GM
それでは……みなさま準備はよろしいでしょうか。
GM
二人の救世主がいました。
男と女、それぞれの名をウィル・ホーソンとミュールといいます。
二人は荒野で偶然出会い、30日間を共に過ごしました。
GM
最後の日、二人は荒野にて裁判を行い、ウィル・ホーソンはミュールを殺しました。
救世主が救世主を殺す。
それはよくあることです。
GM
しかし、ミュールは再び生きることを望みます。
想いは、あるいは妄執は届き、ミュールは立ち上がりました。
その生命の5分の4を亡者へとやつし、再び歩きだしました。
GM
そのために、たったそれだけのために、どれだけを費やしたでしょうか。猟奇、才覚、愛。命とコイン、そして時間――。
GM
ある日、死者を蘇らせる力を持つ救世主の噂を耳にします。
GM
あなたは今、荒野を進んでいます。街道こそありませんが、道なき道ではありません。馬車の轍が残り、真っ直ぐ北へと続いています。
GM
「死者を蘇らせる力を持つ救世主が、これより北の森にいるという噂です。その救世主は、『魔女』と呼ばれています」
GM
「実際に再会出来たという人も、数多くおります。ああ、ちょうどそこにいるコックの末裔は、死んだ娘と再会することができたそうですよ」
GM
「おお、『魔女』の噂かい。魔女の力は本物さ。亡者に殺されたおれの娘と、北の森で再会することができたんだ。死んじまったなんてまるで悪い夢だったみたいに、一緒に楽しく暮らしているぜ」
GM
「そういえば、うちの向かいに越してきた白兎の末裔も、『魔女』の力を借りるためにきたそうです。初めて会ったときは浮かない顔をしていましたが、今ではすっかり元気そうです」
GM
ウィル・ホーソン。今に至るまで、あなたはどうやって過ごしてきましたか?
ウィル・ホーソン
救世主を名乗る不遜な魔女どもの命を葬りながら、これまで生きてきましたよ。
ウィル・ホーソン
特に、変わった事があった訳ではありません。
ウィル・ホーソン
死にかける事も、まあ、何度か。ゆきずりで行動する事になった救世主に、共に旅をしないか提案された事も、一度くらいは。
ウィル・ホーソン
そんなくだらない馴れ合いに興味は無いので、丁重にお断りしましたが。
GM
しかし、あなたの姿は変わりました。六ペンスコインが30枚になったから、だけではないでしょう。
ウィル・ホーソン
ただ歩いているだけ、呼吸をするだけで、肺が、心の臓が、灼かれるように苦しいのです。
ウィル・ホーソン
しかし、なぜか止まることができない。
GM
ずいぶんと歩いてきましたが、森らしいものは見えてきません。いつもの曇天、辺り一面は砂と岩ばかりで、堕落の国のうんざりするほどありきたりな光景が続いています。
GM
あなたは堕落の国で大切な人と離れ離れになりました。
GM
ある日、離別した者との再会を叶える救世主の噂を耳にします。
GM
あなたは今、荒野を進んでいます。街道こそありませんが、道なき道ではありません。馬車の轍が残り、真っ直ぐ南へと続いています。
GM
「離別した者との再会を叶える救世主が、南の森にいるという話よ。その救世主は、『魔女』と呼ばれているの」
GM
「私も、私を置いていってしまった母と再び出会えたの。この村には、『魔女』様に願いを叶えてもらった末裔が多く住んでいるわ」
GM
「あそこで荷車を引いているおじさんは、確か死んだ妻と再会したとか。そう、『魔女』様の力は、相手が生きていても、死んでいても構わないの。心から会いたいと思えば、どんな人とも再会できる」
GM
ミュール。今に至るまで、あなたはどうやって過ごしてきましたか?
