の亡者と戦って、」
GM
ウィル・ホーソン。あなたは嘘をついています。
嘘を付く必要などないはず。あなたは成すべきことを成している。
GM
ウィル・ホーソン。罪に身を落として与えることができるのは罰だけのはず。
あなたはそれを信じてきました。そうして、今まで何人の罪人たちを救済してきたのでしょうか。
GM
ウィル・ホーソン。あなたは責務を果たすため、魔女の言葉に耳を貸さぬよう務めてきた。
いくつもの悲鳴、命乞い、涙を切り捨ててきたのでしょう。
GM
ウィル・ホーソン。魔女の言葉に耳を貸すべきではありません。
ウィル・ホーソン
ウィル・ホーソンの手が、供物の血によって、暖かく煮えたぎる。
ミュール
それはひとの心をなぶりものにして、餌食にするのです。
ウィル・ホーソン
そのたびに知らない衝動に、全身が張り裂けそうになる。
ウィル・ホーソン
けれど、ここまでよく働いてくれたあなたに、一度だけチャンスを与えましょう。
GM
It happens all the time.
ありふれたこと。かくも魔女はその舌と体を用いて、聖なるものを穢すのです。
GM
村には寂れた教会がある。暮らしぶりのよくないこの村では、あまり手入れがされている様子はなさそうだ。
GM
少女を象った像には、荒野から吹いてきた砂塵が積もっている。
GM
少女の像は最初のアリスの像だ。エプロンドレスをまとったあどけない少女。物語としての『不思議の国のアリス』を知るものが見れば、ここが信仰の場と思わなかったかもしれない。
GM
他には白兎としての白兎や、帽子屋としての帽子屋などが彫られたレリーフがある。
GM
まだ何もかも堕落する前の姿。発狂し、亡者と成り果てる前の姿が、今や信仰として残っている。
ウィル・ホーソン
「堕落の国は『最初のアリス』が創り出した世界だと言われています」
ウィル・ホーソン
「埃をかぶってはいませんよ。今でも白兎たちなんかは、強く信仰している。現に、よくしてくれているでしょう」
GM
この堕落の国では、掃いても掃いても砂が積もる。何もかもたちまち褪せていこうとする。すり減っていく。
ウィル・ホーソン
「ミュールさんは、神をみつめるためのまなざしを、まだ見つけていらっしゃらないのですね」
GM
象られた少女は不思議に目を驚かせている。純真で、不思議なこと何もかもにそのまま不思議と思って口にするような、嘘偽りのなさ。
ミュール
少女の像。そのまなざしに耐えられずに視線を落としたのを、気付かれないといい。
GM
教会に置かれた一つの絵には、まさにその場面が描かれている。
ウィル・ホーソン
「そして、裁判の前に行われるのは、訴訟の申し立ての手続きではなく」
ウィル・ホーソン
「『心の疵』の力を損なわせたり、あるいはその逆を行い──」
ウィル・ホーソン
「終わったあとになって、あれがお茶会だった、と気付くようなものです。たいていはね」
ウィル・ホーソン
「女の歌声なんかで、疵付く世界があってはいけない」
GM
ウィル・ホーソン。あなたがどこへ導けるというのでしょう。
ウィル・ホーソン
見ず知らずの供物で“救世主の責務”を果たすことは、絶望的だ。
GM
ウィル・ホーソン。あなたはミュールに救世主の責務の話をしていませんね。
GM
それでは、お茶会第二ラウンドに入る前に、シーンを挟みましょう。