ミュール
誰かとそこで、時を過ごして。
誰かのコインをそこで奪った。
ミュール
『きみはすごくかわいい子』
『みんなに愛される子だよ』
ミュール
手掛かりなんて無くても、何処にも影が見えなくてもやめることなんて出来なかった。
そして、ついでのように救世主を殺めた。
一人殺せば、もう全部同じだった。
血の温度も、悲鳴も、もう見慣れてしまった。
そして、危機に陥ること。打開することにも。
ミュール
赤い靴は荒野を進む。
ただ、彼に会いたい──それだけで。
GM
ずいぶんと歩いてきましたが、森らしいものは見えてきません。いつもの曇天、辺り一面は砂と岩ばかりで、堕落の国のうんざりするほどありきたりな光景が続いています。
GM
風はすぐにやみましたが、視界は白く霞んでいます。
GM
ミルク色の濃い霧が、辺りを覆いつくしています。冷たく、重く、静けさへと沈む霧の中に、あなたはいます。
GM
狼狽と共に一歩でも足を踏み出せば、さらに気がつくことでしょう。足元は砂や岩ではなく、柔らかく湿った土。そして濡れた落ち葉。視界を阻むのは霧ばかりではなく、無数の木立です。
GM
あなたは霧の中、そして森の中にいます。さきほどまで荒野にいたはずですが、砂も岩も曇天もなく、深い霧の立ちこめる森の中にあなたはいます。
GM
そして向こうから足音が近づいてきます。ゆっくりと、歩く速さで、あなたの元へ。
GM
Dead or AliCe
『I Miss You.』
――あなたが恋しい。
GM
このセッションでは、特殊なMODが使用されています。
GM
PKが心の疵を抉るとき、また抉られるとき、代わりにPLがロールするMODです。ロールだけであり、データはPKが心の疵を抉ったものとして処理されます。ラウンド2より、PKの心の疵をすべて●であるとき、このMODは無効化されます。
GM
心の疵が力を持ち、現実になるこの世界において、目の前の愛しき人は本当にただの幻影でしょうか。いっそ正気を失い、疑うことを忘れてしまえば幸せになれるのでしょうか。
GM
合流するまで別行動となるMODです。合流するまで、PC1とPC2は互いの心の疵に触れること、互いを対象とした行動に横槍をいれること、宝物を融通することができません。代わりに、自分を対象にした行動に横槍をいれることができます。
ラウンド2より、PKの心の疵をすべて●であるとき、合流することができます。
GM
これより、ふたりは魔女の生み出すphantomに出会います。
GM
幻影、亡霊。それを打ち破ることで、二人は出会うことができるでしょう。
GM
そうした偽りで心が満たされるというのなら、出会わなくてもよいのですから。
GM
PKの行動がダイスの出目に左右されづらくなるMODです。PKがお茶会で判定を行ったあと、〔最大HP/10(最大4)〕点減少させることで、2d6の出目を7に変更できるようになります。
GM
GMの絶対にえぐりたい、という気持ちが前面に押し出されたMODです。
GM
ラウンド1のシーンについては、ウィル・ホーソン、PK(ウィル・ホーソンの心の疵を抉ります)、ミュール、PK(ミュールの心の疵を抉ります)と行動します。
GM
またこのシナリオには、シーン表がございます。
GM
The Inquisitor and the Witch シーン表1d12
1:いつのまにか荒野にいる。ありふれた光景に見えるが、何故かあなたにはわかる。二人が初めて出会った場所だ。
2:いつのまにか辺鄙な村にいる。二人が30日間を過ごしたあの村だ。
3:いつのまにか寂れた教会にいる。少女を象った像には、荒野から吹いてきた砂塵が積もっている。
4:いつのまにか民家の寝室にいる。荒野を吹き抜けてぶつかってくる風と、それに小屋が揺すぶられる音。
5:いつのまにか暗く、小さく、湿った部屋にいる。薄汚れた娼館の一室だ。
6:ミルク色の霧が立ちこめる森の中、二人の足音だけがある。
7:ミルク色の霧が立ちこめる森の中、二人の足音だけがある。
8:ミルク色の霧が立ちこめる森の中、二人の足音だけがある。
9:いつのまにか街にいる。賑やかな通りに店が建ち並ぶ。二人で歩いたことはないはずの街だ。
10:いつのまにか店にいる。靴、リボンに洋服。着飾るものが並んでいる。
11:いつのまにか店にいる。その店の名物はシフォンケーキで、香ばしい匂いがする。
12:ホワイトアウト。霧が深くなり、すぐそこにあるはずのものさえ、触れなければ確かめられない。
GM
各シーンのプレイヤーは手番の開始時、1d12か、あるいは選択してシーンを開始してください。
GM
2:いつのまにか辺鄙な村にいる。二人が30日間を過ごしたあの村だ。
ウィル・ホーソン
湿った落ち葉を踏むと、じゅうと焦げたにおいがする。
ウィル・ホーソン
これまで、闇雲に進み続けてきた。意味も意思も見出だせず、亡者のようにゆくあてもなく。
ウィル・ホーソン
ただ乾き、痛み、熱い喉を潤すために、ありもしない蜜を探し続けた。
ウィル・ホーソン
あかりに誘われる蛾のように、追う。
ウィル・ホーソン
ふわふわと浮くような、まどろみのように思える大地。
ウィル・ホーソン
今、自分が右足を踏み出したかどうかも定かではない。
ウィル・ホーソン
溺れるような湿度のなかで、息を飲む。
ウィル・ホーソン
その名前を呼ぶのは、ほんとうに、ほんとうに
ウィル・ホーソン
曰く、この森には、魔女がいるとか。
ウィル・ホーソン
魔女は、死者を蘇らせる、くだらない力を持っているとか。
ウィル・ホーソン
あの美しいソプラノを、殆ど忘れかけていた事に気付いた。
ウィル・ホーソン
忘れないと、何度も反芻して、痛いほど刻みつけていたのに。
GM
忘れてしまうころには、忘れてしまったことさえ忘れてしまうもの。
ウィル・ホーソン
油をさし忘れた玩具のような足が、よろつきながら、一歩踏み出す。
ウィル・ホーソン
己の中で止まった時間が、再び流れ出すような心地。
ウィル・ホーソン
『死んだ女が蘇るなんて事はありえない』
ウィル・ホーソン
『ウィル・ホーソン。僕は何度間違えたら気が済むのです』
GM
救世主と救世主は殺し合うもので、相手の心の疵に触れることならばなんでもするのが救世主です。
ウィル・ホーソン
とっさに黒く煤けた右手で掴もうとして、やめる。
GM
黒く煤けた右手は、あるだけで霧を溶かしています。水の粒である霧が、右手の帯びる高熱によって水蒸気に戻り、透明になるためです。
ウィル・ホーソン
焦がれる熱をこらえて、思い切り抱きしめる。
ウィル・ホーソン
あの日々とまったく、変わる事のない体温。
ウィル・ホーソン
僕ばかりが取り残されてしまった。
GM
形があり、温度があり、湿度があり、質感があり、動きがある。
ウィル・ホーソン
あの時間から切り離されて、しがみつく事もできずに、壊れて。
ミュール
形があり、温度があり、湿度があり、質感があり、動きがある。
ウィル・ホーソン
「その時に、僕も一度死んだのです」
GM
そのときのことを思い出すかのように、世界が形を変える。
GM
会いたいという思いが目の前の想い人を作るように。
GM
2:いつのまにか辺鄙な村にいる。二人が30日間を過ごしたあの村だ。
GM
ただ、ミルク色の霧が薄く掛かっています。夢であるかのように。
ウィル・ホーソン
『あの人はどこ? どこへ行ってしまったの?』
ミュール
「ええ……だから、会いに来てくれたのでしょう」
ウィル・ホーソン
「僕は、とても愚かになってしまった」
ウィル・ホーソン
「手にはいらないと知りながらそれを求める事程、馬鹿な事はない」
ウィル・ホーソン
「それじゃあ、ミュールさん。僕は…」
ウィル・ホーソン
「ここで貴女と一緒に死んだほうが、良いんだろうか」
『魔女の』フェイダ
Choice[猟奇,才覚,愛]
(choice[猟奇,才覚,愛]) > 猟奇
『魔女の』フェイダ
2d6+1=>7 判定(+猟奇)
(2D6+1>=7) > 7[2,5]+1 > 8 > 成功
[ 『魔女の』フェイダ ] ヤリイカエリート : 1 → 0
[ 『魔女の』フェイダ ] HP : 14 → 13
『魔女の』フェイダ
合計5点のマイナス修正で、判定してください。
[ ウィル・ホーソン ] ティーセット : 1 → 0
ウィル・ホーソン
2d6+4+2-5=>7 判定(+猟奇)
(2D6+4+2-5>=7) > 11[5,6]+4+2-5 > 12 > 成功
ウィル・ホーソン
「貴女はそれで良いと言う訳がない」
ウィル・ホーソン
「間違えさせてくれないだけだ、貴女が」
ウィル・ホーソン
「僕を狂うだけ狂わせておいて…」
ウィル・ホーソン
たわむれのように、愛おしくてたまらない、というように。
ウィル・ホーソン
「貴女の愛を、疑った事はありませんよ」
ミュール
「貴女はそれで良いと言う訳がない、と言った」
ウィル・ホーソン
「ここにずっと居られたなら、どんなに幸福な事だろうと思う」
ウィル・ホーソン
「だから、ここに居ることは……できない」
ウィル・ホーソン
「貴女が望まないでしょう、そんな事は」
ウィル・ホーソン
身体の中の熱く焦げた感情が、臓腑を灼いていく。
ミュール
「あの時の約束が、まだあなたを縛っている」
GM
10:いつのまにか店にいる。靴、リボンに洋服。着飾るものが並んでいる。
GM
品の良い調度品が並ぶ、高級店という佇まいの衣料品店です。
GM
こんな上等な店は、大きな街にしかありえない。
GM
こんな、プレゼントを選ぶのにうってつけの店は。
ウィル・ホーソン
あの村では、お似合いですね、なんて言われもした。
ウィル・ホーソン
先程、ここには居られないと言ったばかりなのに。
ウィル・ホーソン
「貴女が何が好きなのか、わからない」
ウィル・ホーソン
「貴女が喜びそうなものがわからなくて」
ミュール
「ひとりだと、また足をくじいてしまうかもしれないから」
ウィル・ホーソン
「ほんと、あの演技は見ものだった。いつまで経っても、足を痛めているふりをして」
ウィル・ホーソン
「それに付き合ってやっていた、僕も僕だけれど…」
ウィル・ホーソン
「こういう店を見かけると、つい入ってしまうんだ」
ウィル・ホーソン
「貴女に靴くらい、買ってやればよかったって」
ウィル・ホーソン
煤けた指輪がひとつ、光っている。
ウィル・ホーソン
「もう居もしない女の為に、指輪を買うくらいには」
ウィル・ホーソン
「誰も愛してはいけない、と、貴女は言った」
ウィル・ホーソン
「貴女以外、誰も愛してはいけないと」
ウィル・ホーソン
「ここで一緒に死ぬ事なんて、できない」
『魔女の』フェイダ
*ウィル・ホーソンの心の疵『焦がれる』を抉ります。
[ ウィル・ホーソン ] HP : 21 → 20
ウィル・ホーソン
Choice[猟奇,才覚,愛]
(choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
ウィル・ホーソン
2d6+1=>7 判定(+愛)
(2D6+1>=7) > 6[4,2]+1 > 7 > 成功
[ ウィル・ホーソン ] ヤリイカ : 1 → 0
『魔女の』フェイダ
2d6+4-4=>7 判定(+愛)
(2D6+4-4>=7) > 10[6,4]+4-4 > 10 > 成功
ウィル・ホーソン
「この優しい嘘の中にいる事を選べれば」
ウィル・ホーソン
指輪が手の中に隠されて、見えなくなる。
ウィル・ホーソン
「胸の中に消して消えない炎があって、それが絶えず、僕の身体を内側から焼くのです」
ウィル・ホーソン
「何をしても、けして消えることはない。癒えることもない」
ウィル・ホーソン
「喉が乾いてたまらない。満たされることがない。腹を空かせた犬のように、この堕落の国を、歩き続ける事しかできない」
ウィル・ホーソン
掻き抱く。乱暴に、いつかのように。
[ ウィル・ホーソン ] 焦がれる : 0 → -1
[ 『魔女の』フェイダ ] 喪失 : 0 → -1
ウィル・ホーソン
嘘だらけの世界で、貴女が言った言葉だけが真実。
ウィル・ホーソン
眼の前の女は、貴女だ/貴女じゃない
ウィル・ホーソン
唇すらも、舌すらも、熱く、抉っていく。
ウィル・ホーソン
肋骨を潰し、舌を噛みちぎる。愛している、と血のあぶくの中でもがくように言う。
ウィル・ホーソン
そう言ってやれば、それで済んだのに。
GM
夢から醒めるように、ミルク色の霧の中、森の中。
GM
そして濡れた落ち葉の中に、ミュールの亡骸がある。
GM
それを甘い夢想で埋めることはできませんでした。
GM
身を焦がす苦しみが現実であり、真実であり、愛でした。